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「逆じゃねぇ?」その1

ワシの実家は鳶である。

正確には大工兼鳶。

今で言う「注文建築」、昔風なら「たたき大工」なんである。


確か中学生のころ、じっちゃんに聞かされた実話である。


町内の八百屋の大将から自宅兼店舗新築工事を請け負ったじっちゃん。

当時としては珍しかった鉄筋コンクリートの立派な自社ビルである。

気合い入れて良い仕事になったそうな。

この大将東北出身で、確かずーずー弁丸出しであったと記憶している。

無事に自社ビルは完成し、引き渡しも完了。

大将は、意気揚々と新築自社ビルに引っ越してきた。


と、その当日いきなりじっちゃんに怒鳴り込みの電話がきたそうな。


「頭領、いやぁ流石にたいすたもんだべ。んでも、1カ所だけ、なーすてこんなに使い辛く設計したんだべーか?」


「はぁ?使い辛いっていーますと、どこがでしょう?」


「便所だべぇ、便所!こんじゃ、紙取るのにいっついつテー変だんべよぉ!」


オカシイ?と思いながらも、やはり新築でケチが付いちゃならねーと思い、早速大将を訪ねたそうな。


しかしどう見ても完全にノーマル。何もおかしくない。設計ミスでも建築ミスでもない。


「旦那、全く正常ですが、何が不自由なんで?」


「な~ぬ言ってんだべ頭領!こんでどーやって紙とるんだべ?」


この大将、カンカンに怒って便座に座って実演し、不自由さをアピールした。

その再現ドラマを見たじっちゃんはぶっ飛んだ。

「旦那、そりゃぁ逆だぁ!」

この大将、便座にまたがり、貯水タンクを両手でしっかり抱っこして、トイレットペーパーをゲットするために、ほぼ120度くらい腰を回転させていた。

不自由なはずだぜぃ。


じっちゃんはご祝儀(絶対口止め料だぁ!)を貰って帰ってきたそうな・・・・・。

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