夫婦の思い込み

 彼は植木職人だ。

 最近3階建ての小さな家が増えて仕事は減っている。しかし、ここ埼玉ではまだ家を建てて一人前という考えが残っており、結構仕事がある。

 昼食は妻の作ったお弁当だ。冷凍食品ばかりだが子どもの分も作っているし、妻には感謝している。

 ただ1度だけ妻の作ったお弁当を捨てたことがある。マクドナルドが食べたくなったのだ。そんなことしなくても妻にマクドナルドが食べたいから今日は弁当はいらないよと一言言えば済む話なのだが、エプロンをしてキッチンでバタバタと働いている妻に圧倒されると、申し訳なくて言い出せなかった。

 弁当をこっそり捨ててマクドナルドの揚げたてのポテトを頬張ると、とても幸せな気持ちだった。この行動は言い訳ではあるが妻を愛しているからであり、傷つけたくなかったからだった。

 私は毎日3個お弁当を作っている。娘2人と夫の分。夫は植木職人なので雨の日は仕事が休みだ。

 雨で洗濯物を部屋に干している上に夫が家にいる。だから雨が嫌いだ。たまにはマクドナルドでも買って食べてほしい。

 私はなんの猜疑心もなく、いや、考えることも面倒になり、ただお弁当を作っている毎日を送っている。

 今日は快晴だ。夫も子どもも出かけた。私はゆっくりと紅茶を飲みながらジグソーパズルを作り始める。ピースの凹凸がきちっとハマるととても気持ちがいい。

 作り上げるまでにいろいろな試行錯誤があるが最後には必ず絵が完成するジグソーパズルが私は好きだ。ピースをなくさないようにしながら注意深く組み立てる。前進はあるが決して後退はない。ジグソーパズルは必ず完成して、無造作に我が家の壁を飾っている。

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