椎奈2 旅に出る。

椎奈2 旅に出る。
2023/05/02校正更新
毎回とは限りませんが今作はエログロ描写や官能描写を多大に含みますので20才未満の閲覧はご遠慮してくださいね♪
なお現実と烈しく乖離している部分が多いですよ

目の前にいるこの人達は一体何者なんだろか?
ひとりは私にとって一番長い付き合いのある、映像検索によるとアンドロイド開発者のひとりの人間であり、分類としては女性だとすぐにわかった。
主に人工知能を含む演算回路およびストレージメモリーやネットワーク通信などに関する開発とメンテナンスを行なってきた人物だ。
彼女は私達が研究所を抜け出す時に助けを求めたはずの仲間の男にアルミニウムのドア越しに拳銃で腹を撃ち抜かれて瀕死の状態のまま私達と一緒に研究所を脱出をした佐原観萌を名乗る中学1年生の少女によってここに運ばれたが瀕死に近い状態だったけどスーパードクター的な彼女の才能か何かで何故か命を取り留めるというマンガみたいなことになってしまっている。
そして佐原観萌なる少女、中学1年生という若年でありながら何故そのようなスキルを身につけているのか?全く謎です。
それよりも私の論理演算回路を狂わせてエラー状態に陥らせたのは彼女の『ゾンビ』と言って良いほどの生命力と回復力、そして運動能力であった。
自動小銃の集中砲火を浴びせられてほぼミンチ状態にされたにもかかわらず彼女は数分後には何事もなかったかのように体を復元させて普通に立ち上がって私に話しかけてきた。
いや、復元というのは正しくはないかもしれない。
自動小銃で撃たれる前の彼女は年相応の身長が160cmくらい、胸や腰などの身体つきも目立たないただのセーラー服を着た娘にしか見えなかった、少なくとも私があらゆるサイトを検索しての結果だったが。
しかし私が数人の男達との戦闘を終えて最後の女性である彼女を始末しようとした時に目に入った観萌の姿は全くの別人に変化をしていた。
身長は170cmを超える長身に、身体つきも成熟した女性そのものに変化していた。
それよりも私をエラーに陥れたのは彼女の髪の毛だった。
胸までくらいのやや濃いめのストレートな茶髪だった頭髪は腰下あたりまで伸びて毛根から毛先まで七色の虹のようにグラデーションに変化して輝くストレートヘアに変わっていた。
もちろん服も木っ端微塵にされていたので裸同然だったが、血溜まりと肉片の中から起き上がった彼女は何事もなく階段を登って来ていた。
そのあとアンドロイドである私と同様に地上から3メートル以上の高さまで飛び上がったり瞬間移動するように動きながら男の頸動脈をかっ裂き返り血を浴びることなく私を開発した女性をお姫様抱っこしながら吹き抜けの下の回に飛び降りることまでやってのけるような化け物だ。
その後平然とその血まみれの姿のまま人混みの中を闊歩して自分のアパートに戻っている。
そのあとはもう私の頭脳はショートして何が起こったかわからなくなっていた。取り敢えず私には勝手に『椎奈』という名前を与えられて彼女の名前が『佐原観萌』なる人物であるということを紹介された。彼女は惨殺されるたびに見た目が大きく変わることがあると聞かさせた。
「それでは私はあなたを認証できなくなる恐れがあります」
そう言った時、彼女は笑いながら「よっぽど酷い殺され方をしない限りこの姿になるから大丈夫よ」と返して来た。
よっぽど酷い殺され方って何?どんな姿になってしまうの?機銃掃射でミンチにされるのは酷い殺され方じゃないの?とツッコミを入れたかったがそこは保留しておくことにした。
しかもこの私に国会議員のマネージャーをやってくれという。
しばらくは銃で腹部を撃たれた女性の面倒を見ながら車での移動になるから一緒にいてくれるらしいが私は不安でしょうがない。

私たちはハイエースなるワンボックスワゴン車に乗せられる事になった。
どうやら観萌の知り合いに借りた代物らしい。あっちこっち弄ってあるらしいが車体がタイヤまで含めて防弾仕様になっている事とエンジンや駆動系、サスペンションに至るまでチューニングアップされていてどんな状態でも200km/h以上は出せるらしい。
ちなみに平坦な道なら250km/h出せるかも?と聞いた。
まあ空気抵抗的には絶対にあり得ないハッタリだとは思うのだけど。
「さてと必要な医療機器は搭載したし、出かけましょうか」
観萌はそう言ったがサードシートを潰して搭載した医療機器はどう考えても総重量は1トンを超えている。ちゃんと走れるかどうか不安だらけだ。
観萌いわく、この方が後輪にちゃんとトラクションがかかってどんなに駆動力をかけてもホイルスピンする事がないからむしろ安全だという。
「愛、最初はあなたが運転しますか?」
当たり前のように観萌は倶名尚愛なる国会議員に訊いたが速攻で拒否されてしまった。
「だって、あたしまだ16になって半年ばかりよ、車の免許なんて持っているわけないじゃない」
そりゃそうだ、この国では18才にならないと普通自動車の免許は取れないと法律に定められている、いるんだけどあれ?
