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【通天閣】西加奈子・いつ死んでもいいやというあなたに読んでほしい


この本読んで「よくわからない」って人は、人生に虚無感とか喪失感がなくて、キラキラした人生を送っている人ではないかなと思う。

ある人がこれを読んで「なんか最後がさーあり得ないっていうか、こう来たか!って思ったw」と言うのを聞いて、この人幸せなんだろうなって……うらやましかったですね。


私は外面はキラキラ装ってるけれど、7-8年前に大きな喪失を経験しており、内面は虚無感に囚われている人生なので、ずぅーっと共感しながら読めたと思う。

主人公(男)A
・40代半ば
・組立工場のリーダー
・仕事は速い
・極端に無口で真面目
・根は優しいが外に出さない
・狭い部屋に一人暮らし
・一度結婚したが離婚経験あり
・向かいの部屋に汚いオカマが住んでいる

主人公(女)B
・20代半ば〜30未満
・スナックの黒服(雑用)
・同棲していた彼がNYへ
・連絡が途絶えがちで自然消滅されそう
・彼とまだ別れてはいないと信じることだけで、自分を生かしている

AとBの話が、交互に短い間隔で入れ替わる。何の関係もない二人が話を追うにつれて、実はつながりがあることがわかってくる。
Aは虚無感を、Bは執着による苦しみをひしひしと味わいながらの毎日。


二人とも何とか日々をやり過ごしているものの「今日が早く終わればいい、だけど心待ちにする明日もない」という毎日を送っている。
こなしていくだけの人生って虚しいものですよね。


こんなどうしようもない人たちを
「どうしようもないね」
「意義ある人生送ろうよ」
と言えるような私でもないし、人生は何が起こるかわからない厳しさも知っているつもりだ。

だから、とても刺さった……。

いつ死んでもいいような気がしているそこのあなた。
この「通天閣」を読みましょう!

これは実は陰気な話ではない。
大阪の下町的な人情のぬる温かさと、苦笑爆笑してしまうような人物多数、ユーモアたっぷりの大阪弁で苦しい場面でもつい笑ってしまうのだ。

厳しい人生を生きる中で必要なもの。
それは、人からの「死んだらあかん」であり「お前が好きや」だったりするんだよ。
そして少しでも気にかけてくれる人の存在。自分からも人を愛そうという気持ちとそれを表現することも。

生きることは簡単じゃない。
努力でできることも限られるし、一度落ちると這い上がれないこともある。

そんな時、何が一筋の光となるのか考えさせられる。

また、どんな人生を送っていようとも、誰からも必要とされていない人も
「生きてていいんだよ」
「それでいいんだよ」
「ちょっとだけ前向いて行こ」
という肯定のメッセージを感じる。

中盤以降のクライマックスの持って行き方が本当に上手いな、西加奈子!

余談)私は今年、野球観戦のついでに「通天閣」を見に行った。
この小説のことが頭にあって「通天閣」を実際に見てみたくなったからだ。

通天閣のライトは消えていた……
なんたること!!
消えることなんてあるんか?
と思ったら、小説にも消えている時の通天閣の様子も描かれていた。
残念でした。


通天閣周りには、小説に描かれるような人物があちこちにふらふらしており、よくわかんないオッサンたちが道端に座り込んで酒を飲んだり、安い雰囲気のスナックではしゃいだりと「コレ日本ジャナイ感」溢れる場所でした。
この小説の世界はリアルにあった。








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