アダルト版カレンダーガール5〜地中の怪鳥

アダルト版カレンダーガール5〜地中の怪鳥
2024/04/01校正追記
2024/01/13校正訂正 

グロい描写、及び、事実とは異なる描写が多数存在します。
(主に過去のFacebookからの再編集ですm(._.)m )

@リニア列車内にて

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あたし達は超高速軌道列車で移動中
に大きな事故に巻き込まれた
天と地は何度もひっくり返り
左右上下に激しくGが働き
あたしは意識を手放した。

気がつくとあたしはブルーの座席シートごとマネージャーである彼女に抱きしめられていた。
「椎奈、あたしは一体どうしたというの?」
手や足に鈍くも強い痛みを感じながらあたしは彼女に尋ねざるをえなかった。
見てはなりません、ご主人様
そう言われたような気がした。
あたしの右手が変な方向にへし曲がって血が大量に吹き出ているのがチラリと目に入った。
さらにその先にはこの世とも思えないような惨状が繰り広げられていたとも知らずにあたしは彼女に感謝の言葉を述べた。
「ありがとう、椎奈、貧乳なあたしでもあんたの豊満で柔らかな胸のおかげで助けられたみたい」
あたしはいつもしているように左手を彼女の背中に回して抱きつこうとして驚いた。
いつもの彼女は決して太っている方ではないが肉付きはほどほど良く、柔らかで吸い付くような感触はあたしの夜の欲求を満足させるに値するものだった。
例えそれが冬物の厚手なスーツで覆われていようともあたしはその上からでもその肉感に己の欲望を抑えきれなくなることは度々あった。
それがどうした?
今あたしの左手指先から伝わってくる感触はスーツの布地の感触ではなく、柔らかな肌の感触でもない、ごとつごつとした油まみれの金属のような感触だった。
「ご主人様、この車輌に蓄えられた蓄電源もやがて失われます」
何言ってんだコイツ、などと思いながらあたしは全身を襲い出した寒気を感じていた。
「取り敢えず左手の出血を止めました、あとは・・・・」
そこから先は聞き取れることなくあたしは深い眠りについた。
彼女の豊満な胸とむっちりとした両太ももから伝わってくるあたたかさだけがあたしをこの地獄から守ってくれたという事実を後に知ることになるのだけれど。

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冬の寒い朝、あたし、倶名尚愛と秘書の椎奈は震えながら地下50メートルにある新品川駅のホームで名古屋行きの超高速軌道列車を待っていた。
「なんでこんなに深くにあるのにこんなに寒いの?つうか、何回エスカレーターを乗り継ぎさせれば気が済むわけ?」
あたしは口をとがらせて秘書に抗議をしていた。
「ご主人様、我が党の方針をご存知じゃなかったのですか?」
秘書の椎奈は冷たく言い放った。
そうなのだ、あたしが所属する政権与党は表向きは一回の国政選挙が行われる度に党本部から数千万円の軍資金が与えられていることになっているがこれ実はあたし達が党に負わされる巨額な借金なのだ。
そんな党がわざわざハイヤーで東京名古屋間の送り迎えをしてくれる筈がない。

「それにしてもいつ来てもここって閑古鳥が鳴いているっつうかその閑古鳥さえまばらなんだけど、どんだけ人気がないんだって言うか」
あたしは人まばらなホームを見回しながらつぶやいた。
ホームといっても実際にはそんなイメージは全くない。
列車の姿はもちろん、それが走る軌道の姿さえ見えない。
実際に見渡した印象は駅のホームというよりは大型商業施設のエレベーターホールに近いイメージがある。
左右に数十メートル単位の間隔を置いてエレベーターのようなドアがあるイメージだった。
そこのドアを通りその先にある危険物探知機の間を通り2〜3メートル先のドアを抜けるとやっと超高速軌道列車の車輌に乗り込めるわけ。
もちろん危険物探知機に引っ掛かれば即刻搭乗拒絶で身体拘束である。
まあそれがいやだから私はヤバそうなものは全てトランクケースの中に放り込み、事前に係の人に手渡してあるんだけど。
それでも今はまだ列車の到着する時刻ではないのでここで待つしかない、ので指を咥えって待っているより他はないというわけ。
「まあこんだけ搭乗手順が煩雑なのに数十分しか違わないのなら在来の東海道新幹線を使うわな」
あたしはそう言うと背伸びをして椎奈の目をみて微笑んだ。
「こんなんで本当に収益大丈夫なわけ?乗車券だって新幹線とほとんど変わらないみたいだし」
あたしは疑問を感じて言いながら椎奈の目を見た。
「ご主人さまらしからぬ愚問(ぐもん)ですねえ、何のために国民の反対を押し切ってまでクーポン券を配っているとお考えですか?」
 椎奈は涼しげに微笑みながら言った。
「ハイハイ、クーポン券という名前の税金補填というわけですね、そんなこと知ってましたよ、最初から」
それにしてもノンストップのタキオンが1時間に3本で各駅のかなえが1時間に1本って酷くないですか?
「本来の予定では速い方から順に『のぞみ』『かなえ』『たまえ』のネーミングにする気だったようですが『のぞみ』が既に新幹線で使用済みだったのと諸般の事情により「たまえ」のみが採用となったようでございます」
椎奈はそう言うと紺色スーツの右内ポケットから小型の端末タブレットを取り出して操作を始めた。
「珍しいですね、2〜30分の遅延が発生しているようです」
そう言った椎奈に見せてもらえたタブレット画像には遅れている理由は記載されてはいなかった。
周囲を見回してみたが同様に端末などで確認している人はいる様子だけど誰も怒り出す人はいなかった。もっとも苦虫を潰したような顔をしたおっさんは数人いたけど・・・。

「2〜30分かぁ、それはキツイな」
あたしはそう言いながら背負っていたリュックサックの中から携帯ゲーム機を取り出しスイッチを入れた。
「あれ?ちっともネットに繋がらない」

あれほど苦労して持ち込んだのに。
『誰れも知っているスイッチ入れるだけでどこでもゲームできるアレでしょ』
と改札持ち物検査の人に何度説明しても信用してもらえなかった。
むしろ誰でも知っているアレだったからか?
『偽装した爆発物だったりジャミング発生装置だろう!』
などと疑われ(うたがわれ)てしまったようだ。
まあその場はなんとかゲーム画面を幾つか起動して疑いを晴らすことが出来たがJK衆議院議員であるあたしがとんでもない18禁ゲームオタクだと知れ渡ってしまう危険性が発生してしまった可能性があるということだ。
もちろん高校生である以上は法律違反なのは言うまでもない。
まあ流石に逮捕されるような事は無いと思いたいが。

「深い地下だから電波が届かないのでは?」
涼しい顔をして椎奈は言った。
なるほど、地下十数階だもんな、電波だって、んなわけあるかい!
「Wi-FiもG5もG6もフル完備の駅だよ!」
「それもそうですね、何故でしょうか?ご主人様は分かりますか?」
いや、椎名よ、それはあたしが知りたいのだが・・・。
「あ、こっちの端末も反応しなくなりました」
他人事のように椎奈は言いながらタブレットを激しく上下に振り始めた。
まさかとは思うけど、振ったり叩いたりすれば正常に動作するとでも思っているのだだろうか?
とても時価数億円のヒューマノイド型ロボット、アンドロイドとは思えない。
「嫌なことでも思い出しましたか?ご主人様」
少し困惑した表情で椎奈は言ってあたしの顔を覗き(のぞき)こんだ
「あー、もうだからあたしにご主人様とかそんなお堅い呼び方はやめよう、って何度でも言っているし」
あたしは椎奈の豊かな胸の狭間に頭を突っ込んで愚痴(ぐち)ってしまう。
このふたりの距離感はあたしが彼女はアンドロイドであることを意識している限り永遠に縮まらないかもしれない。
「だからご主人様はプライスレスだと申し上げています」
椎奈はそう言うとあたしの頭を優しく撫でてくれた。
とは言ってくれてもあたし自身、自分のどこがプライスレスで特別なのかわからなかった。
その姿勢のままどれほど時間が過ぎただろうか?
頭の中でアナウンスの声が鳴り響いた。
『本日は遅れまして大変申し訳ありません、6時ちょうど発のあずさ、じゃない、名古屋行きスーパーエクスプレスタキオン予定通り30分遅れて間もなく到着です』
ちょ、ちょと、これ始発だよ?名古屋から来た車両の折り返しじゃないんだよ?
あたしはその時のアナウンスの異常さに全く気がついていなかった。
後々考えれば普通なら言わないことが『あずさ』と言う謎ワードで覆い隠されていたんだ。
それがどうしてこんなに遅れてホームに入るのかききたいくらいだよ。
顔をあげて抗議を始めたあたしの目の前には同様に困惑をする表情を浮かべる椎奈がいた。
「確かに甲府よりはこちらに車両基地があるはずですからそこからやって来る車輌がこれほど遅れると言うのもおかしな話ですね」
そう言っている間に超電磁誘導列車特有の音と共にゴムタイヤによる微かな振動と音も床から伝わってきた。
その音が止むと同時にアナウンスの声が頭に響いた。

『遅れまして大変申し訳ありません、お客様のご着席を確認次第、名古屋行きスーパーエクスプレスタキオン発車させて頂きます』
どうやらその声はチケットを右耳に差し込んだ人間にしか聞こえないらしい。
その逆もありなんだろう。ってそれってプライバシーの侵害じゃなくね?さっきの心の中のグチも駅の管制センターに筒抜けなんだろうか?
どうりでさっきから遅れていることに対する怒りの声をあげないわけだ、と気がついた。
いちいち声に出して抗議しなくとも駅員達には脳を通してその声は伝わっていると言うわけだ。
もっとも駅員自体このホームには一人もいないわけだけどその声なき抗議に対応するのは大変そうだ。
ほんの少しだけNR東海の職員さんに同情した。

すぐ前、1番ホーム搭乗口全てにある左右に開く戸が開き姿を見せた通路の上部に取り付けられた換気扇が全力で回転している音が聞こえてきた。
「これって不法侵入者を屠殺(とさつ)するために充満させてあった神経毒ガスを吸い出すためにあるって都市伝説があるの知っていますか?」
くすくす笑いながら椎奈はあたしの耳元で囁いた。
「そ、そんなわけあるかい!私らは家畜か!」
『愚民どもは黙れ!あ、すみませんつい反応してしまいまして、あ“〜!セクハラしないでください、いや、い、い、いやぁ〜あ“〜!あ“〜!あ“〜!』
やはりこの脳波通信システムは基本的に問題だらけなんじゃなかろうか?考えた奴は逮捕だな。
『おい、ごら〜!J党のアイドル気取りが、私よりも若いからって偉そーにして、あ!ごめんなさい、思わず本音を、あ“〜!あ“〜!あ“〜!(ピー)出しだけはやめて、あ“〜!あ“〜!あ“〜!あ“〜!今日は排卵日、あ“〜!あ“〜!あ“〜!あ“〜!あ“〜!あ“〜!』
う、うん、きかなかったことにしようか。

