映画「コットンテール」
原題:COTTONTAIL
directed by Patrick Dickinson
starring : Lily Franky(リリー・フランキー)、Ryo Nishikido(錦戸亮)、Tae Kimura(木村多江)、Rin Takanashi(高梨臨)、Ciaran Hinds, Aoife Hinds
最愛の妻を亡くし、心すさんでいる兼三郎(リリー・フランキー)。一人息子の慧(とし):錦戸亮とは、どうもお互い気持ちが通い合わない。しかし、妻でもあり母でもあった明子(木村多江)がいなくなった今、二人はどうしても向き合わざるを得ない。しかも、明子は「自分が亡くなったら、遺骨を灰にして、イギリスのウィンダミア湖に散骨してほしい」と頼んでいた。わだかまりを抱えたまま、兼三郎と慧と、慧の妻、さつき(高梨臨)と孫のエミは、ロンドンに向かう。ささいなことから衝突してしまう兼三郎は単身、ロンドンからウィンダミア湖に向かうのだが、慣れない外国のこと、列車を乗り間違え、道に迷って途方にくれる。雨の中、たまたま助けてくれた二人(Ciaran Hinds, Aoife Hinds)、その娘もまたかけがえのない母を亡くし、父親と二人の生活をしていた。彼らと語らううちに、兼三郎もまた、慧(とし)と二人、明子の願いを叶えようと再び湖を目指す。
コットンテールというのは、ウサギのこと。ピーター・ラビットの故郷といわれる地方にあるという湖・ウィンダミア湖・・・妻の明子が大切にしていた写真、子供の頃、イギリスに住んでいた時に親子で行ったという大切な思い出の場所。そこに自分の遺灰を撒いてほしいという最期の願いを叶えたい・・・残された夫が妻との日々を回想しながらのロードムービー・・・というと、高倉健さん主演の「あなたへ」を彷彿とさせる。ただ、本作は、感情的にうまく噛み合わない父と息子という家族の絆の再生物語でもあり、錦戸亮さんの久々の映画出演でもあった。リリー・フランキーさんと錦戸亮さんの父と息子役の共演というのも、なかなかなかったんじゃないかな。どこが気に入らないとか何かじゃなく、なにかどうしても「気が合わない」ってのは、親子であってもあるんだよね。異質感というか。木村多江さんにもリリー・フランキーさんにも顔立ちからいって全く似てない感じの錦戸亮さんを充てたという配役の妙も、すごくうまくいってた。これが似た者親子感が出ちゃう配役だと話が嘘になってしまう。異質感がある「父と息子」というところ、すごくよかった。
イギリスまで行って、やっぱり何かと衝突してしまう・・・そしてついに「一人で行くわ」と勝手に行ってしまう兼三郎は、案の定、道に迷って・・・ある牧場にたどり着き、そこでイギリス人父娘の家に助けを求める・・・とつとつと経緯を語り、また、娘も自分たちも大切な人を亡くした経験を語る・・・この場面、すごく地味なんだけど、父と娘の醸し出す雰囲気が非常にしっくりしていて、この二人、本当に父と娘という間柄ではないか?と思った。ファミリー・ネームも同じだし。
ぶっきらぼうな父親と言葉少ない娘・・・不思議な距離感もあったりするが、互いに信頼しあってる間柄だという雰囲気がすごく伝わった。
彼らにウィンダミア湖まで連れていってもらって、一件落着・・・かと思ったら、明子の持っていた写真の風景とまるで違っていた。
ここで「やはり、これはあなたたち家族の問題だよ」と兼三郎に促し、兼三郎もやっと息子の慧(トシ)に連絡を入れ、心からの言葉で一緒にあの湖を探そうと伝える。
なるほど、こういう回り道を経て、二人が交わるのか・・・と。
もちろん、その後も、ギクシャク感がいきなり変わるかというと、そんな豹変はせずに、ギクシャクしながらも、二人が進んでいく姿、この演出、巧かったなぁ。
やっと辿り着いた「写真と同じ場所」に、明子の遺灰をまき、旅が終わる。
そこに広がるなだらかな草の茂る丘陵地に、ふと、幼い孫娘がうさぎを見つける・・・ああ、明子さんの魂が、やっと心通いあった父と息子・・・自分のいない後を生きていってくれる家族たちを見守るように現れたのかなぁって終わり方だった。
ほとんど日本人俳優で日本人の名もなき家族の辿る話をイギリスの監督さんが撮った・・・というちょっとなかなか珍しい映画でしたが、素敵な余韻で終わっていくところ・・・素敵でした。
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