映画「TILL ティル」

原題：TILL
directed by Chinonye Chukwu
starring Danielle Deadwyler, Jalyn Hall, Frankie Faison, Haley Bennett, Whoopi Goldberg

1955年、イリノイ州シカゴ。夫が戦死した後、メイミー・ティル（ダニエル・デッドワイラー）は空軍で唯一の黒人女性職員として働きながら、14歳のエメット（ジェイリン・ホール）と暮らしていた。ある日、エメットは初めて故郷を離れ、自分たちのルーツである、ミシシッピ州のマネーという街の親戚を訪ねる。鉄道で結ばれた同じアメリカでありながら、都会のシカゴと、南部の田舎のマネーでは、社会構造が全く違っていて、戦後でありながらも、いまだ黒人差別が厳しいミシシッピ州での状況を知らないエメットが心配でならないメイミー。母親として何度も本人に言い聞かせ、滞在先の親戚宅でも何度も「気をつけて」と言われていたエメットだったが、基本「自分に憎しみの感情を持っている人々」に囲まれて生きるという実情を実感として味わったことがない・・・そういう素直すぎる性格が災いしてしまった・・・
軽い気持ちで、店番の白人女性に対して「口笛を吹いた」・・・たったそれだけのことで、白人たちの怒りを買い、拉致され、壮絶なリンチを受けて殺され、川に投げ捨てられた。
我が息子の変わり果てた姿をその目でしっかり見届けたメイミーは、この凄惨な事件を世に知らしめるため、我が息子の遺体を葬儀の場で周囲に見せ、さらに写真も新聞に公開した。彼女の姿は黒人たちに勇気を与え、一大センセーショナルとなって社会に広まっていくが・・・肝心の裁判は、あくまでもミシシッピ州での判断に終わってしまう・・・

これも実話・・・
こういった黒人であるがために理不尽な仕打ちを受け、リンチを受け、命まで奪われる・・・という事件はアメリカでは数限りなく・・・しかも、大昔ではなく、２１世紀の今ですら、決して根絶されていない・・・
ほんとにうんざりするほど酷い話・・・で、こんなことがまかり通っていることに唖然としてしまうが、本当に昔話ではない・・・というところが情けない。
これを書いているとき、トランプ前大統領の「America First」の言葉が大きな拍手で賞賛されている映像を見ていたのだが、この人がいう「America」って「White」一色なんだろう・・・
１９５５年に起きたこの事件・・・６０年以上たって、やっと２０２２年の「エメット・ティル反リンチ法」成立へと繋がった・・・、６０年もたって、このメイミーさんもこの世を去った後になってやっと・・・だ。その間、罪を犯した白人たちはふつ〜に何の罪にも問われず生活してきたのだ・・・「やっと法律が平等になった、よかった」では済まされないし、社会構造は変わってきたかというと、ほんとにまだまだ・・・この作品も数々の映画祭で高評価・数々の賞を勝ち取りながら、肝心のアメリカ・アカデミー賞ではノミネートもされなかったという現実がある・・・
ウーピー・ゴールドバーグ氏が、制作側にも名前を連ね、本当に久しぶりに演技の方でも姿を見せてくれた。