まあ確かにあり得ない話じゃない、事実我が党の(ピー)教会がらみの集会ではテロ対策として犯人を個室に誘導して神経ガスで身動きを取れなくする案が大真面目に検討された経緯があったからだ。
もちろん人質が取られたりガスが漏れたりで関係のない人が二次被害に遭う危険性を指摘されて却下となったがもしかしたら我が党の暗黒時代ならそのまま通ってしまったかもしれない。

続いて通路奥の左右に開く2枚戸が開くと車輌のドアが上方向にスライド式で開いていた。

『はぁ、はぁ、ご利用ありがとうございます、はぁ、はぁ、はぁ、大変申し訳ありませんがお客様がご予約の席は進行方向にここから先、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、2輌目にあります4号車12Aと12Bでございます、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、快適な旅をごゆっくりとご堪能ください、あ“〜!あ“〜!あ“〜!あ“〜!あ“〜!だから今日は危険日だって、いた〜い!裂けそう!あ“〜!あ“〜!あ“〜!あ“〜!あ“〜!』
女性の柔らかな〇〇に立派な〇〇を〇〇されていそうな泣き叫ぶ声が頭の中で鳴り響いた。
どうやらあたし達は搭乗すべき入り口を間違えてしまったようだ。オマケに案内のお姉さんは又々(ピー)出しされてしまったようだ。
いちいち外に出るのも面倒だし歩いて車輌間を移動することにしたがこの脳に直接響く案内はなんとかして欲しいものだ。
まあ直接乗客に接触することなく接客ができ、人員を削減できたりテロ対策になったりするメリットはあるのかもしれないがいつも見張られているような気がして正直あまり良い気がしない。
それにあちらのプライバシーも筒抜けな気がする。
「あ、ここですね」
椎奈はそう言うとあたしに手招きをして先に窓側に座るように促してきた。
椎奈よ、その気持ちは大変嬉しいのだがほとんど地下を走る中央新幹線でその気遣いは全く不要な代物なんですよ。
これが東海道新幹線ならあたしは迷うことなく右側の窓席に固執するのだが富士山の富の字さえ見えない、しかもトンネルだらけの超伝導中央新幹線ではさえ叶わぬ夢だ。
「椎奈が窓側に座って」
とあたしは椎名に促すと彼女が進行方向窓側の席に座るのを確認した。
あたしは重いトランクケースを椎奈の上の天井の荷物入れ蓋を上に開き放り込むと再び蓋を下に閉じてロックレバーを30度回転させた。
その時にちらっと見えてしまっていたんだ、酸素マスクがチューブと一緒に2セットで落ちて来るようになっている事に。
『まるで飛行機だな』
『異世界スマホアニメのパクリなセリフを吐くとは名作に対して失礼なクソガキだな!ナマ言うとテメーの(ピー)に電マを、あ“〜!あ“〜!あ“〜!あ“〜!あ“〜!許してください、また心が反応しちゃいましたぁ、いやぁぁ〜‼︎なんですかその棘だらけの、あ“〜!あ“〜!あ“〜!あ“〜!許してください』
う、うん、外が見えなくてもなんだな、飽きないかもな。

「案内のお姉さん、ごゆっくりとなんて言っていたけど40分少々の移動時間をどうゆっくりしろって言うのよ」
口を尖らせて抗議するあたしの口を椎奈の柔らかな唇が封じ込めた。
「それはお約束のリップサービスですから、そこに突っ込むのはヤボですよ」
囁くように彼女は言うがあたしの不満はそれだけではないのだよ。
「いくらあっという間に終着の名古屋についちゃうからって車内販売もないのも許せないのよね」
それを聞いた途端、椎奈は『プッ』っと吹き出してから笑いながら言った。
「愛さん、それをやるとしたら売り子さんは全速力で通路を駆け抜けなければならなくなりますよ?」
なるほど、そうかもしれない。あたしは昔聞いた東海道新幹線の車内販売をする売り子はそのエプロンの紐が地面に落ちないほど速い速度で駆け抜けなければならないと言う都市伝説があったという噂を聞いたことがあった。
「まあまあ、ここは落ち着いていっぱいやりませんか?」
そう言って椎名が左胸のポケットから取り出したのは明らかに彼女が使う200cc缶のオイル添加剤だった。
あの、これを飲めと。
『本日はNRリニア中央新幹線をご利用頂きありがとうございます、なにしよんねん!エロ親父、お客様も縛られたくなければ余計な邪念を送るなよ.....』
あたしが心の中で呟くと同時に先ほどとは違う別の女性の声が頭の中で鳴り響いた。それよりも何があった?
決して不快な声じゃない、ただやたらと無謀に大きなその音量で喋られるのは正直言って辛いと思う。
そのせいでよく聞き取れなかったけど要約すると『シートベルトを正しく着用してください』とのことだったと思う。
「そう言われれば結構揺れるもんね、シートベルトつけなきゃならないほどじゃないけどさ」
あたしはそう言うとスーツの右ポケットから拳に入る大きさの小さな袋菓子を取り出した。
袋を開いて爪先大の短い筒状のカラフルな彩りの物体を幾つか取り出した。
「ラムネ菓子ですか?」
椎奈は尋ねてきたがあたしはそれには答えずに左手に持った1個を彼女の開いた口の中に放り込んだ。
「おいしい?」
一応感想をきいてみたが答えは分かりきっていた。
「私の口に異物を投入しないでください」
そりゃあそうだ。
あたしはそう言いながらもう一つを左手でつまみ自分の口の中に放り込もうとしていた。
しかしそのラムネ菓子はあたしの口に入るよりも早く2本の指ごと椎奈の口の中に吸い込まれていた。
「食べれないんじゃなかった?」
あたしはそう問い詰めたが椎奈はクスクスと笑いながらあたしの2本の指、親指と人差し指を根元付近まで咥え始めて舐め尽くしていた。
「こ、こら、なんの冗談」
そう言う間も無く椎奈は勝手に自分の席を離れてあたしの身体の上に覆いかぶさってきた。
「舌を噛みます、気をつけて」
そう言われた次の瞬間あたしの口には椎奈のネクタイを押し込まれてあたしの指が彼女の口の中から解放されたと安心した次の瞬間その腕は折り畳まれて、彼女の胸の谷間の間に収まっていた。
続いて電気ドリルが回転して何かに穴を開けるような音がした次に大きなネジを占める音が聞こえ『間に合わない!』と椎奈の叫び声、同時にあたしの身体は椎奈の両腕にシートごと強く抱きしめられていた。
窓の外を青白い稲妻が駆け巡り、左側に吸い寄せられたと思ったらすぐに何かに叩きつけられたような衝撃が襲いかかった。

何が起こったか考える間も無くあたしはぐるぐる目が回っているかのような錯覚を覚え、右腕に何か重たいものがぶつかったかのような衝撃を受けた。そこを起点に全身を貫く激痛が走りあたしの身体がシートごと椎奈の身体に強く押し付けられ、それが永遠と思えるほど長く続いた後に今度は逆にあたしの身体は後ろのシートに叩きつけられて一連の破壊現象は収まっていた。
そこであたし自身安心したのかあたしは自分の意識を手放していた。

しばらくして遠くで誰かが泣く声が聞こえた。

なにがおきたのか?あたしは今どんな状態でいるのかさえさっぱりわからなかった。

誰かのうめき声が聞こえた。

あたしの右側1列前に腰掛けていた男性が座席シート上のにもつ入れから落ちてきた重たそうなトランクケースの直撃を頭に受けたのか、首から上が潰れて割れた頭蓋骨から脳髄(のうずい)をぶちまけていた。
きっと蓋のロックレバーを完全に回し切っていなかったからかもしれない。
あたしも人の事を言えた義理じゃなかった。
右腕だけで済んだのもきっと椎奈のおかげだろう。
そのかわり彼女の背中が削れてしまった事からどれほどの衝撃だったか想像がつく。
ロックレバーはキチンと90度回すべきだったのだ。

そして少しずつではあったがおバカなあたしにもこの惨状がなぜ起きたのか大方の予想がつく程度には自身を取り戻していた
中央新幹線における超伝導超高速軌道列車での大事故。
そんな言葉がふと頭の中をよぎったがあたしはその可能性を全力で否定した。
そもそもこの中央新幹線、滅多なことでは事故らないように造られているはずだった。
列車同士の事故はもちろんのこと、台風や竜巻などによる突風、大嵐、そして突然襲ってくる直下型の大地震にも十二分に対策がなされていると思っていた。
そんなあたしに椎奈のセリフが救いのない現実をあたしに叩きつけた。

「この事故はおそらく巨大地震によりもたらされたものです、全車輌で何人の生き残りが居られるかどうかは定かではありませんが彼らもほぼ生きてこの地獄から逃げ延びることは不可能と思われます」
「なんでそんなことが言えるの?」
あたしは問い返した。
椎奈は感情を表にあらわすことなく続ける。
「まず数日に渡って停電することが予想される為、と加えて列車自体がそのコイルを損傷させた可能性がある為にこの軌道上のほとんどのコイルに通電をするのが不可能に近いと言うこと」
あたしは生唾をごくりと飲み込んだ。
「次に私たちにとっては最悪の事態ですがこの列車が停止した位置が非常に長いトンネルのほぼど真ん中であるかもしれないこと」
椎菜は冷静に言った。
なるほどそれは大変だ。
すぐに助けを求め、救助を受けて地上に出られる。
という訳ではないと言うことらしい。
でもいくつかは設置されているはずの地上に続くであろう脱出口から外に出れば良いだけの話じゃ?」
「いえ、先ほど申した通り今この列車がトンネルに入ってからどれくらいの位置にあるのかわからないこと、最悪数km、いえ、十数km以上歩かねばその脱出口にたどり着けない可能性があると言うことです」
それだけならまだ望みがあるんじゃ、そう考えたあたしの思惑は続く椎奈のセリフに完璧なまでに打ち砕かれた。
そこから地上に出るまで数百メートルの階段、もしくはハシゴを登らないといけないということです。
「とりま愛さんを絶望の淵に落としてしまったようですがそれは私の望んだことではありません、どのみち折れてしまった右腕の止血をして応急処置をする間は眠ってもらいます」
椎奈はそう言うとあたしの唇に自分の唇を重ねて舌を押し込むと温かいサラッとした液体を流し込んだ。