「確か国会議員になるためには25才以上だという決まりがあるはず」
私がそう言った途端、全員に爆笑されてしまった。しかも死にかけていた筈の女性技術者にまで、というかあなた治るのはやすぎない?
「あなたいつの時代のネット情報を閲覧しているのよ?このアホのおかげで選挙制度に関する法律が1年前に変えられて今は15才からでも国会議員に立候補できるようになったのよ」
観萌は笑いながら言った。しかし姉をあほ呼ばりするとは失礼な妹だな。と思いながら検索し直したら確かにそうなっていた。
「よくこんな法案が閣議決定とか国会本会議で通りましたね?」
私が言うとセカンドシート左側に腰掛けた本来ならば死んでいた筈の女性、私の開発技師が可笑そうに笑いながら言った。
15才からのアイドル並みの容姿を持っていればこの国の馬鹿な国民は政治理念とか才能関係なくホイホイ喜んで投票しちゃうのよ、この国は」
若干の皮肉が込められているのかもしれない。
「そうだねえ、愛なんてそのバカの極みだもんね」
観萌も冷ややかに笑いながら言う。
しかし倶名尚愛なる国会議員おおよそそんな役職とは思えない衣装をしている。一応ブラジャーは付けてはいるものの真っ白な無地で薄地のTシャツ、いや「TDK」のロゴが入っているか、昔30年ほど前に今の義理の母親である葉類智恵さんが買った5インチフロッピーディスク10枚入りのケースについていたオマケらしい。もちろん生地が薄いからなかのブラジャーも素肌もスケスケだ。それにデニムの超短パン。そんなにも生太ももを見せつけたいのだろうか?
まだネットで取り込んだカレンダーでは4月に入ったばかり、陽がかげり始めた今日はもう12℃を切っている。
「じゃあ誰が運転するのよ、まだ学習半ばのアンドロイドに運転させる気?」
それは確かに無理がある、こんな違法改造の塊(かたまり)のような車に関する情報なんてネットの何処にも転がっていない。ましてや腹を拳銃で撃ち抜かれた女性に運転させるなんて言語道断だ。
「仕方がないですね、私が運転しますよ」
いきなり言い出したのは観萌、だが彼女は見た目はともかくまだ中学1年生の筈、普通自動車運転免許なんてもちろんのこと原動機付自動二輪でさえ持っていないだろう。途中で検問にでも引っ掛かったら厄介なことになるのは目に見えている。
「ジャーン、これなーんだ」
観萌が自慢げに見せたのは大型二種まで運転出来る自動車免許、しかも今の姿の写真付きだ。
「きさま、偽造だな、それ」
間を置かずに愛が指摘した。もちろん生年月日まで偽造だろう。
「本当にこんな化け物を運転できるのか?」
不安気に言う愛をよそ目に観萌は当たり前のようにい運転席に座った。
「目的地はどこですか?」
取り敢えず助手席に座った私は観萌に訊いて見た。
「ちょっと合流したい仲間がいるの」
観萌は真顔で言うと車を身長に発進させた。
ちなみにこの手の車にしては珍しくトランスミッションはクロスレシオの6速マニュアルだった。
もちろんクラッチペダルもある。エンジンのトルク特性にもクセがあってかなり運転しにくいと私の論理演算回路は判断していたのだが車は難なく国道に出ていた。
国道22号線バイパスを北方向に向かって走らせているのは私に搭載されたGPSナビゲーションですぐに理解できた。
「それにしてもこんな車どこで調達したんですか?」
気になっていたので私は観萌に訊いてみた。
「あ、これね、愛をうちまで送ってくれた人の所有物ですよ、ちょっと個人名は言えませんけどね」
これその所有者は追及しちゃいけないタイプの人種だと私の直感(副論理演算回路)は言っているような気がした。
「この免許証はその人の娘さんが偽造してくれたもので私が変化する可能性のある20パターン分の写真付きの免許証が50枚ほどあるの」
