映画「春原さんのうた」

directed by杉田協士
starring:荒木知佳、新部聖子、金子岳憲、伊藤沙保

美術館の仕事を辞め、カフェでのアルバイトを始めた沙知(荒木知佳)は常連客から勧められ、家具一式残していくからそのまま使ってもいいというアパートの部屋に引っ越してくる。そこでの新しい生活を始めたが、心には、もう二度と会うことが叶わないパートナーの姿が残っている。喪失感をそのまま受け入れて、カフェで出会う人、自分を心配して訪ねてくる叔父たちと自然体で触れ合っていく。

この映画には元ネタというか、作家・歌人の東直子による歌集「春原さんのリコーダー」の表題歌「転居先不明の判を見つめつつ春原さんの吹くリコーダー」をもとにして作られたストーリーだ。
どこかほわっとした感覚が終始漂い、背景事情の説明がいっさいない。
アパートのドアはいつも開けっ放し。風がよく通って気持ちいいという設定だが、沙知が大きな喪失感の中にいるから・・・というのがよく伝わるシチュエーションだ。つまり、誰かに入ってきてほしい・・・ドアを閉ざすと否応なく、自分一人きりだということを実感してしまうし、大切なあの人はもういないということを実感してしまうから・・・ドアを開けて風が始終入ってくる、その音と風で「あの人がいつかそばにきてくれる」という淡い想いを持ち続けていたいから・・・というのがわかる。

沙知がアルバイトしてるカフェがとてもユニーク。
これ、東京なんだよね? 駅から結構歩く、歩く・・・
そう、沙知のアパートにしたって、駅から結構歩く、歩く。
その街並みが妙に不思議な・・・都会じゃない感じ? がすごく新鮮。
私が普通に年に何回も行く東京は、東京のほんのわずかな部分しか見てなくてそこで暮らす人たちの馴染みの景色とは全然違うんだろうなぁと。
「きのこや」という、かなり狭い、でも、2階席もある、店というより「誰かの家」的な雰囲気。民宿?っぽい感じ。
沙知さんは、実は書家だったの?っていうシーンもあり。

叔父さん?に対しても、不思議な距離感がある。
この醸し出す雰囲気がなんとも印象的で、何も劇的なこともなく、意味不明も多い作品なのに、この雰囲気がず~っと印象に残った作品でした。

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