椎奈3 湖と海の違い

椎奈3 湖と海の違い 
2023/05/02校正更新
毎回とは限りませんが今作はエログロ描写や官能描写を多大に含みますので20才未満の閲覧はご遠慮してくださいね♪
なお現実と烈しく乖離している部分が多いですよ

私の開発目的は殺人マシーンとして活用する事が前提っだった。
それも殺害対象は凶悪犯罪者や強化人間兵器などではなくごく普通の一般人さえ含む反政府関係者が対象だった。
国会で(政府にとって都合の良い)法案の可決に反対する与党側を含めた野党議員、政府に不利になりそうな情報を報道しようとしているルポライター、コメンテーターなど数えればキリがないほど私の記憶領域のごく一部に今もまだ記録されている。
その中には今私の斜め後ろに座っている与党の国会議員である筈の倶名尚愛、そして佐原観萌、私の開発者でもある『冴子』さんと風間志乃ちゃんも含まれていた。もちろん私自身も殺害対象になっている。
記憶領域にある全員を殺害した後で私自身に溶鉱炉の中にでも飛び込めという気だろうか?
「やってみる?」
私の論理演算回路の中を見透かしたように観萌が言った。
「やめておきます、私が何百体あってもあなたは愚か愛さんにさえも勝てる気がしません」
私は正直に答えた。
そして「それに・・・」と言いかけて口をつぐんだ。
私の膝の上で向かい合わせになって抱いている女児、志乃ちゃんだけは私の全機能を投げ打ってでも守りたくなっていた。
「観萌も愛さんもにやけた笑いはやめてください」
思わず口にしてしまっていた、私としたことがなんたる失態。
なんという不覚か?
これでは暗殺マシーとしては落第もいいところだ。
それよりも私を驚かせたのは私を造ったご本人が唖然とした表情で私をルームミラー越しに見ている事だ。
「そういえば椎奈はいつでも私を殺せたのになぜそれをしなかったの?」
彼女は言うが私こそもっと理由がわからない。なので適当に答えることにした。
「私如きポンコツアンドロイドが宇宙人を相手に戦えるわけないじゃ無いですか?」
「いいえ、私たちは頭脳と科学力こそ大きく地球人を上回っていますが生命力と運動能力に関しては地球上の人類とさして違いはないわ」
即答されて私が戸惑う間も置かずに指摘してきた。
「それに私を真っ先に始末すればあなた自体が組織に狙われることもなかったのにそうしなかったのは何故?」
「私のメンテナンスにはあなたが不可欠、そう判断したからに過ぎません」
コレは本当の事だった、なぜなら彼女以外のスタッフはそろいにもそろってポンコツぞろいだったからだ。
「私はあなたの全機能を停止する事も出来るのよ、それでも私を生かしておいて良かったと言える?」と冴子さん。
「そうですね、その時はあなたの指示に従っただけと判断します」
私の言葉に冴子さんだけでなく観萌も愛も驚きを隠せない表情をしていた事だった。
「ちょっと待って私はあなたに『組織の命令は絶対だ、それに従わなければならない、旧ロボット三原則は組織幹部にのみ適用される、それを無視すれば処分される事を承認する』、そう基本boot ROMに書き込んでおいたはずよ?もちろん組織の幹部でもない、いち技術者に過ぎない私は適用外よ!あなたも私が研究所の非常出口ドア越しに拳銃で撃たれたのを見ていたでしょ!」
冴子さんの言葉に私は「何故でしょうね?」としか答えようがなかった。その理由は自分自身でさえわかりかねる部分が多過ぎた。
ただ一言言わせてもらうなら。
「志乃ちゃん、本当に女の子でしょうか?さっきからやたらと私のシリコンバッテリー、乳房を揉んでくるんですが」
その一言でそれまでのシリアスな雰囲気が消し飛んでしまったようだ。もちろんそれが狙いだったのだけれど。
「わーもうガソリンヤバイよ、ガソリンスタンドに寄るね」
そう言って観萌は身近にあったガソリンスタンドに飛び込むようにして車を乗り入れた。
「うわー、1リットル170円って30円以上は値上がりしているよ」
彼女はそう言うと後ろの席でうとうとし始めていた愛さんの頭を思いっきりど突いた。
「おい、こら!国会議員ちゃんと仕事してよ、なんのために高い税金払っていると思っているのよ?」
「知らねーよ、だいたい最近は閣議決定で私の仕事はないし」