「まさかとは思うけど愛さんも観萌さんもカタギの人間じゃないのでは?」
私の問いにセカンドシート右側に座っている愛が笑いながら答えた。
「君、面白いことを言うね私達はまともな学生であり、そこにいる女性も社会人だよ?最もまともなホモサピエンスか?って聞かれたらあたしも観萌もNo!というしかないけどね」
私の論理演算回路はまたエラーを起こしていた。
宇宙人だろうか?それとも地底人だろうか?もしや・・・
「最底人」
私の演算回路に衝撃が走り思わずそれに反応していた。
「はい、狭い室内で指先から弾丸を打ち出さないでね」
観萌に言われて気がつくと私の左手の中指は変形して小口径の銃口を観萌の顔に向けていた。
「ところでそんなワードの意味どこから拾って来たのよ」
呆れたように言う愛に私は言葉を詰まらせた。まさか大昔のギャグ漫画がネタだとは言えない。
「お、おまーアホやろ」
そんなセリフが検索されたがそんな事は口が裂けても言えない。
「ちょっとコンビニに寄って食料を調達してくるけどトイレ行く人いない?」
観萌はそう言いながら国道バイパス沿線にあるコンビニ店の駐車場に車を乗り入れて周囲を見回した。
「今のところ追跡者とかはいないみたいね」
観萌がそう言うと女性技術者が手を上げて「私も行きたい」と言い出した。
「わかったわ、でもあなたは組織の裏切り者扱い、いつ命を狙われてもおかしくはないことを覚悟してね」
観萌はそう言うとまず女性技術者を引き連れてコンビニ店内に入った。
彼女は念入りにトイレの中を確認すると女性技術者に入るように促し近くにある調理パンや簡易食品、清涼飲料水をカゴに入れながらトイレに近づこうとした男を睨みつけた。
革ジャンにジーンズというありふれた衣服に見える、しかし。
「怖いな、怪しいものじゃりませんよ」
私の集音マイク、要するに耳にその男の声が入って来た。
もちろん私の耳は二つだけじゃない胸と背中にもひとつずつこっそりと仕込まれているそして聞き取れる帯域こそ他のチャンネルよりも狭いが足の甲にもマイクが仕込んである。
そして半径100mの距離まで察知できる全方向に対して感知できる他周波数を同時に発進と受信が可能なレーダーも頭頂部に仕込んである。
「あの男の人、革ジャンの中の左側に拳銃と右側にジャックナイフをかくしもっている」
私の言葉を聞いても愛はあわてるそぶりも見せなかった。
「狙いはあの女性技術者って事ね」
涼しげに言いながら彼女は右手の手のひらを開いて何かを掴むようにぐっと握った。
すると男はその場にうずくまるようにしゃがみ込んで半開きになった口からだらしなく涎を垂らした。
「大丈夫ですか?」
観萌は駆け寄って男を抱き上げながら革ジャンの中の拳銃とジャックナイフを素早く抜き取って自分のバッグに入れていた。
それはアンドロイドである私の目から見てもかなり素早い行動にしか見えなかった。もしかしたら店内に数カ所設置されたどの監視カメラもまともに記録できていないのかもしれない。
「驚いた?あいつにかかればどんな高度な防犯システムがある店からでも万引きし放題だよ?」
何でもないことのように言うがそれって普通にお金を払って商品を買う必要があるのだろうか?と思わずにいられない。
「まあそこはあいつなりの信念、つうか思うとこがあるみたいだけど、ちゃんと携帯用トイレ袋買ってくれるかな?」
「気にするところそこですか?、と言うか愛さん、あの男にさっきは一体何をしたんですか?」
私はそれよりもさっきの男の挙動の方が気になっていた。
観萌の動きの素早さはあの廃工場で見せつけられた挙動で十分に思い知らされているんだけどあの男が急にしゃがみ込んだのは観萌ではなく愛という国会議員のせいだというのははっきりとわかっていた。
しかしどうやって?
