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父と愛人と母

父は昔から浮気を繰り返していたようで、
それが母を「宗教」に走らせた原因を作ったのですが、
全く治らず、妹が生まれた後くらいから特定の愛人がいました。

私の目から見ても、機嫌がいい日が多くなり
「あやしい」

そのうち、帰りが遅くなって夜中に
帰ってくることが増えました。

私としては、「エホバ」の集まりに行ってもばれず、
行った日に決まって始まる父のブチ切れ説教が
ないので、そこはとても快適ではありました。

相手は父の勤め先におそらくバイトかパートで
入ってきた若い女。

図々しいその女は仕事の用事だと理由を付けて、
家に電話を掛けてくるようになった。
私が男なら家に電話を掛けてくるような女とは
付き合いたくないけど、父はルンルンで電話に
出ていた。

面白くない母が取り継がなかったりしたら、
父はブチ切れて、母を罵倒していた。
頭がおかしい。
やるならコソコソやれ。

私も電話に出たことがあったけど、
高くて甘えた声で話す女だった。
私は父の機嫌が良くなるのとは反対に
母の機嫌が悪くなるのでその女から
電話が掛かってくるのが嫌だった。

その女と話している時の父は見たこともない
笑顔で、聞いたこともない上機嫌な声だった。
「じゃあ、今度連れて行ってやるよ」とか
「そんなんオレが買ってやるよ」とか
家では誰1人言われたことのない
ワードが聞こえてきた。
当時は黒電話だったので、外に出て話したりも
出来なかったからせまーい家で家族全員で
「父と愛人」の
甘い会話を聞くはめになった。
最悪である。
しかも電話が終わると父も現実に引き戻されるのか、愛人に会いたくなるのか知らないが、
ものすごい八つ当たりをしてきたりした。


父に愛人がいることは『べつに』という感想だった。
昔世間を騒がせた女優のようになってしまったけど、元々、父に対して「尊敬の念」とか、
信じていたのに裏切られたみたいな「信頼」が
全くなかったので、大して傷付かなかったけど、
今度はなかなか本気っぽい相手の登場に、
『私たちどうなるのかな?』という
漠然とした不安が湧いてきて暗い気持ちになった。


父は堂々と不倫をしていた。
母は傷付いていたと思う。
見ていて可哀想だった。
でも、「なんでこんな男と結婚したんだ?」
という母への揺るがない疑問がどうしても
捨て切れず、100%同情も出来なかった。
父の長所が一つも答えられない。
でも前に聞いたら、「出会った頃は優しくてマメだったのよ」と教えてくれた。
優しくてマメな男なんて、この世に山ほどいると思うのに、なぜ父なんだ?と私の疑問は全く
解明されなかった。
結婚相手を間違えるってこういうことなんだなと
小学生にして、私は悟ったのだ。


ある日、私が夕飯の支度を手伝っている時に、
包丁で指を切ってしまったのだ。
血が止まらず、指の脂肪が見えていた。
私よりも母がパニックになって、父の職場に電話したら、仕事中のはずなのに不在でつかまらなかった。

結局、パニックの母と病院に行って、縫うはめになったのだが、仕事から帰ってきた父に母が、
なんでいなかったのか?と聞いたら、
「休憩中に愛人と出掛けてた、そんなことより
そんなことで会社にいちいち電話してくるな!!」とブチ切れられたらしい。
 
どうして「大丈夫だったか?駆けつけられなくて悪かった」が言えないんだろう。せめて嘘でごまかそうとする優しさを見せろ!

また母はそれを胸に閉まっておけない性格だったので、「お父さんの会社に電話した時ね、お父さんは愛人と仕事を抜け出し仲良くお出かけ中でいなかったのよ。トトが怪我して大変だったと言ったら、
そんなことでいちいち電話してくるなと言われたわ、本当に頭に来ちゃう」と事細かに愚痴ってきた。

私は自分が父にとって『そんなこと』になっていることに傷付くとも知らずに。

父は母に対して気に入らないことがあると、
すぐ「離婚だ、離婚。トトはお父さんとお母さんどちらと暮らすか?」と聞いてきた。
そういう普通に育ってきた子供なら一生聞くことのないであろう、
ドラマの中で聞くフレーズを何度も繰り返し聞かされた私は、
心を即座に『オフ』に出来る技を身につけたのだ。

今日も最後まで読んでいただきありがとうございました。

















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