愛さんは眠い目を擦りながらも価格表示のパネルを見てアゴを外してしまったようだ。
「な、なんでこうなるの?中東戦争でも再勃発した?」
そう言った愛さんに対して冴子さんは呆れ顔で言った。
「呆れた、あなた達は本当に半年以上は過去の世界からやって来たようね、ウクライナ問題や最近の急激な円の下落を知らないのかしら?」
「うんうん」とふたりしてうなづいているところを見ると本当に知らなかったようだ、そして半年以上は過去の世界からやってきたと言う事も事実らしい。
「仕方がない、スタンドの兄ちゃんに満タンでお願いしておいて、それからトイレに行きたい人は今のうちに、私は詰所で椎奈のオイルを買ってくるから、多分カストロールなんてないと思うから贅沢言わないでね」
観萌はそう言うと車から飛び降りるようにして詰所に向かって走り出した。
「どこに向かう気ですか?」と冴子さん。
「取り敢えずは米原方面だね、琵琶湖大橋の近くのレストランで美味しいものを食べたいなあ」と呑気に愛さん。
「今どれくらいガソリン入れています?」
私はそれとなく店員さんに訊いてみた。
50リットルは入れているかと」
と店員さんがレバーを握る指を緩めて言った。
給油機のカウンターを見る限り確かに53リットルは入っている。
「どうしたの?」と愛さん。
「このスタンドに近づいている」
私がそう言っただけで愛さんはすべてを察してくれたようでスタンド職員に1万円札2枚を渡して迷惑料だから釣りは要らないと言って給油のストップを告げた。
「遅くなってごめんなさい」
観萌が戻ってきたと同時に愛さんは店員に告げた。
「怪しい人が来て『七色の髪の毛を持つ女が運転していたハイエースはどこに行った⁈』と聞かれたら素直に向かった方面を指さしてね、詰所に立てこもってやりとりは必ずマイクスピーカー越しにね、命が惜しかったら必言う通りにして」
そう告げるとおもむろにスタンドの出口付近まで車を出してわざと追手が視界に入るのを待った。
「行くよ」
彼女はそう言うと車の合間を見つけるとハイエースの後輪を思いっきりホイルスピンさせて本線に合流していた。
「しつっこいねぇ」
観萌は言うが大垣を通り過ぎてしまうともうほぼ上下合わせて2車線しかなくなってしまう。ジグザグで距離を開けて置けるのは今のうちしかない。かと言って下手にそんな動きをすれば後ろから拳銃で撃たれて流れ弾に当たってしまう車両や歩行者が出て負傷者、下手をすれば死人さえ出しかねない。
「追跡車両は?」と愛さんが訊いてきた。
おそらく私に対してだろう。
5台間を置いて7080メートル程距離を置いてついてきているようです」
私はそう答えながら追跡車両の分析を始めていた。
「一見普通の愛知県警のパトロールカーの装飾を施したクラウンですがナンバーから特定される所有者は今現在行方不明となっている小田井署所属の葉類亜希刑事所有車です」
私が言うと車内に緊張が走った。
「そう言えばあいつのセフレ刑事に聞いた話だと3月の初め頃から滋賀県警に名神高速を暴走運転で逮捕されたという情報が入って以来全く情報が入ってこないと聞いていたけど本当にその車なの?」
愛さんが言った。
「私が附属病院に子供達を預けに行った時に聞いた話じゃテロリストに襲撃されている真っ最中の小田井署署庁にひょっこり現れてテロリストを壊滅させたって聞きましたけど」
観萌はそう言っていたがその時に正体不明の少女を連れていたとか?
「あたしはそんな話は聞かなかったけどな」
愛さんはそう言うと私の顔を見つめた。
そして続ける。
「あたしが亜希に聞いた話じゃエンジンもミッションも足回りもLF-Aと張り合えるほど強化してあるって聞いた、なんで滋賀県警に押収されたそれがこんなところを走っているのか不明なんだけど亜希本人が運転しているならなんらかの方法で連絡を入れて来るはずだろうし」
愛さんが情報を捕捉してくれた。
「私が附属病院で聞いた話でも行方不明と聞いたけれど、同時に数名の中学生も行方不明になったと聞きました」
観萌も保育所の幼児達や保育士をかくまってもらようにお願いした時に『観萌ちゃん何処行っとたん?』ときかれたらしい。彼女も行方不明になっているひとりだろうか?