ほどなくあたしは強い睡魔に三度襲われて気がついた時は車輌内は既に非常用の蓄電池の電力を失い真っ暗になっていた。

「あたし、変な夢をみていた、名古屋に講演会に行く途中で中央新幹線の車両内で事故に遭い・・・・」
「記憶に混乱が生じているかもしれませんがそれらは残念ですが現実に起きた出来事です」
あたしの左側、窓際に座ってそう言った椎奈の背中は焦茶色のオイルに染まって裂けたまま金属質の本体を剥き出しにしていた。
右手も左手もスーツの袖の上からオイルが滲み出ている。
運良くあたし達が乗っていた車輌はやや右側に傾いているだけで済んだみたいだけどあたし達が座ってる席の二重窓の外側ガラスは完全に砕け散っていた、それでも内側はヒビが入っている程度なので運が良いほうだと思う。
内側のガラスまで砕けていたらそのガラス片でもっと大怪我で大出血になっていかもしれない。
「これはもしかしたら下手に動くより車輌内に留まって救出が来るのを待った方が良かったりするのかな?」
あたしは恐る恐る椎奈に尋ねた。
日頃から「あたしは国会議員よ、敬いなさい」とばかりにいばり散らかしいているけど所詮はしがないただの女子高校生なんだ。
こんな時に被害者の助けになる程の能力も持っていないことなんてあたし自身が一番よく知っている。
「まあどっちが正しいとも言えませんね、ただ・・・」
そう言いかけた時に地面が激しく横に揺れた。
感覚としては震度5付近だろうか?
「これで3度目の余震ですね」
椎奈はこともなげに言うと続けた。
「地上での事故ならともかく地下深くでの地震による事故の場合下手に外に出た場合余震による落磐(らくばん)などで潰されて(つぶされて)しまう可能性があります」
椎奈はゆっくりと周りを見回すと左手の親指爪先を光らせた。
「大丈夫です、中央制御基地では最終の位置情報から大まかな位置は特定できているはずです」
椎奈は力強く言って見せたがそれはある意味あたしを勇気づけるためのハッタリだったかもしれない。

「それにしてもこの車輌はどうして安全に停止することが出来なかったの?」
素朴な疑問だった。
「それははっきりとした理由を私も見つけられないです、しかし敢えて(あえて)憶測(おくそく)で語って良いなら今回に限って言えば中央司令室が巨大地震の警報を受け取るよりも早く激しい揺れがこの車輌を襲った(おそった)ということかもしれません」
椎奈はさらに続けた。
「この車輌本体にはモーターと呼べるものは積載(せきさい)されていません、超伝導と呼ばれる冷却媒体により超低温に冷やされた抵抗値の極端に低いコイルに直流電流を半永久に通せる仕組みを組み込んだ限りなく永久磁石に近い電磁石を組み込んだ物って考えて欲しいです」

「これから言うことはかなり、というかめちゃくちゃ大雑把かつ雑な解釈と説明です、まずそれを念頭に置いて聞いてください」

そう言うと椎奈はまず前席の背もたれに付いているトレイのつまみを回して下におろしてテーブルにするとその上に自分が首からぶら下げていたショルダーバッグから長さ30センチメートルくらいの長さのプラスチックの定規を左右横方向に乗せた。

そして今度はショルダーバッグからペンケースを取り出して、その中からかなり長めのNOMOの消しゴムを並行に乗せた。

「この場合、消しゴムは永久磁石を乗せた車輌本体で定規を浮上用のコイルとします、まあ実施にはこんなふう車両本体のコイルも軌道用のコイルもに1本にはつながってはいなくて同じ長さのがいくつもあるのですがここは省略します」
と言って椎奈はペンケースから細字用の青い油性ペンを取り出し左右側面にそれぞれ3っつずつ、合わせて6つの丸を描いた。

何故か6つ共にあえて側面両側の上下中央ではなく下面よりに丸を描いた。

そして今度はペンケースから細字用の赤い油性ペンを取り出すとその3つ描いた丸の下面広い方中央寄りに同じピッチでずつ3列の丸を合わせて計6つ描いた。

「これを軌道上のコイルによって、まあ浮かします、実際にはどうかは知らないのであくまでも憶測に過ぎません、理論的には消しゴムの中に一定間隔の隙間を開けて超低温に冷却したコイルを配置して、その車両側面側をN極としてその下面はS極となります」

「そして定規の上面をS極にして下面をN極にすれば浮き上がるわけです」
椎奈はそう言うとNOMOの消しゴムを軽くつまみ上げた。

「ふつうに車両の方も上をN極にすれば良いんじゃない?」
あたしは疑問に思いきいてみた。

「それだと強力な磁力線が車内に漏れて(もれて)乗客にとって健康上良くない事が起きてしまいます、よくある『U型磁石』の曲った部分には磁石にはなっていませんよね?実はあれの応用なんです、『U』が『逆L』になっただけと思ってください、そしてその側面の左右側面のN極を前後移動の駆動用として使うわけです」

それから椎奈はたくさんの変わったペンシルを取り出した。なんか知らないがすごく短いプラスチックの筒に同じくすごく短い芯を組み込んだ、要はすごく短い鉛筆を48個近く取り出した。何故かそれはプラスチックの筒が赤と黒と青の2色が12個ずつ、黒が24個あった。
椎奈はそれらを先から赤黒青黒と相互に差し込んで組み立てると1本の普通の鉛筆よりも少し長いくらいの長さの鉛筆のようなものが出来ていた。

「これは昔、ノック式のシャープペンシルが発明されるまではよく使われていた自称鉛筆削りのいらない鉛筆として一部の愛好家に好んで使われていたものです」
そう言ってから椎奈は慌てて訂正した。
「まあ正しくは鉛筆削りが使えないと言った方が正しいのですね」
そして1番先頭のミニペンシルを抜くとそれを最後尾に差し込んだ。

「芯の先が丸くなって使えなくなったらこうやって1番後ろにまわすわけですが、さすがにこれを今使っている人は見ませんね」

椎奈はそう言ってからこれと同様にしてもう1本作った。
しかし超高速軌道列車が時速500キロメートル以上で走る時代によくもまあこんな骨董品(こっとうひん)が出てきたものだと思う。
しかしそれはよくよく考えたら彼女がただのアンドロイドという機械じゃない証だったと後で気がつく事になるとは思ってもいなかった。

そしてその2本で定規をはさむと消しゴムの側面の黒い丸に赤いピースが合うように合わせた。
ピッチがあらかじめ合うように用意されたかのようにマジでピッタリ合っていた。
正しくはペンシルのピッチの方が2倍細かかったがそこは突っ込んじゃいけなかったと後で知った。

「こうするとどうなると思いますか?」
椎奈はそう言うと2本のペンシルを同時に1個ずつ右にずらした。

「ちなみに赤がS極で青はN極です、黒は電気が通っていない状態、つまり磁力線は出ていなくって極性はありません」

「まあ消しゴムも右にずれるだろうね、多分だけどどうしてかなんて聞かないでよ?」
とあたしは言ってみた、確信があったわけじゃないよ、なんとなくだ。

椎奈はあたしの顔をじっと覗きこんだ。そして長い沈黙が続いた後に大声で言った。
「正解!」
って昔のクイズ番組じゃないんだから。

「でもN極同士とかS極同士とかじゃダメなの?」
思わずきき返してしまっていた。

「そうですね、ダメって事は無いでしょうけど反発し合う事になるので左に行くか右に行くかはバクチになりそうな気がしますね、引っ張り合う力の方が確実で安心なわけです、これは実際にはコイルを流れる電流の向き、交流の位相が移動するだけでコイル自体は動かないんです、つまり交流同期モーターのひとつのカタチだと言えるんです」

「よくわからないんだけど、モーターを一直線にしただけって事でいいのかな、だったら特に問題はなさそうなんだけど?」
また椎奈はあたしの顔を横から覗きこんだ。
またしばらく沈黙を続けた後にこう言う気だろう。
『正解!』っと。

「残念ですが回転式モーターとの大きな違いはそこじゃ無いんですよ、新幹線のモーターに使うコイルなんて例え16両編成を2000列車両作ったとしてもそのコストは大した事ないんですよ、でもリニアモーターだとそうはいかないんです」

『要するに280キロメートルの往復路線を造るとなるとその倍の560キロメートルもの長い距離をコイルでびっしり埋め尽くさなきゃいけないって事だよ、この路線が大阪まで延長となるとさらにコストが』
どこからともなくそんな心の声が聞こえてきたような気がした。
「そうですね、それがコスト面での最大ボトルネックになっていて海外では長距離輸送には向いていないと判断れて運用の撤退や運用距離の延長工事が見送りになっていますね」
『国会議員のくせにそんなことも知らねえの?バカみたい』

あのね、誰か知らないけど椎名と連んで突然話を難しくしないでくれる?あたしの理工科系の通信簿は毎回ほぼ縦線一本で表現できちゃうんだぞ。
あたしは目で抗議したが構わず椎奈は続けた。

「しかもそれぞれの走行用のコイルを左右2本ずつつなげば良いなんて話じゃないんです、最低でもコイルを浮上用に繋がなくちゃいけないんです、そして走行用のコイルをちゃんと周波数の連続可変同期モーターとして使うなら全てのコイルを4系統、ヘタをすると6系統は分けて結線しなくちゃいけないんですよ」
まあ確かにコストをバカ喰いなのは判った、だからそれがどうした?
「ところで遅延という言葉をご存知でしょうか?」
椎奈は再びあたしを小馬鹿にしたような事を言い出した。
「それくらいは知っているよ、電線内の電気の伝達速度は理論上は光の速さだけど交流の場合、特にGHz(ぎがへるつ)以上になると短い距離ではさほど問題にはならないけど距離が長くなるに従いその限りじゃなくなるというあれでしょ?」
どうしても疑問符がついてしまうのは致し方がない。
だけどそれとは関係ないだろうけど長い距離を高速回線でつなぐにはやはり無線か光ファイバーを使うしかないというのも聞いたことがある。
「はい、正解ですさすが愛ちゃんスゴイですね」
ってだから椎奈、人を小馬鹿にしたような言い方はやめて。
「実際には最高で50Hz程度ですがこれが時速500キロメートル以上の速度で走らせた時に列車車両の連結をやたらと長くできない理由のひとつになってしまいます」
「つまり前の方と後ろの方では位相にズレが生じている可能性もあるってことね、なら横の駆動用の車両用コイルを前車両数量とかに限定すれば.......」
と言いかけて私は思いとどまった。緊急停止や減速時にはそんな構造にしたら危なくて仕方がない。
全車両に超伝導コイルを搭載して駆動車両にするしかない。
「確か試験線を走っていた車両は8両編成以下だったはず、その時は600キロメートルも夢ではないと言っていた気がする、それがいざ運用時には車両は12両編成で時速500キロメートル運用になっていた、この分だと16両編成以上の長い列車となるとさらに最高速度を落とす必要が生じるかもしれない、という事?」
あたしの語尾には疑問符がついていた。だって専門家じゃないし、頭が痛くなるような細かく複雑な計算はしたくなかった。