「あ、あれね、簡単なことだよ、こうやってあいつの心臓を握りしめてやっただけだよ、あたしが願望した希望が実現する能力なんだよね」
愛がそう言いながらまたさっきと同じ動作を繰り返すとその男は再びその場にしゃがみ込んでいた。
またやってくれたらしい。
そうしている間にも椎奈と観萌が戻って来たのを見計らって愛が代わりにトイレに行くことになった。
「携帯用トイレ袋、忘れずに買って来た?」
「ごめんなさい、忘れました」
素直に答える観萌にふたりの関係を見た気がした。
「椎奈はなんか欲しいもの、ある?」
愛に訊かれた私は即答で「ではカストロールの潤滑油をお願いします、エンジン用で構いませんので」と答えたら案の定「コンビニにエンジンオイルはないと思うよ」と返されてしまった。
「そうだよね」と言いながら私は観萌が買ってきてくれたバイク用のエンジンオイルを飲んでいる。
置いてあるのがほぼ奇跡のようなものらしい。
「どう?」
と聞かれて「ちょっと粘性がありすぎるかな」と答えた。
まあ2サイクルエンジン用のガソリンに混ぜて使うからかもしれないけれど」と答えた。
「ちょと寄って欲しい場所があるんだけど」
女性技術者が口を開いた。
「どこですか?」
私は訊いた。
「保育所でしょ?今は大変なことになっているようだから急ぎましょうか」
観萌が緊張した声で言った。
「愛が紙おむつと離乳食を買って来たらすぐに出発します」
エンジンをスタートさせたと同時に愛が戻って来た。
「何があったんですか?」
私が尋ねると観萌は即答で返して来た。
「彼女が娘を預けているマンゴー保育所が何者かに襲撃されているらしいの」
それを聞いた途端、女性技術者の顔が青ざめた。
「まああの男を少し締め上げたら彼女の娘さんを拉致して人質にして椎名の奪還を試みているらしいね」
「観萌ったらいつの間にあいつを締め上げたん?」
観萌の説明にすかさず愛がツッコミを入れた。私が車の中から見ていてもそんなやりとりがあったようには見えなかったからだ。
「え?それ今聞く?」
もしかしてそれらしいやりとりがあったのだが私が見落としていただけかもしれない。
「あいつの心臓が愛に鷲掴みにされていた時、銃とナイフを奪いつつ両方とも突きつけて拷問、じゃない尋問したらあっさりと白状しましたよ」
もしかしたら観萌は男の首、頸動脈あたりに伸びた爪をたてて白状させたんだろうと思う。
でももしも男が素直に白状しなかった場合どうなっていたんだろうか?コンビニ店内が血の海になっていたかもしれない。
私のようなアンドロイドでもわかりそうな常識が通じないのが観萌の欠点かもしれないと思った。
車は来た道を戻って小田井方面に向かっていた。さっきよりはかなり急いでスピードを出して車を走らせているが嫌な予感がしてならない。
彼らは人という生物を道具としてしか思っていない、自分の都合でその生命活動を停止させることなど何とも感じていない連中ばかりだ。
車はあっという間に環状線道路に入っていた。
車線数は減ったが道はさほど混んではいなかった。
「歩いて5分くらいのところに車を停めます」
観萌はそういうと車をコンビニの駐車場ではなくてガソリンスタンドのそばに停めた。
本当は女性技術者は車に残ってもらい愛にガードをしてもらうつもりだったが『自分の子だからどうしても自分が守りたい』と言う事を聞いてくれそうもなかった。
「では作戦を立てます、椎奈のスキャンによると保育所の中には8人の幼児と3人の保育士が5人の男達に制圧されているように感じられています」
その数は多くはなかったが5人が全員自動小銃を所持しているのが問題だった。
「この手の仕事は小田井署の刑事さんがやるべき事なのではないですか?なぜ一般市民の私達が関わってる必要があるのか理解できませんが」
私はここの町の警察が何をしているのか不安になって来た。
「それなんだけど観萌もあたしもこの世界の人間じゃないんだよ」
愛が唐突に言い出した。
そう言われたら確かに観萌は突然にあの研究所に現れた気がする、それまでの私の記憶に彼女の存在は無かったはずだ。
「観萌さんはどうやってあの研究所に入れたのですか?」
私が言うと観萌は「覚えていない」と言った。気がつくとあそこに立っていて私の機能チェックをしている最中だったと言った。
「中に小さい子がいる以上乱暴な事をして自動小銃を乱射されて負傷者を出したくはないですね」