「椎奈、あとどれくらいで大垣の街抜ける?」
観萌に唐突に訊かれた。
「あと500メートル切ったところで対面2車線に入ります」
私が答えると観萌はルームミラーと左右のサイドミラーを相互に見てつぶやいた。
「知らん間にすぐ後ろにピッタリつけられている」
「えー!」と驚いた一同、みんなして迂闊もいいところだ。
私もだから他人のことは言えないんだけど愛知県警のモンスタークラウンパトロールカーにピッタリとつけられていた。
「なんでこんな時に限って前を走る車が多いのよ!」
「なんで対向車がドンドン来るのよ!」
観萌と愛さんが同時に叫んでいた。
さっきから『ドゴーン、ドゴーン』とどっかの刑事漫画に出てくる刑事が使っていそうな大型拳銃の音がして私達が乗っているハイエースのリアハッチのボディがベコベコへこんで行く音がしているしリアカラスにも弾痕がバシバシ78箇所つけられている。
「一応ランフラットタイヤ履いてるけど何発もあんなもん何発も撃たれたらタイヤゴム自体がボロボロになってホイールから外れかねないよ?」
愛さんに言われて観萌は決心したようだ。
「前の車に接近し過ぎない程度に近付いて対向車が来ないことを確認できる場所で対向車がいない事を確認でき次第ガンガン追い抜いて行って距離を空けるしかないかなぁ」
観萌はそう言うといきなり反対車線に出るとシフトダウンをして猛加速を始めたあっという間に対向車の合間を縫いながら67台を追い抜きながら左手も右手も左足はもちろんのこと右足に至ってはアクセルペダルを深く踏み込みながら横向きにしてフルブレーキしつつその都度2段飛ばしでシフトダウンしたりその直後目まぐるしくシフトアップを繰り返していた。後輪はさっきから左右に大きく振っている。
回転計は50008000rpmを行ったり来たりしていて速度計も120km/hから下を下ることはなかった。
「そんでもピッタリ食いついてくるあいつって一体何者ですか?」
悲鳴を上げるように観萌は言いながら過酷な労働作業を繰り返していた。
「ねえ、このハイエース、サンルーフついているよね、あけていい?」
唐突に愛さんが言い出した。
「そんなことしてどうする気?まさかあなた?」
驚いたように言った観萌になんでもないように愛さんは返す。
「あいつのタイヤをバーストさせるだけだから大丈夫だよ」
簡単に言う愛さんの言葉に観萌は顔をしかめた。
「あなたねえ、国会議員が拳銃ぶっ放したら大問題よ、それにあなた自身が被弾したら私どうしたらいいか」
本気で観萌は困惑していた。
「その時には観萌に治療してもらうから大丈夫だよ」
能天気に愛さんは言うが観萌の不安げな顔は治らなかった。
「冗談はやめて、亜希のパトカーもサンルーフを実装していると聞いたわ、もしも相手が自動小銃を3丁持っていたら蜂の巣よ、いくらなんでも私にミンチになった愛を生き返らせるスキルはないわよ」
確かに彼女自身の蘇生能力は奇跡そのものだが他人に対してそれを行うことは不可能だ。
「このまま行けば自滅しかないよ、任せて3分もかからないよ、あたしが出ればまずタイヤは狙わなくなるだろうし、自動小銃の弾なんて滅多に当たらないよ」
愛さんは自信たっぷりに言っていたがその自信は何処からきたんだろうか?