「これが走り出す理屈ですが止めたい時にはこれと逆のことをすれば良いだけの話なんです」
さっぱりわからん。

「まず軌道側の駆動用コイルイルの周波数を徐々に落としていかないといけません、そうしないといきなり反転モードになってしまう可能性もあります、まあそれはそれで構いませんが実際には乗っている乗客がどうなるか考えると乱暴な動作は禁物です、その辺がコイル間同士の間隔が非常に短い回転式モーターとの違いですね、よくリニアモーターの回転式モーターを使った鉄輪車両に対する優位点は加減速の大きさにあると言われていますが実際には地下鉄や山手線などと大して変わらないようですね」
つまり加速度、Gal(加速も減速も)が大きければ大きいほど良いという訳じゃないということだ。
たまたま席を離れて移動中のお客さんがいたら転ぶことになるかもしれないし、たとえ着席していても乗り物酔いをする客がいる可能性も配慮(はいりょ)する必要が有るという事。

「まあ実際に新幹線も時速300キロメートルまではあまり遜色のない加速が出来ますし空気抵抗を考えるとその負荷から急激に周波数を上げたり下げたりはする訳にはいかないんですよね、実は鉄輪列車よりもシビアなコントロールが必要なのですよ」

「そしてある程度スピードが落ちてきたら軌道側にある浮上用のコイルに流れる電力を落としていかなきゃいけないんですよ、いきなり極性を反転させてしまうとハードライディング、まあどこかの国がよく使いたがる不時着っていう事ですけどまあ機体がぐしゃぐしゃになっても『不時着』というアレです」

「それからゴムタイヤ付きの車輪で接地してディスクブレーキで止まる訳です」

「ちなみに公式の記事では中央新幹線の最小半径は8キロメートルということになっています」

椎奈はそう言ったがなんて小回りの効かないやつだと思った。
しかしよくよく考えてみたら例え半径1キロメートルのカーブでも時速500キロメートルで突っ込んだらどうなるかなんて見当がつく、多分だが半径8キロメートルのカーブでも時速300キロメートル以下に落とさないと乗客からブーイングの嵐が案内嬢の頭に突き刺さるだろう。
もしかしたらNR東海が木曽谷ルート案と伊那谷ルート案があったのを蹴って(けって)南アルプスルート案にこだわったのはそれがあると考え始めた自分がいた。
要するに速達性がどうのこうのとあの会長が言っていたのは建前で、実は車両と乗客に過度な負荷がかかるのを恐れたんじゃないかと思う。
まあ通過速度を落とせば対応が可能だがそれでは東海道新幹線に対する優位性が薄らいでしまうということか?

まあそれが今回の事故とどう関係があるかなんておバカなあたしには判りようがない。
ただ一つだけあたしにもわかるのはコレはあくまでも全機能が正常に動いていた時の話で突然の不慮による事故、つまり地震などの地殻変動で軌道上のコイル達を繋ぐ結線がそこらじゅうで断線した場合は安全性を考慮した設計通りには動いてはくれない可能性だってあると言うことだろか?

「はい、愛ちゃん、目の付け所が、、、、ですね」
椎奈はそう言うと消ゴムを挟んだ組み立てたペンシルの片方をはずした。
「設計上は左のコイルの電源、と言うべきか電力の供給が断たれたときに右のコイルも同時に断たれるはず、と言うかそうなるべきだったのですが」
「実際にはそうならなかったと」
あたしは続けた。
確かにそれなら列車の車両が左右のどちらかに吹っ飛んで壁に何度も激突しても不思議じゃない。
「しかも問題は20センチ以上の浮上と左右の大きな軌道です」
椎奈は言ったがそれはむしろ。
『他国のリニアに比べたら安全性が高いと言いたいんだね、でもこの国には五十歩百歩って言葉があってね震度6以上の突き上げ揺れや横揺れの前じゃ20センチも数ミリもほとんど変わらないんだよ』
ってあんた誰よ?
『むしろモノレールに近い型式の他国製の方が機械ブレーキ的な役目もはたしてくれる、それにレールよりも土台の方が先に壊れるように設計すれば脱線事故にはつながりにくく問題はないんだよ、それでも南アルプストンネルはあり得ない悪手だけどね』

『それに引き換え超伝導式は左右合わせて50センチ近い隙間があるから壁に叩きつけられるどころか車両が地震最初の突き上げ揺れでと電源カットオフで車両先頭が軌道底面に激突してその反動で車両先頭が跳ね上がり軌道そのものから飛び出す可能性も否定できない』

『そうなったら時速500キロメートル近い高速でトンネル壁面に衝突していたる場所で列車は連結部で折れ曲がり車両そのものが変形をするさね』
急に語尾が不良少女みたいに変わった。

要するに巨大地震に襲われた時の超電導リニアの列車挙動は軌道上のコイル同士の結線とその非常時における対策に委ねられるという事か?

もしもあらゆる状況下においてそうなるように結線していたのなら回路はとてつもなく複雑かつコストのかかる結線構造と工事になることは目に見えている。
これが旧国鉄時代の工事ならばコスト度外視であらゆる異常事態が生じてもマトモに左右同時に止まるように二重、三重に結線するだろう。
D51や東海道新幹線の安全性を極めた島さんならそれを許さないだろう。
だが様々(さまざま)な事業を民営化して経営効率とコスト削減を最優先にしている今世紀ではどうだろうか?
万に一つ、いや千回、十回に一つにその不幸な事態は生じるかもしれない。
いや、今の原子力事業者やその他の人命に関わる事業でもその手の手抜きや隠蔽(いんぺい)が当たり前のように起きて当たり前のように多数の犠牲者が出ているのも事実だ。
今回がその不幸な一つだったとしたらどうだろうか?
マグニチュード8以上の直下型地震が起きて激しい揺れに軌道が壊されたら?コイルも無事じゃ済まないだろう。

実は構想当初においてリニア新幹線は他国製と同様に常温伝導コイルを使う予定だったと聞いたことがある。
いわゆる愛知県のリニモのようにモノレールに近い物だったらしい。
しかも軌道自体をガラスチューブで囲い中を真空にするアイデアだったらしい。
それで某探偵アニメに出てきたリニア新幹線と同様なガラスチューブ式とモノレール式の組み合わせを構想していたらしいが横槍が入った。
他国の二番煎じみたいでよろしくないと言う事と、ガラスチューブで囲むのはコスト面で問題があるとの理由だった。
そして他国のリニアやリニモのようにモノレール形式では巨大地震に襲われた時に車体コイルと軌道コイルの隙間が数センチもないから危険だということになって今の20センチ以上浮かして左右にも同様な隙間を与える設計に落ち着いたと聞く。
ところが実はここに大きな落とし穴があった。
『フレミングの法則で車両を浮かせて推進するには問題はなかったが浮上や推進力に使うコイル間の距離が開けば開くほど磁束密度が低くなりその分、磁力エネルギーを開いた間隔の二乗分上げなければならなくなったのさ』
なんかやっぱり不良少女イメージしか湧かない心の声が伝わってきた。
反応しない方がいいかもしれない。
『健気な女子中学生の心臓にナイフを突き刺してケタケタ笑っているような【サディストJK国会議員の倶名尚愛】に言われたくないね』
辛辣(しんらつ)な返しが来た。
『それで日本製のリニア新幹線は海外のものに比べて電気を大量に消費するというデマが浮上した、とはいえデマだと云うそれはNR東海の言い分であって事実その傾向は強かった』

『そこでNR東海はq日本式リニアが省エネだという根拠を示さなければならなくなった』
『それが超伝導コイルという魔法じみた仕掛けだね』
とあたし。
『そうコイルを絶対零度に近い状態まで冷やして物理的抵抗がゼロになるように考案された、それによって一度電流を流せば永久にコイルを電流が流れて省エネですよとアピールしたかったのさ』
『でも実際にそうなったんでしょ?』とあたし。
『ところがこれには二つの嘘が隠されていたのさ』
間を置いてその声は続けた。
『一度車両を20センチ以上浮かせてしまうと軌道上から電源が取りにくくなる、電車内の照明や冷暖房、制御などは車両に搭載したバッテリーで賄えるとしても浮かすための磁場の発生には車両側にそれなりに強力な永久磁石を搭載するかコイルに電流を通して磁場を発生させるか?のふた通りしかない』

『ところが強力で大きな永久磁石をを使うことはそれなりに重量増しにつながって良くない、そこで日本式リニアは一度電流を流せば永久に電流が流れる特性を利用した、超伝導コイルを採用することにしたのよ、つまりここで大きな嘘がひとつ、超伝導コイルは走行時の消費電力を抑えるためのものじゃなくて単に電磁磁石を永久磁石の代用として使うための詭弁だったのよ、そしてそれは今回のような大事故になった時に大きなリスクとなって・・・』
声が一旦途中で途切れた。
『だったら問題はないのでは?』とあたし。
『ところが永久磁石として使えるはずだった超伝導コイルに問題があった』
『インダクタンス、地上コイルとの誘導抵負荷による電流抵抗値の存在ですね』
椎奈が口を挟んだ。
『そう、確かにコイルを絶対零度に近い状態にすることによって物理抵抗はゼロになったが何度も通過する浮上コイルや引っ張られる力によって減るはずがなかった超伝導コイルの中を流れる電流が減ることは想定していなかったんだ』
『まさかと思うけどこれって一定時間毎、定期的にコイルに電流を通してやらないといけなかったというオチだったんじゃ?』
あたしは呆れてものも言えなくなった。
『コイルには当然だけどその電線を巻いた形状上、静電容量も発生する、物理抵抗をゼロにすれば無電源で永久磁石を使わずに済むという問題じゃ無かったんだ、どちらかに負荷がかかれば超伝導コイルとて電流を喪失する、そんな単純なことも別の目的のために目が眩んでしまっていたんだ』

