妙安寺の化け太鼓(2)終

日緑は村の衆から貰った握り飯を四つも頬張り
風呂に入れて貰った後に 寺へ向かった
蜘蛛の巣が張って床には茸が生えている始末だ
日緑は 題目を唱えた後 軽く掃除をして
そこで横になったと思えばそのまま寝入ってしまった

夜更けになった 日緑の耳に入ったのは
やはりどん どん どん と鳴る音だ
日緑は数珠を握りしめ 題目をぽつぽつと
唱え出した 邪魔するように音がより騒がしく
なるが日緑は全く動じない すると暗闇から
棒のようなものが風を切って飛んで来た

日緑は棒を振り払い 暗闇に向かって

さてはうぬは法華太鼓であろう!誰にも
叩かれず 散り散りになった僧の怨念と悲しさで
化けて出たのだな!わしが供養してやる!

と言いはなった後 太鼓の音らしきものは
消えてしまった 

翌朝 日緑は村人を呼び 寺の掃除を頼むと
奥からぼろぼろになった太鼓を引っ張り
村人にこう言った

皆の衆 これが化け物の正体じゃ 有難い
題目を書かれていながらも誰にも叩かれず
ましてや村人からも知らぬ存ぜぬされていた
それ故に寂しくて 気づいてほしくて
このように悪さをしておったのじゃ

と 皆の衆は申し訳なさそうに 太鼓に題目や
念仏を唱えた 日緑は薪に火をつけ 太鼓を
燃やし その最中に題目を朗々と唱えた
それからは日緑が寄進を依頼して廻り
浄財によって新しく妙安寺が建立された

そして日緑は太鼓も新しく新調し題目を書き込んで 自らが寺の僧となり 89歳の時に亡くなるまで27年間近隣の人々の為に尽くしたという事だ
題目太鼓はそれからは代々の僧に受け継がれ
今日に至っても法要に使用されているんだと

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