【短編小説】シオン

今年もこの季節がやってきてしまった。と、地面に咲いているシオンを見て認識する。
時間とはあまりにも無常で非常なものだ。あなたを失ってしまった「秋」という季節、顔も、声も、あなたの手の温もりでさえ、少しずつ私の記憶から薄れているのが分かってしまう。
「あなたは…今…どこにいるの…?」
わかってはいることだ。返事は返ってこないことも、二度と声を聞くことすらも出来ない、と。しかし、自分の精神を少しでも安定させるためには現実逃避することしか出来なかった。


たまに、あなたがこの世界にいる幻影を見る。
触れることなどできるはずないのに触れようとしてしまって、幻が灰に変わっていくのをただ見ることしか出来ない。縋ることが出来ない。
傍から見たらなんと惨めなのだろうか。一度受け入れたはずだったのに、これこそが「運命」だと、あなたはただ「旅立つ」だけなのだと。
しかし、やはり、無理だった。受け入れることか出来なかった。到底、代わりなんていなかったし見つけれるはずがなかった。見つける気すら起きなかった。
私のいる場所にはもう光がなく、終着点には影しかないのだ。

私は決してあなたの事を忘れないように、思い出したくもない記憶を思い出して
そして文を綴る
「これは愛染というものなのだろうか、私があなたに持った感情は恋なんて綺麗な言葉で片付けていいものなのか分からないけれど」
ゆっくり書いていくうちに筆が遅くなるのがわかる。やはり、無意識下で拒否反応なるものが現れてしまっているのだろうか。
「私とあなたとの逢瀬は、いや、逢瀬だと思い込んでいたものは、あなたにとって有意義なものだったのだろうか」
今更抱いても意味の無い不安が脳を支配し、字のバランスが崩れる。
「もうあなたはどこにもいないものね、問いかけても無駄な話か」
更に文脈まで崩れ始める。手が震え始め、思考がまとまらなくなり、負の感情が、闇が、心を支配する。
途端に、ただ、叫ぶ。ただ吠えるように、嗚咽を零しながら、叫ぶ。目からは涙が落ち、書いていた紙を濡らす。あぁ、でも、そんな事どうでもいい。いらない。
………わたしは…あなたのいない世界なんて…
…想像したくない…生きていたくない…
なんてそんなことを思いながら、咽び泣く
…やだ…思い出にしたくない…
未だに覚えてる…この手の温もりを…忘れたく…ない…


シオン、それは秋に咲く花。
青藍の空模様から、天色の空に、逢魔ヶ刻にも、様々な写りようのある花。


シオンの花言葉は「遠くにある人を思う」
といった言葉がある
がもうひとつ、それは…………





「追憶」




私の中で…生き続けますように…

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