私はひとつの案として自分自身が囮になる事を提案してみた。
「それは賛同できないわ、彼らはもうすでにあなたを失敗作と見ているはずなんだけど証拠隠滅に保育所ごと爆弾で爆破しかねない、私に彼が行った仕打ちを考えるとやりかねないのが正直なところよ」と観萌。
それを聞いた愛がふと笑みを浮かべたような気がした。
「だったら作戦は決りね」
愛が言ったすぐ後に観萌が続けた。
「奴らに愛の能力で椎奈がそこにいる幻覚を見せる、それに集中させて私が時間操作能力で捕虜を幼児から優先して救出、保育士も救出した時点で本家椎奈と私、観萌が共闘して奴ら全員を気絶させる、それでどうかしら?」
「でもどうして?コンビニで愛さんがやったように相手の心臓を鷲掴みにすればいいのにどうしてやらないの?」
私は愛さんに訊いてみた。
「あの時はひとりだけだったからね、でも今度はひとりじゃない、もしかしたら5人とも心臓を鷲掴みに出来るかもしれない、けどもしひとりでもやり残した相手がいた場合そいつが自動小銃を乱射する可能性は否定できない、そうなった場合に犠牲者が出る可能性が高いからそのリスクは避けたいね」
愛さんはそう言うと保育所の入り口に私の幻想が浮かび上がって来て中の男達がそこに目がけて銃を乱射し始めた。確かその銃の名前はベレットarm1600だったと思う。(:もちろん違います、そんないすゞの車のみたいな名前じゃありません)
その間に観萌は時間操作能力瞬間移動という合わせ技というとんでもなくチートな能力を使い8人の幼児と3人の保育士の救出に成功していた。
実時間にしてわずか0.03秒くらいの間の出来事だ。
「全員やっちゃいますか?」
私の問いに対する観萌の答えは「No!」の一言だった。ここで無用な殺生をすれば重大な事件に発展することはもちろんのこと彼らに対する攻撃があった証拠を残せば後々この保育所に目がつけられることになる。それよりも保育士3人と幼児8人が同時に消えたことにしておけば彼らも上の人間に報告しやすいと言うことらしい。
「とりあえずあの子達と保育士達はどこに行きましたか?」
私の問いに愛さんはあっさりと答えた。
「あたしの知り合いが経営している病院で家族共々かくまってもらっているよ」
「そんなところに入れて大丈夫なんですか?むしろ警察署の方が」
私の提案に愛さんは首を横に振った。
「あたしも観萌もこの世界にはもうひとり存在しちゃってさぁ、そいつらが今大変な事になっていて東名高速の静岡あたりでヤバい奴らに追いかけられているらしいのは観萌も勘付いているんだろうけどどうやらこの街の小田井署署庁自体も襲撃を受けて大変なことになっているからそこの附属病院に仮入院させた方が良いと思うのよ」
珍しく長いセリフを言っていると思ったら案の定、愛さんはカンペを読み上げていた。
「ごめんなさい、無理を承知で言っていますが私の娘だけは一緒に連れさせてもらえませんか?」
女性技術者は急に観萌に懇願(こんがん)して来た。
「何かわけがありそう?いや自分の娘さんと一緒にいたいのは当然のことか」
観萌はそう言うと瞬間的に消えて数分後に3才くらいの幼女を連れて来た。
「さあ時間操作を解除したからさっさとこの場所を離れますよ」
観萌はそう言って車をさっきまで来た道を戻り始めていた。
「病院はどうだった?」
愛さんが観萌に訊いた。
「やっぱりおばあちゃんはいなかったみたいね、東名高速でのトラブルに巻き込まれているみたい」
私にとっては訳のわからない事を言い出した。
「とりあえず現状報告をしておくわね、私と愛は約半年以上過去から飛ばされて来たみたい」
「何?その奥歯に物が挟まったような言い方は?」
愛さんは観萌に問い返した。
「あなたが中央新幹線でここ、名古屋に来たのはいつ頃?」
それにしばらく間を置いて愛が返した。

「あ、それなんだけど、あたし、その辺の記憶が曖昧なんだよ」
「どんな気候だったかしら?」
「よく覚えていないけどクソ暑かったのだけは覚えている」
私にはよくわからないけれど急に気候の話をしだした。

「私は月海と一緒にCDを買いに雑貨屋の中をうろついていたんだけどいつの間にかあんな研究所みたいな所でコンソール端末を怪しげな男の人の後ろから覗き込んでいたんだけどなんか危ない雰囲気になって来て」
観萌は言うが彼女はその後いきなり下の吹き抜け階に飛び降りて来て。