『それが車両積載バッテリーに過大な負荷をかけて想定以上に早い電源の喪失を招いたのさ』

「愛ちゃん、実は不幸な巡り合わせというのは今回はそれだけじゃぁないんです」
そう言うと椎奈は2本の鉛筆の前を遮るかのように垂直にアルミのペンケースを置いた。

「コレが何を意味するのかわかりますか?」
彼女は2本の鉛筆と一緒に消しゴムをバックさせて再び前に進めるとそれらをペンケースに衝突させた。
「このペンケースが何かわかりますか?」
椎奈は再びあたしに問いかけてきた。
確信は持てなかった、しかしそれに関しては以前から嫌な予感は感じていた筈だ。
あたしは彼ら推進派の主張する『それはちゃんと避けて地盤のしっかりしたコースを選んで工事してきた』という言葉を盲目的に信じてこの計画に賛同してきた。
「それは、」
口に出すのが恐ろしかった。
しかもそれが南アルプストンネル内にあると警告をしてくれた地学者もいたのを今更ながら思い出していた。

確かにそれは日本中のそこらじゅうにある、それも南アルプスのような険しい山脈に多いと聞いた。
なぜそんなにも険しく高い山ができたか?
東西から凄まじい力が加わり盛り上がった状態が今の日本の大半の山脈を形成している。
つまりそれが険しくて高いほどいつ破裂するかわからない不発弾ともいえる。
その押し付け合う力が限界に達した時に西側と東側では少しでもエネルギーを逃すために、南アルプス山脈の場合は西側が南に、東側が北にズレるか、もしかしたらその逆で西側が来たに東側が南にズレるかわからない。
しかしそれがあるからと言って大きな災いを招く事はあるが直ちに地上を走る鉄道や自動車達に致命的な破壊をもたらすわけではない。
もちろん脱線事故などにはつながるだろう。
しかし地中深くを超高速で突っ走る中央新幹線にとっては・・・・・・
「活断層のズレ」
あたしはやっとの思いでそれを口から言うことが出来た。

地上においては何十メートルズレようが大した問題にはならない。
しかし地中深くで数メートルだけでも垂直にずれたらそれは超高速で突っ走る車輌の前に立ちはだかる絶対的な壁となる。
500km/hからの岩盤のような土壁に対する正面衝突、果たして技術者の誰がこの最悪な事態を想定していただろうか?

「活断層というのは今そこにないからと言って永久にそこに発生しないという保証はどこにもないのです」
確かに椎名の言う事は正しい。活断層というものがあって地震が発生する訳じゃなく、プレートに加えられた歪みが貯まって行き「活褶曲」(かつしゅうきょく)という地形になってゆく、そしてその歪みが限界に達した時にその下に断層が生まれ始めてやがては産声をあげるかのようにだいちが激しく揺れて活断層となり大地をずらすのだろう。
その時点で超高速軌道列車の先端付近がどうなっているかなんて考えるまでもない事だったがその時のあたしにはそんな余裕などなかった。
「この場所に留まる事に危険を感じますが取れ合えず先の列車にかすかに生命反応を感じます」
そいう言うと椎奈ははるか前方の廊下に落ちていたトランクケースを開けて中のリュックサックを取り出すと必要そうなものを移して私の背中に背負わせた。
当然だが右肩に激しい痛みが走った。
「まあ過ぎた事を愚痴っていても何も始まらないですし私たちが動く事で救える命があるかもしれません、着替えの服は包帯がわりにできますしね」
椎奈はオイルまみれでべっとりねとついた肩にかかった長い髪の毛をペンケースから取り出した工作用のハサミでバッサリショートカットに切り落とすと椎奈はあたしにてを差し伸べて至上の笑顔で微笑んで言った。
「愛ちゃんも一緒に来てもらえるととても嬉しいです」
もちろんあたしの答えは決まっている。
「よろこんで」
この事態を招いた責任はあたしにもあるのだ。

@ショタコンとやばい奴

前に進むほど列車本体の変形は凄まじいものがあった。
「これ、あたし達の他に生存者なんているの?」
あたしの問いに椎名は応えてはくれなかった。
「さっきに爺さんなんてせっかくシートベルトをしていても上から落ちてきたトランクケースに頭を押しつぶされてぺっしゃんっこだったもんね」
この椎奈という名のアンドロイド、機械の癖に他人の死とか不幸を見ただけですごく落ち込む時がある。
「これより先に行くのは危険ですね」
当然後ろに振り返り椎奈は言った。
「まあここから先は生存者の見込みはないかもだけど取り敢えず前に進もうよ」
なだめるように言ってみたが彼女は頑固にあたしを通そうとしなかった。
「冷却媒体が噴出している箇所がこの先いくつかあるようです、気温が氷点下を下回っているので命の補償はしかねます」
「でも小さい子とか生きているかもだよ」
あたしはそういうと椎奈の肩を払い退けて前に進み始めた。
あたしの勘(かん)は『生存者が必ずいるはず』、そういっていた。
さっきまでの心の声がほとんど聞こえなくなったからだ。

なるほど確かに列車を前に進むにつれて気温が下がってゆくのが体感でも分かった。
「マイナス20度とかより下がったらまずいかも」
そう呟きながら前に2両程進んでいくと確かにいた

小3くらいの男の子が、生意気にも半ズボン半袖ポロシャツなので半ば凍かかっている。
座席を対面にして進行方向とは逆に座りシートベルトをしていたのも幸いだったようだ。
ただし向かい側、進行方向窓際の席に座っていたと思しき男性はシートベルトを着用しておらず上半身を窓ガラスに突っ込ませて絶命していた。

また列車が揺れた気がした。揺れたのは地面だろうけど。

「今回の揺れは妙な気がします」
椎奈はそう言うとスーツのポケットの中からスマホを取り出してしばらく見つめていたが諦めてまたポケットに戻した。
「どうやら圏外のようです」
そりゃ当たり前でしょ、ここが南アルプスのどの辺りかは知らないけれど、ちょっとやそっとの深さではないことくらいは予想がつく。
地震の影響でトンネル内のアンテナがほとんど死んでいるとしたら電波が通じるわけがない。
「何かに捕まって衝撃に備えてください、異常に高速な物体が接近しています」
椎奈はそう言うとあたしを少年の体ごと押し倒してその上に乗り掛かってきた。
「おそらく後続車両と思われる何かが原因不明の暴走中、真っ直ぐこちらに向かって来ます」
椎奈は言ったがそんなわけがない。
「ちょっと停電中なのになんで動いている車両があるわけ?」
あたしは疑問を投げつけたが椎奈はそれには応えず両手両足を変形させるとそれで4席の足を掴みあたし達を床に固定した。
「10秒前、6、5、4、3、2、舌を噛まないよう」
そう言った時は既にあたし達は激しい衝撃を受けていた。
メキメキと何かを破壊しつつ車両を激しく揺さぶりながら突進して来るような気配、そしてそれはすぐに止んだ。
「私達が本来座っていた場所の座席を直撃したようです」
突然何を言い出したのかと思った。
「全長4メートル、最大幅2メートルの円錐状のコバルト磁石の塊、レールガンの砲弾です」
ちょっと待って、何を言っているのかわからない。
「初速毎秒3000メートル、おそらくは山梨県側のレールから打ち出されたものかと」
「椎奈、あんたさっきから自分が何を言っているのか分かっている?」
なんでリニアの軌道でそんな大砲が撃てるの?
あたしはようやっと椎奈の体から解放されて前方を見た時に信じられないものを目にしてしまった。
車両と車両の間の通路の扉に突き刺さりようやく停止した黒ずんだ灰色の、いや、少し赤みを帯びた円錐状の物体。
「おそらくはコバルトか何かの強い磁力を帯びた砲弾でしょうね」
あっさりと椎奈は言ったがそれって『ようつべ』でしかお目にかかった事のない『レールガン』というフレミングの法則を悪用した殺戮兵器じゃ?
それと思しき砲が周りの内装を加熱させて燃やし始めていた。
「ちょ、このままだとこの車両内大火事だよね」
恐る恐る椎奈に聞いた。
「そのようですね、私たちは間違いなくチャーシューです」
「こんな時に言うような冗談じゃないよね?」
あたしは再度椎奈に確認した。
いや、もう冗談どころじゃない、しかし逃げようにも。
「あ、こんな時こそ非常出口のドアだよね」
あたしは周囲をぐるぐる見回した。
しかしそれらしきものは見当たらない。
「元々は外部の強電磁界から守るために作られた車両です、宇宙船や飛行機のハッチのようなものでしょう、そうなると手動では開かないかと」
そう言っている間に自分の意識がだんだん遠のいてゆくのを感じていた。
「私の体内の酸素ボンベを使用しますか?」
椎奈の声が遠のいていくのを感じながらあたしは「お願い」と言うのが精一杯だった。

『そうさ、日本のリニアモーターカーの設計理念を歪めた存在こそレールガンだったんだよ』
また誰かの声が聞こえた気がした。
しかしその声の主が目の前の凍かかった少年だとは気づきもしなかった。

『高速増殖炉が核兵器開発の礎(いしずえ)であったように超伝導リニアモーターカーも『レールガン開発の礎』だったんだよ、海外と同じモノレール方式だと『レールガン開発』の実験は出来ないからね、砲台もトンネルだらけで隠しやすいし、電力バカ喰いの超伝導リニアモーターカーのおかげで誰に疑われる事もなく電力を供給できるから』