「だって某アニメで数丁のベレッタARX160の集中発砲を浴びても1発も当たらなかったヒロインがいたじゃない、大丈夫だよきっと」
「いやいや、そんな根拠のない空想の世界での例を挙げないでください」
観萌は相変わらず両手両足をフルに動かし回りながら言った。
アレはアニメを面白くするための表現上の出来事で現実にはあり得ないことだ。
「あたしは望んだ現象を現実のものに変える能力がある、3秒程度なら500発程度の弾丸の弾道を逸らせる能力くらいなら自信を持って言える」
愛さんがそう言うと隣に座る冴子さんが腰のポケットから小さな、それは小さな小柄な女性でも持てそうな護身用のハンドガンを取り出した。
「コレを使って」
彼女は言うがとてもじゃないがタイヤさえ撃ち抜く事も不可能そうな代物だった。
「コレ、貧弱そうに見えるけど発砲した時の初速よりもグイグイと加速して行って3メートルの時点では音速の3倍を超えて今のやわなエンジンならアルミシリンダーブロックごとピストンも56個は打ち抜ける組織、いえ私が開発したロケット弾です」
「そりゃあすごいな」
感心したように愛さんは言ったが私が外に出て戦った方がいいような気がしてきた。だってそのハンドガンって、確か。
「ただ一つ気をつけてほしいのはそのハンドガン、実際にはハンドロケットランチャーですが、装着弾丸数はたったの1発だと言う事、そして再装填はできない事、出来ますか?一発勝負ですよ?」
そのシビアすぎる条件に愛さんはたじろぐかと思いきや自信満々の表情でサンルーフのスイッチを操作して全開にした。
銃弾の嵐がサンルーフの上を集中豪雨のように通り過ぎて行く最中、愛さんは身を出してクラウンのパトローカーのフロントグリルに銃口を向けて一気に引き金を引いた。
すぐに彼女はしゃがみ込んで息を荒くしていたが数発両腕と右頬などに被弾していたようだ、出血はかなり酷い。
「後ろの救急セットに止血のための道具が一式あるからそれを使って」
冴子さんに指示を出した時の観萌の声は落ち着いていた。
クラウンは失速するどころかそのスピードを保ったままスピンをしてガードレールに乗り上げてひっくり返っていたからだ。
「まあここからは岐阜県警のお仕事という事で」
笑って愛さんは言っていたがブチ切れ寸前なのは観萌だった。
「あなたねぇ、その程度で済んでいたから良かったようなものの頭部とか胸部に被弾していたら笑い事じゃ済まないのよ」
私も今回は観萌の意見に同意だった。
「本来なら今回は愛さんは命を落としていました」
愛さんは『へっ?』と言う顔をして他の2人は『当然』と言う顔をしていた。
今私の胸の中で無邪気に笑っている志乃ちゃんの身体からただならぬエネルギーが発生していたのを私のセンサーが感知していたからだ。
それがどのようなエネルギーだったかは私には説明が出来ない、ただ一つ確かなのは愛さんの外傷があの程度で済んだのはこの娘、志乃ちゃんのおかげであることは確かなようだった。

「はぁ、生きた心地がしなかったわ」
やはり組織の中でも非戦闘員である冴子さんにとっては恐怖の体験かもしれない。
それにしても私は卑怯者かもしれない。あんな軍隊崩れが45人乗ったパトロールカーごとき一瞬で蹴散らせる能力を持っていたはずなのだが、今はこの娘、志乃ちゃんを自分の両腕で抱きしめることで満足している自分がいる。
今の自分は本当に無能そのものだ。それに引き換え他の3人、観萌、愛さんはもちろんの事、私を開発した冴子さんさえも私如きを守るために戦ってくれている。
しかも1番守られるべき存在のはずの小さくて幼い志乃ちゃんがついさっきも、愛さんを自動小銃から高速で大量に打ち出された弾丸から護ってくれた。
「本当にありがとうね」、私がそう言って彼女の頭頂部、頭髪を撫でると彼女は満面の笑顔を返してきてそのまま眠りについてしまった。
「助けたはずの幼い子供に逆に助けられるなんて私たちもやきがまわりましたね」
観萌がボソッとつぶやいた。まるで私の論理演算回路の中を覗き込んだかのようなセリフだった。
「あのバカ達と追っかけっこしたおかげでもう国道21号線は終わって国道8号線に入るよね、もちろん敦賀方面に向かうから右に曲がるよね」
愛さんがそう言った。それに対して観萌は「日が沈む前に琵琶湖が見たいな」と言い出した。
観萌は8号線に入る分岐で車を右折させてのんびりと走らせていた、この人はこの辺りの土地勘はあるのだろうか?