「その後とんでもないセクハラをかまして来ましたよね?」
私は一応突っ込んではみたが観萌は完全にスッとボケていた。
「そんな事しましたっけ?」

車は再び国道22号線バイパスに出ていた。
さっき言うのを忘れていたがここの立体交差点はかなりややこやしい。
初見はかなりの確率で進入を間違えて事故る確率がある。
と私の論理演算回路は答えをだしていた。
「んなわけあるかい」
とすぐに愛さんからツッコミが入った。
「あ、そうだ名古屋駅西口の地下駐車場に向かう階段を降りていた気がする、急に目眩(めまい)がしだした途端に肌寒さを感じるようになって・・・」
愛さんはそこまで言いかけて「何であたしこんな薄地の服を着ているんだろうか?」と言った。
「そこで風間達也とか言う刑事と待ち合わせをすることになったんだよね、そいつがめっちゃ運転下手くそでさ、結局このハイエースあたしが運転して観萌のアパートまで・・・あれれ?」
「結局愛は最初から無免許運転でウチまで来たんじないですか!」
大声で怒鳴った観萌の声に驚いたのか女性技術者の娘が目を覚まして急に大声で泣き出した。
「そろそろこの娘の名前だけでも教えてくれないかな?」
観萌が尋ねると女性技術者技術者はすぐに『風間志乃』と答えた。
それを訊いた途端に観萌と愛はルームミラー越しに顔を見合わせた。
そしてすかさず続けて、母親であろう女性技術者に自身の名前を訊いた。
「私は『冴子』、ごめんなさいそれ以外の記憶はないの」
とだけ答えた。
それを聞いて愛は『ヒュー』と口笛を吹いた。
「なんたる偶然、いや、必然性かな?」
愛はそう言いながら泣き叫ぶ志乃を抱きかかえるともっと大泣きをし始めてしまった。
かと言って今の冴子さんはこの娘を抱けるような状態じゃない。
「私が、椎奈がその娘を抱きましょうか?」
私が言った途端に全員が「それはやめてー!」と叫んだ。
「失礼な、私がこんな可愛い娘を肉団子にするわけがないじゃないですか?」
私は抗議したが誰も同意してくれる者はひとりもいなかった。
それにしても私、椎奈を開発した女性技術者でもある冴子さんまでに言われるとは流石に想定外だった。
「どうして?」
私が聞くと冴子さんはかなり困った顔をしていた。
そう言っている間に『志乃』なる幼女は私の両腕の中にいた。
えも知れない快感が私の両腕の内側胸もと、お腹から伝わって来て思わずこの娘を強く抱きしめたい衝動に駆られてしまった。
「やめてぇ、うちの娘が潰れちゃう」
泣き叫んで懇願する冴子さんをよそに私の腕の中の志乃ちゃんはスヤスヤと眠り込んでいた。
それを見ていて何故か1番驚いていたのは他ならぬ冴子さんだったのは想定外だった。
「実は他の方達の前では言いにくい事なんですけど彼女、『量産タイプ23号』は殺戮マシーンとして開発されました」
初耳だった。私はてっきり女性の代用として殿方を喜ばせるために作られたかと思っていた。
「まずこの娘が眠っている間に言っておきますが『23号、あなたとエッチをした男は必ずあの世に召されます」
「意味がわかりません。なぜ私と交尾した殿方が命を落とすのですか?」
思わず訊き返してしまった。
「あなたのあなに入れた男の(ピー)にあなたのあなから飛び出した数本の注射針によって強力な神経毒が注入されて瞬殺されてしまいます、あなただけに、あなから」
言っている意味がよくわからなかったがどうやら私とエッチをした殿方はもれなく天に召されるらしい。
「あ、23号は何か勘違いをしているかも知れないけど天に召されるのではなくて地獄に堕とされるんです」
え?「どうして?」と私は問い直さざるを得なかった。
「と言うか冴子さん、せっかく観萌に『椎奈』という名前を頂いているのでそろそろ『鉄人23号』みたいな呼び方はやめて頂けませんか?」
私がそう言うと彼女は大きく首を横に振った。
別に私は志乃ちゃんを使って脅しているつもりはない。ないのだが彼女は異様に怯えていた。
「すみません、私、男達に命じられて、色々な機能をあなたに付け加えさせられました、例えば23号、失礼しました、椎奈さんでしたね、ごめんなさい、殿方とエッチをしている最中にたとえさっきの神経毒に耐えられたとしてもあなた自身が絶頂に達した瞬間に相手の男は命を落とすのです」
「ちょっと言っている意味がわかりませんね」
私は素直に感想を返した。私は殿方を優しく愛するように出来てはいないのだろうか?