あたしが意識を取り戻したのはそれから数分も経っていなかった。
あたしは幼い少年の背中を左手で支えて、そんなあたしを椎奈はボロボロの両手で抱き抱えていた。
「私たちをこんな目に合わせた償いはしてもらいましょう」
彼女はそう言うと続けて『reverse(リバース)』と叫んだ。
椎奈が言うところのレールガン砲弾が右方向に回転を始めたと思った途端すごい勢いで飛んできた方向とは逆向きに戻って行った。
そして数秒後には激しい振動を伴う爆発音が轟いた。
その砲弾が通り抜けた跡は、うん、盛大に炎上しているね、多分列車の最後尾まで。
「どんな魔法を使ったの?」
とあたし。
「大した事じゃありません、ただの固有魔法です」
椎奈はそう言ってが多分嘘だ、そんな魔法はアニメや小説でも聞いたことがない。
「操作していた人、多分あの世行きだよね?砲台に何人いたかは知らないけどさ」
業火の向こうの地獄絵図を想像しながら言ったあたしに椎奈は冷たく言い放った。
「この列車に乗り合わせて命を落とした百数十人に比べたらごく少数です、それこそ自業自得でしょう」
まあ確かに最後尾から砲弾が突き抜けたすぐそこの車両までの間にまだ生存していた人たちは数十人はいただろう。
自分達が撃ち放った砲弾がどれほどの命を奪うか想像もできなかった、なんてあたしは言わせない。
「あのさ、まさかとは思うけど冷却して火を消す魔法とかないの?」
「ある事はあるんですが、この車両大破で噴出した冷却媒体でも冷やしきれない熱量となると難しいですね」
椎奈はそう言うと『cool down(冷却?)』と唱えた。
その言葉意味違くね?と突っ込みたかったがあたしはあえてスルーすることにした。

@車両からの脱出

「取り敢えずここにいつまでいても仕方がないですから外に出ましょうか?」
椎奈は言うと周囲を見回して非常出口らしきものを見つけたようだった。
「困りました、安全のためのロックが掛かったままのようで出られないようです」
ハンドルを差し込むような円周の蓋(ふた)の中に穴が二つ開いていたけどここにプラグを差し込んで特定信号を流しながら回転させないと開かない構成らしい。
「なぜこんな面倒な仕様に」
呟く(つぶやく)あたしをよそに椎奈は自分の着ているスーツのズボンのポケットからその蓋に合いそうな電線コード付きのプラグを取り出した。
そしてそれをその蓋に差し込むと右に13回、左に7回、さらに右に4回まわした。が何も変化は起きなかった。
「いや、金庫じゃないんだからさ」
と言ったあたしに椎奈はまじめに答えた。
「車両自体の電源が切れているからですねでもその施錠装置自体の内蔵電源は生きているはずですが」
椎奈のいう通り操作自体は間違ってはいなかったはず、なのに何故?
「逃げられないようにパスを遠隔操作で変えられていた可能性はありますね」
椎奈は冷静に呟くと何かを思いついたようにポケットからボールペンのような物を取り出してしばらく考え込んだ。
「愛ちゃん、このボールペンのダイヤルを「1」か「2」に合わせてその貧相な胸に突き刺せば身体能力が強化されたり、巨大化してこの窮地から脱出できるかもしれません」
突然とんでもなく失礼なことを言い始めた。
何か大昔の変なアニメの影響だろうか?
「あのね、あんな物騒な兵器を持ち出してまであたし達を始末しようとしていたって事は最初からこの車輌は封印させられていたんじゃないのかなぁ」
あたしは開かない非常ドアに手を当ててぼんやりと呟いた。
「なるほど、それなら納得です」
椎奈はそういうと再び電線コード付きのプラグを丸い蓋上のものに開いた二つの穴に突き刺した。
「何のこともない電源が喪失した時のための外部電源入力端子だったんですね」
いや、椎奈さん、それをあなたはさっきから何度も回しているんだけれど中で結線が切れちゃっていないか?そんな不安が頭をよぎった。
「大丈夫ですよ、愛様、きっとこの蓋自体も取り外しが可能になっていて延長コードになっている筈ですから」
何というか、思い込みがかなり強いアンドロイドだなとは思った。
「だとしても何Vで何Hzで動作するかわかるか?」
一応きいてみた。
「もちろん交流100Vでこの南アルプストンネルを境に50Hzから60Hzに切り替わるんじゃないでしょうか?」
あまりにも椎奈が真顔で言ったからあたしは思わず彼女の顔をガン見してしまった。
「ごめんなさい、冗談です愛様はユーモア欠乏症ですね」
椎奈は笑いながらこんな状況下で言うような事か?という疑問が湧いてきた。
にしても一時『愛ちゃん』から『愛様』に逆戻りしたのは悲しかった。
「開きました」
そう椎奈が言った途端重そうな縦長の扉は少し外に押し出されると上の方向にスライドを始めた。間口横1メートル高さ2メートルの出口が出現してその向こう側には駆動用のコイルがぎっしりと敷き詰められたコンクリートの壁が見えていた。
「多分停電でこれらの電磁回路は死んでいると思われますが万が一の為に磁気テストをしますのですぐには出ないでください」
そういうと椎奈は一本の錆びた釘をそのコイルに向けて投げつけた。毎度毎度どこからそんなものが出てくるのかわからない。
それがコイルに当たってもくっ付くことなく落ちるのを確認してから椎奈は車外に出て顔を蛍光灯のように光らせて周囲を照らし出した。
「大丈夫なようです、しかし脱出用の側道トンネルに出るには一旦このコンクリートの壁を上り越えなければなりませんが、登れそうですか?」
椎奈にいわれて改めてその電磁コイルが仕込まれた白いコンクリート壁を見たがどう考えても高さは2メートル近くはありそうだった。
いやこれ登るの?マヂ無理なんですけれど?朝からほとんど食べていない気がするし。
「睡眠不足だから登るのは無理!」
「ならばここで溺死しますか?」
すまし顔で言う椎奈、なぜここでそんなことになる?そんな大量の水はどこから来る?
「今朝出発前に確認した天気予想ですと、ここを通過する温帯低気圧の影響でここは昼あたりから局地的な大雨になるそうです」
ああ、そうなんだ、大変だね。
「まあ地震で被災した人たちには悪いけれど至る場所で発生した火事を消し止めてくれるんじゃないの?」
あたしは他人事のように言った。
「残念ですが平野地にはほとんど雨は降りませんが何か?」
冷静に椎奈は言うがそれのどこが問題なんだろうか?
「愛ちゃんはおおい川に流れる水量の減量問題をお忘れですか?」
ああ、そういえばおおい川に行くべき水の流れが静岡に向かわず長野県側と山梨県側に流れていってしまうって奴があったのは覚えてはいる。
「でもそれは工事中に発生したことで、トンネルが完成して全線が開通した今となってはもう解決した話では?」
少なくともあたしは党の上層部の方達や鉄道会社の責任者からはそう言った話を聞いている。
「実はそれは全く解決されていないのです。
涼しい顔をして椎奈が言った。

いまだに大量の地下水が静岡区間から長野、山梨の両県にこの南アルプストンネルを伝って大量に流れ込んでいてやはりおおい川上流には水が流れ込んでいないのが現状なのです」
それは確かに。
「でも確か鉄道会社の言い分だと専用の水路を伝わせてそこから大型のポンプで汲み上げて大井川に並行して作った水路を通しておおい川中流よりも上流に流し戻しているから問題ないことになっているし水質問題だって解決していると鉄道会社の人たちが」
あたしは鉄道会社のお偉いさんから聞いた話をもとに反論を試みた。
「お馬鹿さんですね」
椎奈はボソリと言った。
「トンネル内から流れ出てきた水はどこから流れてきているのかご存知ですか?」
それはほとんどがおおい川の上流の川底や山肌に染み込んでから流れてきた。
「上流は川底も土ではなくて岩や小石やなどで構成されていますからね、下流の川のように染み込まないわけじゃないんです」
椎奈は言うと空中に図を描いた。
「本来なら地中深く染み込んでその土のいく層にも重なる土壌が環境汚染、主に大気汚染で濁って汚れた雨水を濾過するのですが」
あたしはその言葉を聞きながら何とかこのコンクリートの壁を乗り越えられるか考えていた。
「ところでその濾過された不純物はどうなるお思いますか?」
椎奈はそう言うと小さな点をいくつかマーキングした。
「しかし大昔の大気汚染が存在しなかった頃ならともかく今では雨水自体が汚れている、それを汚れた土壌(どじょう)で濾過(ろか)するということは?どういうことかわかりますか?」
あたしは何度かジャンプを繰り返してコンクリート壁の最上端に手が届かないか挑戦していた。
「土壌自体が、少なくとも地表に近い部分の土壌はむしろ雨水を浄化するどころか逆に、さらに汚染させる可能性だってあるんです」
やっとのことであたしは壁の上端に手をかけてよじ登ることに成功していた。
「それでも山のふもとの地下を流れている地下水には問題はないでしょ?それはなぜ?」
壁の向こうには幅が2メートル程の通路が何とか確認できた。
緊急時の避難のために作られたようだったがちゃんと目視できるのはおそらくは数メートル単位に設置された蓄電池内蔵のLED照明灯があるおかげだろう。
それがどれくらいの時間、通路を照らしてくれるかは不明だったが8時間程度は照らしてくれると期待したかった。
「山の下、地中深くまではまだ汚染されてはいないから濾過する機能はまだ正常に作動していると言って良いでしょう」
椎名はそう言うと少年を抱き抱えながら一気に壁の上端に飛び上がった、パワフルな椎奈はなんかずるい。
「それでですがトンネルを掘る際に滲み出てきた地下水山の浅い層から湧き出てきた水は果たして綺麗(きれい)だといえるでしょうか?」
そう言うと椎名はさっさとあたしよりも先に通路に飛び降りた。
「汚れた土壌を通って、途中の穴からしみ出した、きれいな土壌を通らずににじみ出てきたその水が綺麗だと愛ちゃんはお考えですか?」
少し怖い思いをしつつ何とか壁から飛び降りられたあたしに再び椎奈は問いかけて来た。
確かの山の土壌の浅い部分から湧いて出て来た水は綺麗とは言い難いかもしれない。
なにしろちゃんと濾過する機能を有する土層があまりにも不足している。
「もともと自然に含有されている有害な重金属やヒ素なども比較的に浅い層に存在するのですがここではあえて問題にはしません」
椎名はそう言うと列車の東方向、つまり山梨側を指差した。
要は歩いて行こうとしているらしい。
「加えて現代では盛り土の問題があります、このトンネルを掘って出てきた土砂はどう処理されるかご存知ですか?」
椎名は歩きながらあたしに三度問いかけて来た。
「それなら聞いた事がある、適当な山肌に杭か何かを打ち込んでで崩れないように壁を作り盛り土をするって」
ただしそれには良くない話がついて回る。
大雨などで地盤が緩み、その盛り土が多くの雨水を吸い込み重くなった時に土砂崩れや土石流などの大災害を起こす可能性が高い。
事実あたしが記憶しているだけでも中津川あたりのの中央自動車道付近で一回、最近では熱海での土石流で大勢の犠牲者を出している。
「これだけ長く口径の広いトンネルを掘ればどれ程大量、いえ莫大な土砂が発生するでしょうね」
椎名はそう言いながら私を振り返った。
その表情がわかる程度は明るかったが果たしてそれは通路の路面に生じている大きな地表の割れ目や落石を見分けられるほどの明るさと言えるだろうか?
その割れ目から決して少ないとは言い難い地下水が湧き出ているのが目視出来た。
「この国が高度成長化して多くの工場やコンビナートの煙突が有害ガスを大気に放出するようになって、数え切れない自動車が燃やすガソリンに含まれる有害物質を含んだ排気ガスを放出するようになって何十年と年月が流れたでしょうか?」
再び椎名は前を向いて歩き始めた。
「その汚れた空気が空から降る雨を汚して地表に降り注ぐ、その雨を南アルプスの山々は長年浄化して来ました」
それはわかるけどその土壌に何の問題があると言うのだろうか?
あたしは自問した。
「この掘って出て来た土砂が汚染されていたとしたらどうなりますか?そこから滲み出て来た湧水、地下水は綺麗だと言い切れるでしょうか?」
椎奈の言う通り、出て来た土砂や湧き出て来た地下水が汚染されていても何の不思議もない。
ただそれは国、この場合国土省か?それと鉄道会社が責任を持って地質検査や水質検査をして基準値を満たしていると言う結果が出ていた筈。
「あたしの知る限り有害物質が検出されたと言う話は聞いたことがないけど」
あたしが言うと、椎名は冷ややかな目をして笑い始めた。
「この国の政府や企業がどれ程多くの基準値をはるかに超えた有害物質含有量を示すデーターを隠蔽して来たか知っていますか?」
言われてみてやっと気がついた。
この国の、特にあたしが所属する政府与党のオハコ(18番)は隠蔽や隠匿と改ざんだった。
「ALPSの汚染水と呼ばれてしまうのも時間の問題なのです、皮肉なものですね、キレイに浄化したと国民たちが思い込んでいたALPSの処理水も自然に濾過された南アルプスの湧水も同様に汚染水になるとは想像もつかなかったでしょうね」

