私の向上心

向田邦子のエッセイで「手袋を探す」という作品がある。
私が出会ったのは30代も終わりが見えかけてきた、というタイミング。
ず・ず・ずいっと心を持ち上げてもらえたような気がして励まされた。

作中、22歳の彼女は気に入った手袋がなく、ひと冬を手袋なしで過ごす。
そんな彼女に親切な上司が「君のいまやっていることは、ひょっとしたら手袋だけの問題ではないのかもしれないねぇ。」「今のうちに直さないと一生後悔するんじゃないのかな。」と忠告をしてくるのでだが、寒い夜を長い時間歩き、彼女は自分自身の嫌な部分をすべてやってやると決めるのだ。

”わたしは何をしたいのか。
わたしは何に向いているのか。
なにをどうしたらいいのか、どうしたら差し当たって不満は消えるのか、それさえもはっきりしないままに、ただ漠然と、今のままではいやだ、何かしっくりしない、と見果てぬ夢と爪先立ちしてもまだ届かぬ、現実に腹を立てていたのです。確かに手袋は手袋だけのことではありませんでした。”

40歳を越えてなお、私には夢見がちなところがあって、まだ何者かになれると信じている節がある。
自己否定を繰り返し、くたくたになりながら、自己肯定感ブームのこの時代に「まだこんなもんじゃない」と心のどこかで思っている。
つまり私も手袋を探しているのだ。
向田さんの生きた時代と比べれば、女の独身者にも市民権は与えられ、なんやかんやなんじゃかんじゃどんなもんやと生きやすくなったのだと思うけれど、それでもやはり世間の風は時に冷たいものもある中で、「理想が高い」「わがまま」「贅沢」と言われながらも平気な顔で自分にぴったりくる手袋を探して歩いてゆく。

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