「椎奈さん、男の人を愛しすぎて彼の体に強く抱きついてしまいます、その力はおよそ200トンに匹敵します、男の体は肋骨が折れるばかりか皮膚がそこらじゅうで破れて破裂した内臓を飛び散らします」
そう言われて気がついた。私はあの時、論理延安回路が暴走していたとはいえ少なくとも3体の男性を生命活動の維持が不可能なまでに破壊し尽くした事を。
「ごめんなさい、私、命じられるまま、あなたを暗殺用アンドロイドとしてプログラムした、あなたは自分が愛したものを誰もが不幸な死をとげるように、もしもあなたが私の娘、志乃を抱き潰してしまったとしてもそれはそうプログラムした私のせい、あなたのせいじゃない」
私の腕の中の志乃がぐずり出して大声で泣き出した。
私はそんな彼女のほっぺに唇を当てて「怖くないよ、お母さんはすぐ後ろにいるからね」と囁いた。
どうして自分がそんな事を言ったのか、私自身にも理解は出来ていなかった。だが気になる事がひとつあった。
「冴子さん、あなたと志乃ちゃんは本当の親子じゃない、それなのになぜそんなに大事にする?」
私の問いかけに対する返事はなかった。
私はそんな冴子さんにお構いなく指示を与えた。
「冴子さん、少し右寄りに、愛さんに密着するように席を詰めてもらえませんか?」
そう言うと私は空いた後ろの席を塞ぐように自分が座っている助手席をフルリクライニングさせた。
私の右肩の上部にあるフタが少し開いて先端にドリルのキリのような物が取り付けられた細いワイヤーが伸びて冴子さんの服の上からお腹あたりを突き刺した。
「ごめんね、あなたをこんな殺戮マシーンに作り上げた私の罪は深い、あなたの好きなように殺していい、でも約束してその娘、志乃だけは守って」
まぶたを閉じて涙を流しながら冴子さんは私に訴えた。
「冴子さん、それは違う、私はあなたの体内に埋め込まれた自害用のマイクロチップを破壊して吸収した、その上で損傷していた内臓を修復して傷口を背中と合わせて全て縫合した。もうあなたはいかなる殺人兵器を造らなくても良いし、奴らからのコマンド送信によって命を落とす心配もない」
確かに私の声帯から発生していた声だったがまるで赤の他人がしゃべっているような気がした。
そう私の中の論理演算回路とは別の副論理演算回路があってそれが私に喋らせているような気がした。
「そこでついでと言ってはなんですがこの娘、風間志乃ちゃんの本当の正体を教えてもらえませんか?」
しばらくの間、車内に沈黙が続いた、しかし冴子さんは思い切ったように口を開いた。
「今の椎奈さんの治療の際に思い出しましたが実は彼女は私達、外恒星系から訪れた異性系人類の手で作られた実験体だったのです」
また再び沈黙が車内を覆い隠した。
しばらくして観萌がぼそりとつぶやいた。
「つまり、彼女こそが私たちの始祖だったというわけね」
私自身の論理演算回路は完全にパニックに陥ってハングアップしていたがもうひとつの副理論演算回路は全てを知っているような気がして来た。
その頃には車は国道22号線バイパスから左折して登り坂になっている側道に入ってすぐ高架になっている国道21号線に合流すると西に、大垣方面に向かって観萌は走らせていた。
「でもどうして静岡方面に走らせるんじゃくて敦賀方面なのよ」
少し苛立ちを見せながら愛は観萌に訊いた。
「すべての元凶があそこにあるからよ」
あっさりと言った割には観萌の顔は悔しさに満ち溢れていた。

椎奈2 旅に出る。 おわり

椎奈3に続く

うー誤字脱字が多かった事をお詫びします。

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