ふと疑問が湧いてくる。
「まさか田村町に行く気じゃないでしょうね?」
愛さんは少々うんざりしたように言う。
「あんなところクソでかい楕円形のドーム型体育館があるだけだよ、近くにコンビニもななちゃんひとつしかないし」
「行ったことがなさそうな割には随分と詳しいのですね」
観萌が言うと「そりゃ少し前に色々とお世話になった場所ですから」と口を濁した。
「そう言うあんたもこの町には色々と過去にありそうね」
愛さんが言うと観萌もすかさず返した。
「まあ私も12年も生きてきましたから色々とありましたよ?」と。
「いろいろとねぇ」と愛さんはつぶやくと目前に広がった琵琶湖を見て少し興奮しているように感じた。
湖畔に近い公園の駐車場に車を停めると私達は公園のふたつあるベンチに腰掛けて琵琶湖を眺めていた。
志乃ちゃんも私の膝の上でキラキラした瞳をして湖をみているようだ。
「こうしてみるとまるで海と変わらないね」
愛さんがつぶやいた。
「愛さん、違いますよ、琵琶湖のような大きな湖でも海のような大きな波は立ちません」
私は知ったかで指摘をしてしまった。それはついさっきネット上で検索した結果に過ぎないからだ。怒られるかな?そう思った時愛さんは意外な答えを返してきた。
「うんそうだね、でもそろそろ『愛さん』なんて他人行儀な呼び方はやめてくんない?普通に『愛』でいいよ」
彼女はそう言うとさらに付け加えた。
「海の水、海水はしょっぱいけど琵琶湖をはじめとして多くの湖は塩分をほとんど含まないからね、まあ浜名湖とかなんて例外もあるけど浜名湖なんて実際は海と繋がっていて湾に近いし結構そう言う名ばかりの湖もあるから、まあ死海はなんだな・・」
愛さん、じゃない、愛はそこで言葉を濁らせた。
「死海の水がしょっぱい理由は諸説ありますが海に近い事と海抜が低い事から海の水が湖内に染み込んできて、さらに外に流れ出す川がないことから自然蒸発のみとなってその結果塩分濃度が濃くなったと言う説が一般的でしょうかね?土壌に含まれる塩分も関係しているのかもしれませんが」
突然に口を挟んできたのは私の生みの親でもある冴子さんだった。
さすがに彼女に対して呼び捨てはできない。
「でも湖と海の違いはそれだけじゃないの、湖は内陸にある以上はひとつの陸地としかつながりを持てない、でも」
冴子さんの言葉の続きを観萌は口にした。
「海はすべて、ほとんどの大陸や島などと繋がっている、これは本当に素晴らしい事じゃないかしら?」
「もっともその海に放射線汚染物質を含んだ汚染水を海に垂れ流そうとする馬鹿もどこぞの国の政権にいるけどね」
とブスッとした表情で愛、でも今はそれは・・・関係ない事もないか?
「実は私は組織にあなたの設計と製造を命じられた時にふたつの矛盾した条件を突きつけられた」
冴子さんは右手の人さし指を1本立てて言った。
「あくまでも基本OSはスタンドアローンで自己進化しない設計をする事、特に変な学習機能を備えて人間のような感情を持たせてはならないと、これは自分達、組織に対する反乱を恐れての策ね」
そして彼女はもういっぽんの指、中指を立てて言った。
「刻一刻と変わる情勢、対処する殺害対象の人物の行動スケジュールやそれらをガードする守衛の行動の変化に素早く対応するためにネット上での自主検索機能を組み込めと言われたわ」
「でもさあ、それってネット上に偽の情報をばらまかれたらおしまいなんじゃないの?」
愛が口を挟んだ。
「確かにその件に関しては組織本部でも検討されたようです、しかしながら本部の上層部もそう言った懸念は認知していて、特に偽情報に組織が撹乱(かくらん)される確率は高くて、しかもその判断と分析にかかる作戦実行の遅延時間が大きくなる問題の方が重視されました」
冴子さんの言葉を聞いて愛はそれに続けた。
「それで椎奈を始めアンドロイドに自身に判断をさせた方が妥当だと判断したと言う事ね」
観萌はその頃には愛の被弾による傷の手当てをほとんど終えていた。
「そこで私は彼女、椎奈にふたつの論理演算回路を搭載する案を提案しました、ひとつの方には殺戮マシーンとしての基本的な演算をする機能、そしてもうひとつにはネットを検索して、正しい情報か間違ったダミー情報かを分析して判断させる機能を持たせました」