「予報ではもうそろそろこの辺り一体は豪雨になっていてもおかしくない筈、とにかく一生懸命非常口にたどり着いて長い階段を登らないと」
済ました顔で椎奈は言うが一体何キロ歩かされるんだよ。
「何キロ歩かないといけないかは知りませんが少なくともこの通路の中で溺れ死ぬよりは良いと思いますよ?」
椎名はあっさりと言うが『何でそうなる?』とツッコミを入れる元気も残っていなかった。
「そこらじゅうに発生したトンネル壁面の割れ目から大量に湧き水が流れて来ますが無呼吸の潜水泳ぎには自信ありますか?」
いきなりハードルが高すぎなことを言われた。

「それに別の理由で急ぐ必要があります、今おおい川下流では地下水の不足とおおい川自体の水量が圧倒的に不足しているために至る場所で発生した火災を消火出来ずに大火じに発展している可能性だってありますから」
椎名はそう言うと突然競歩並みの速さで歩き始めた。
「おおい、あたしが並みの人間だと言うことを忘れないで」
あたしの声が椎名に届いているかどうかは定かではなかった。

@痴情への道、もとい、地上への道

「運が良かったですね」
と言うと椎奈は立ち止まり振り返って通路の路面を見た。
もう地下水が流れ込んでくるぶしよりも少し上あたりの深さに達していた。
「とうとうトンネルの外壁が崩れ落ちたようです、一気に洪水のように押し寄せて来ている可能性がある振動を感じます」
椎奈はそう言うと歩く速さを速め始めた。
いや、もう完全にもう走っているって。
水の流れがあたし達とは逆方向だったらほとんど前に進めないかもしれない。
「トンネルの非常出口に行くまで間に合うの?」
力強い足取りの椎奈に少しずつ遅れをとりながらあたし。
「運が良かったと言うのはこの先に大きな崩落(ほうらくがあってトンネル外壁もろとも破壊されてそこからも大量の土石流が流れ込んできているのですが、そこよりかなり手前に非常出口の階段を感知出来ました」
椎奈の言葉にあたしは助かったとやっと自覚できた。
次の彼女のセリフを聞くまでは。
「この階段を登っていけば地表に出られるはずです、斜坑トンネルが無事だったら、という条件付きですが?」
いや、今更それはないでしょ、出口が塞がっているとかどんな鬼畜設定ですか?
「取り敢えずは登れるとことまで登りましょう」
椎奈は階段を駆け登り始めた。非常LED灯のおかげでトンネルの中の状態はある程度は把握できたけれど幅は約5メートル以上、天井の高さは3メートル以上はあるだあろうか?
「上は見ない方が精神衛生上よろしいかと」
椎奈は言ったが、遅いよ、もう見てしまっていた。
コンクリート面がひび割れて今にも落盤しそうな天井を。
両端と中央に手すりがあり左側の手摺には1人乗りの椅子に腰掛けるタイプの小型エレベーターが併設されていた。
「あれに乗れば楽できるかなぁ」
呟いたあたしを椎奈は睨み(にらみ)つけて言った。
「あんな遅いものに乗っていたんじゃ到底間に合いません、あれはバリアフリーを謳い(うたい)たいためだけに設置されたものですし地震時や停電の時はただの飾りですから」
そうだよな、カゴ室式斜坑エレベーターなんて作る予算がなかったんだな、それにそれがあったとしても地震時や停電の時は役立たずなんだろうな、きっと」
あたしが諦めたように呟いて十数メートルほど階段を登った頃だろうか?さっきまであたし達が通っていた非常通路を濁流が勢いよく流れていくのが目視できた。

その濁流の深さはどう見ても1メートル以上はありそこにいれば確実飲み込まれて成仏できそうな気がした。
「あと何メートル登ればいいんですかぁ」
あたしははるか先をゆく椎奈に訊いた。
上から流れてくる水の量は多くはないけどその勢いはそれなりにあってかなり歩行の妨げになっている。
「何メートル?ですか?何キロあるか私もよくわかりませんが?」
それが何か?的に返されてしまった。下手したら山手線1区くらい歩かされるのか?あたしは自分の体力が上から流れ込んでくる水の流れの圧力に奪われてつつあるのを感じていた。
足を上げることさえ辛くなりもうこのまま水流と共に階段を転げ落ちる運命なのかと諦めかけた時に誰があたしの背中を押してくれた。
ひらくばかりだった椎奈との距離も段々と縮まりやがて追いついた頃には非常口の出口が見えて来た。
「何じゃこりゃぁ!」
思わず叫んでしまった。
非常口の建屋は土石流で潰され(つぶされ)て壊滅状態(かいめつじょうたい)、てか本当にこれ外に出られるのか?
「ご心配なく、愛ちゃん、あそこに高さ50センチ幅70センチほどの隙間(すきま)がありそこから出られます」
椎奈はあっさりと言ったがどんな罰ゲームかよと思った。
しかしさっきあたしの背中を押してくれた感触は?
亜希の両手に背中を押してもらった時と似ていた気がした。
「さあて、ここから山をどう降りるべきか?」
日は昇り切っている筈なんだけど豪雨(ごうう)をもたらしている分厚い雲に空がおおわれてまるで日が沈んだ直後のような暗さだ。

【戻し水の水質?ちゃんと遠心分離機(えんしんぶんりき)にかけた上にフィルター通すから大丈夫ですよ?】

【ちゃんと100%地下水はおおい川に戻しますからご安心下さい】

耳元で誰かの声、自分がそれを言ったのか他人に聞いた話だったのか記憶になかった。

ただあたしはそれを信じて南アルプストンネルの工事に当時ただの中学生として賛成して来たのは事実だ。
とは言っても中央新幹線の工事は結局、ここがネックとなりこのトンネルの開通が事実上の中央新幹線の工事完了となった。

最初のうちはワクワクしていたものだったけれどいざ自分が国会議員になってしまうと仕事でしか使わない現実にガッカリしたのを覚えている。

観光に使うなら東海道新幹線か欲を言えば在来線の乗り継ぎが楽しいな、なんて思っている。
もっともそんな暇なんて全くないんですけどね、むしろアイドル歌手の方が暇(ひま)なんじゃないかと疑い(うたがい)始めている。

言っておくけれどどっかの偉い(えらい)知事さんや市長さんみたいにテレビに出まくっているなんてことはないし、あたしの場合は普通に街を歩いていても出庁、出張時の移動中でも何故か顔割れしたことが無い。
どうやらあたしは標準的な日本人の顔つきかもしれない。

「喉乾き(のどかわき)ませんか?水でも飲みませんか?」
そう言われてあたしは目を覚ました。
周りを見回すとあたしは椎奈に背負われながらいつのまにか居眠りをしてしまったようだった。
しかも彼女は両腕で少年を抱き抱えていた。

彼はあたし達が事故直後に車両内を探索中、シートベルトを着用したまま気絶しているのを見つけて連れ出した少年だ。
故に年齢や名前などは全くわかっていない。
ただ父親と思しき男性はシートベルトを着用しておらず上半身を窓ガラスに突っ込んで絶命していたのは確かだけど。