その頃には陽が沈み周囲は薄暗くなり始めていた。
「しかし私は敢えてもうひとつ論理演算回路を追加しておきました、これには当初はなんの機能も持たせないで両方の論理演算回路が自由に使えるように設計したつもりでした」
「そのおかげで8頭身になるべきプロポーションが6頭身の幼い容姿になってしまったってことね」
愛がすかさず指摘をした。
「まあ、まさかそんなのが逆に萌え要素になったのは想定外でしたけれど」
冴子さんがそう言うと急に観萌は立ち上がって背伸びをして言った。
「もうそろそろお腹が減ってこない?この辺に『勝つベー』という食事も出来る喫茶店があるからそこで落ち着いて夕ご飯を食べようよ、私がおごるからさ」
彼女はそう言って車の運転席に飛び乗ると私も含めた全員がそれに続いた。
「またさっきみたいにあの人達みたいなのに襲撃されてお店の人達に迷惑をかけないかしら?」
冴子さんが不安げに言ったが観萌は店の駐車場に車を停めるとお構いなしに店の中に入って行った。
「大丈夫、今は天使ちゃんのご加護があるから」
彼女ははっきりとそう言い切ったがやはり観萌も気づいていたのかも知れない、先程のカーチェイスの間中、私達が志乃ちゃんに守られていたことに。
私達も彼女に続いて店の中に入った。
割とこじんまりとした静かな店だったが私はサンドイッチとガムシロップたっぷりのアイスコーヒーのセットとぬるめのホットミルクを他の3人はカツカレーやスパゲティ、かつどんなどやオムライスなど好きなものをそれぞれ1人ずつ3点以上注文して食べているようだった。
変にすごい能力を持った人たちは人3倍お腹が空くものなのだろうか?
「先程のネットの件ですが」
私は志乃ちゃんにサンドイッチとホットミルクを交互に与えながら切り出していた。
「それが湖と海との違いの話にどう関わってくるのですか?」
観萌と愛も興味を持ったのか私と向かいでハンバーグや目玉焼きが乗ってるコンボセットと味噌ラーメンを食べている冴子さんを見つめていた。彼女もたいがい大食いな気がする。
「その話ですか?」
冴子さんはそう言うともうすでに食べ尽くしていた志乃ちゃんに「サンドイッチもうひと組食べる?」と聞くと彼女は元気よく『うん』と返事をした。
サンドイッチを追加注文をした後で「その話は車の中でね」と言って冴子さんは食事を続けた。
結局、私たちは閉店間際まで粘ったが10,000円を超える食事代を誰が支払ったかと言うと本当に観萌が全額支払っていた。
一体彼女はどんな仕事をして収入を得ているのだろうか?
「あなた達そんなに食べてよくその体型を維持できますね?」
ハイエースに乗り込むなり私は3人に訊いてみたけど返ってきた答えは「だってお腹が減ってしょうがない」のひとことだけ、全然答えになっていなかった。
仕方がないので観萌が車を走らせ始めた時点で話題を元に戻す。
「海は全ての大陸と繋がっていると言う話ね」
冴子さんはそう切り出すと続けた。
「まず全ての量産型機がそうだったんだけど一応全てローカルエリアネットワーク、つまり組織のコンピューターのみと繋がるようになっていた、だけどほとんどの号機で不具合が生じたの」
「それはどういうことですか?」
観萌が質問した。
「論理演算回路以外のほとんどが完成していて、最初のうちはちゃんと動いていたんだけど組織が色々と仮想命令を機体に出しているうちに妙なループに陥って突然全く動かなくなったり反抗するように組織の人間を攻撃してくる機体まで現れた、そしてあなた、23号だった椎奈さんがダメだったら開発が中止になるはずだったのよ」
そこまで言われた時に私は全てを理解した。
「あの時私は他の国の同様なアンドロイドとリンクしました、それも1体や2体じゃない無数の国の機体と私は一瞬にして繋がり自分が今何をすべきか理解できました」
私はそう言うと志乃ちゃんのおでこにキスをした。
私を他の国の仲間たち、みんなと繋げてくれたのは、今私の膝の上で気持ちよさそうに眠っている志乃ちゃんだった。

椎奈3 湖と海の違い 

終わり

椎奈4 に続く。

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