あたしも少年の身体もさして濡れていないのは驚きだった。
椎奈が非常出口の建屋の中に大きなビニールシートがあったからそれを使ったと言ってはいるけれどそれは多分嘘だと思う。
きっと異星人技術者が造ったアンドロイド特有の何らかのオーバーテクノロジーを使ったのだろう。
知らんけど。
「本当に飲まなくて良いのですか?」
しつこく訊いてくるのであたしはそのペットボトルを受け取ったがどうやってフタを開けようか悩む。
「両手を離しても落ちたりしませんから安心して両手を使ってください」
と彼女は言う。
恐る恐るためしに椎奈の首からもう一つの手を離してみたが確かに落ちることはなかった。
やっぱりオーバーテクノロジーを使っているのだろう。
「でもここは大きな河川だと思うけど一体なんで水がほとんど流れていないの?」
思わず問わずにはいられなかった。
「通常ではトンネル工事さえ終われば水の流れは戻ってくると思われていました、しかし現実に戻って来たのは想定の1/3程度でした」
淡々と言う椎奈にあたしは原因か理由はあるのか聞いてみた。
「それは全くわかっていません原因不明です、ただわかっているのは」
椎奈は一旦話を切ってペットボトルの水を飲むあたしをチラリと横目で見た。
「人間がやることはいつも完全完璧にみえて実はどこかが抜けていると言うことです」
まあ確かにそれは否定出来ないと思う。そうでなければ公害訴訟が延々と続いたり、不良建築などでビルが傾いたり橋にヒビが入ったりしないだろう。
「ここが、この川が突然に大洪水になるってことはないよね?」
恐る恐る椎奈に尋ねる。
「いいえ、忘れていましたが今回の地震でトンネルのあちらこちらで外壁が崩壊して水の流れが変わってしまいました、工事半ばと状況が同じに戻ってしまったと考えるべきでしょう、今最も心配なのは山梨側と長野側を流れる河川ですね、ただし山梨県川のトンネル出口が炮烙などで塞がってしまった場合はこちら側に濁流が押し寄せてくる可能性は否定出来ません」
「でもそっちにいく水をおおい川に戻す人工水路があるでしょ?だったら問題ないんじゃ」
そういったあたしの問いに対する答えは既に用意されていた。
「もしもまだそれが残してあったとしても水位の差で元の河川に戻すには電動ポンプなりで汲み上げる必要があります、ですが今はその肝心な電気を使えますか?まあなるようにしかならないでしょう」
あー確かにそれは椎奈の言う通りだわ。
それはともかく。
「川下の方がやけにそこらじゅうからどす黒い煙が上がっているけど何で?」
あたしは遠方の空を見上げながら言ったがラジオもスマホも電波死んでるしなあ?などと思いながら度々襲いかかってくる余震に気をつけながら椎奈の背中を降りて歩き始めていた。
「今、短波ラジオから入った情報ですと名古屋市を始め中部圏の都市は壊滅状態だそうです」
椎奈は自分の耳についたつまみを弄りながら絶望的な状況を語り始めた。

「一番揺れたのはこの辺りですが名古屋駅周辺の高層ビルが次々と転倒しているようです」
椎奈の言葉に思わず私は何かの冗談かと思い思わず笑ってしまった。
「不謹慎ですよ、愛様」
すかさず椎奈に咎め(とがめ)られてしまったけれどあたしにそんな悪気はなかった。
ただ単にあまりにも非現実なことを言われて何かの冗談にしか思えなかったせいもある。
「だってあの辺りの高層ビルって最新の耐震設計よ?」
「それは重々承知しております、愛様」
それが何で倒壊とか崩壊じゃなくて転倒するの?って話なんだけど?
「確かに地震により高層ビル群が倒壊したわけじゃありませんね」
椎奈は真顔で答えてきた。
「愛様は歯槽膿漏(しそうのうろう)をご存知でしょうか?」
「それくらいなら知ってるけど、歯茎が弱って健康な歯でも抜け落ちちゃうアレでしょ?」
「はい、その通りでございます、では最近の高層ビルは何故大きな地震にも耐えられるのでしょうか?」
突然そう言われても返答に困るけどあたしが黙っていると突然椎奈に抱き抱えられていた少年が目を覚ました。
「ビル自体の柔軟な構造もあるけどそれなりの深さに達する杭を設計応必要な本数打ち込むからだよ」
突然の議論参戦にあたしは少し驚いたが椎奈には、想定内だったみたい。
「じゃあ少年に聞きますが昔に開通した地下鉄は比較的浅い場所を通るのに最近建造された地下鉄がどんどん深い場所を通すようになったのは何故ですか?」
「そりゃ、バカと煙は高いところに昇りたがると言うくらいだからな、利口は深い地中に潜りたがるからじゃ」
あたしがそう言ったら少年に露骨にバカにした笑われかたをされた。
「だって本当のことじゃないですか?それでよく国会議員が務まりますね」

「じゃあ何だよ、テメェは賢いんだろうよ、本当のこと言ってみなよ」
ついつい、本性丸出しで返してしまった。

「昔はそんなに高い建物なんてなかっただろう、と言うことは基礎の杭もそんなにも深くまでは造っていなかったから浅い場所を通しても良かったんだよ、それよりも何よりも昔の地下鉄は工事のやりやすさを考慮して一般道路の下を通していたからね」
「何で?」
思わず返してからすぐさらにバカにされた目で見られていることに気がついた。
「本当にかつての9年連続で総理を務めたあの〇〇〇〇をさらにこえた大馬鹿野郎ですね?」
「お、女のあたしに向かって野郎とは失礼な奴だな、他人を〇〇〇〇に例えて愚弄するとはけしからん、訴えてやる!」
本当のことを指摘され、ついついあたしは逆上してしまっていた。
「お姉ちゃん、おっさんくさいんだよ、ビルの下とかは個人の所有地だから許可取ったり土地ごと買収する必要があるから金もかかるんだよね」
と少年。対する椎奈は続けて行った。
「その点、道路なら個人の土地ではないから許可を取る必要もないと、愛様と違い賢いですね、少年様」
椎名まで同調しやがって、あたしはだんだんむかついてきた。
「それはわかった、で何で最近の地下トンネル工事はそこまで深く掘らなきゃいけないの?」
「理由はいくつかあるけれど道に沿って掘らないといけないとなるとどうしても大きなカーブを作れない、そうなるとそこでスピード制限がかかって速達性に欠ける、だからビルの下も通さなきゃいけなくなったんだけれどさっきの問題が生じて来る、だから国の偉いさんは考えたんだよ、『地下40メートル以上の深いところを通す時は上の土地の所有者の権利が及ばないようにする法律を作っちゃえば良いんじゃね?俺ってかしこい!』って国会議員のくせにそんなことも知らないの?」
完全にバカにした目であたしを見下してきた。
いや、単にあたしが砂利の上に座り込んでいただけなんだけどさ。
「そうすれば最近の少し高層なビルの深い基礎のなどのさらに下を掘ることになるから工事もしやすい、ですね」
椎奈が同調した。このアンドロイドはどっちの味方だよ。
「でもそれならやっぱり問題ないんじゃ、何で高層ビルが倒れるのよ」
「問題は名古屋駅なんですよ、もしもここをやたらと深い位置にホームを設定したらどうなると思いますか?」
そんなのは簡単だ。
「乗り継ぎが大変になる、エレベーターの設置には限界があるしエスカレーターだって同様、混雑時のことを考えれば階段を主に利用させることも考えなければならないけれどそうなると大ブーイング、だけどあの辺は同鉄道会社グループや国の関係が所有しているビル、許可だって取りやすいはずだから浅いとこ通してもokなんじゃね?」
あたしだってそれくらいのことはわかるんですよ、賢いんですよとばかりに少年を睨み返したら相変わらず見下してやがった。
「さなだ虫程度の頭脳でもそのくらいは理解できるんですね、見直しました、で、最近の名古屋駅周辺にはどんなビルが立ち並んでいるかご存知ですか?」
「はいはい、田舎街名古屋駅周辺だったけど今は超がつく高層ビルが立ち並んでいますよ、それが何か?」
あたしはそれを知ってはいた、しかもさっきの法律が適用されない深さでそれらのビルの下を通さなければならない理由もその便利性をなるべく優先させるためだってことも。
「それくらいの高さになると基礎の土台も相応に深くなるよね?もしその直下をトンネルが通るとしたら?もしもその基礎を貫くトンネルを掘らないといけないとしたら?」
「まあ元々の設計よりも多少は安定性が落ちるかもね、大したこととは思えないけど、それが?」
どうした?と言いかけてあたしは顔面蒼白になっていたかもしれない。

「そう、普通に考えたら大したことじゃない、でもそこに想定を超えた揺れの大地震が襲ったら?」
名古屋駅周辺は元々は海の中だったと言う説もある、となると地中深く出会っても所詮は地下数十メートルは岩盤ではなく柔らかい可能性だってある、沖縄辺野古のアレみたいに。
もちろんそうだとしても液状化対策ぐらいは取ってあるだろう。
それなりに深さに余裕を持たせて基礎を深くまで固めるだろう。
あれ?と言うことは?
「基礎の中をぶち抜くしかないよね」
と少年は言った。
リニアの駅はすぐ近く、最低4カ所のホームを獲得するためにその付近からもうトンネルの幅を2倍以上恐らくは4倍近くまで広げなければならない、そんな穴で超高層ビルの基礎をぶち抜いたらどうなると思う、愛お姉ちゃん?」
そりゃあ強度は設計当初の数値よりは下がっているかもしれない、でもそれくらいは想定内なんじゃ?
「きしめんみたいに平ぺったいトンネルだとつぶれやすいですよ、卵型だとさらに面積と体積は大きくなります、理想は二階建ての四ホームなんですがそんな話聞きましたか?最初から平面4ホームありきでしたよね??」
そう言われれば確かに、以前の事例でもちょっとした手抜きで耐震性が極端に下がったと言う話、聞かなかったっけ」
「縦揺れと横揺れ、どちらかだけとは限らないですよね?上のビルの重みは相当なものです、トンネルでぶち抜かれた基礎がその重みやそのビル自体からかかる強大な横に捻る力に耐えられると思いますか?」
「うん、君なかなか怖い妄想するね、でも一つのビルが倒れるだけじゃ」
あたしはそれでも大したことにはならない、と思いたかった。
「あそこは少なくとも2つの高層ビルの下を通るんだよお姉さん?しかもあの辺は高層ビルが密集しているよね?」
そ、そうだっけ?あたしは今の名古屋駅周辺の風景を思い出しながら言った。
「ねえ、お姉さん、ドミノ倒しって知ってる?」
少年のその一言があたしの心を凍てつかせた。

しかし少年や、あんたは一体何歳だ?

参考資料

https://ja.wikipedia.org/wiki/褶曲?wprov=sfti1

褶曲(しゅうきょく、英: fold)は、地層の側方から大きな力が掛かった際に、地層が曲がりくねるように変形する現象のこと。

褶曲の形成
褶曲は、野外の地質調査で見落とすもしくは判別できないと、地層累重の法則が適用できない場合がある。地震の力によって短時間で形成される場合もあるが、多くはプレートの移動などで長時間強い力を受け続けることで形成される。2方からの圧縮の力と、隆起や沈降の力などがかかって形成される。比較的固い岩盤の場合は、褶曲が形成される途中で破断して断層となることが多い。

カレンダーガール5〜地中の怪鳥

終わり

カレンダーガール6〜亜希の拾いぐせ

に続く

#ハタチ未満閲覧注意
#SFっぽく
#政治色濃く
#過激な性暴力描写あり
#20才未満の方の閲覧はご遠慮ください
#小説

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26字
有料部分を時々追加、更新します、円盤特典みたいなものと思ってください。

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