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昭和のガキ大将 一おばん池の攻防一 第5章 最終章『智将 堀川君』

              全4話

第1話
 私達は、吉垣君が私達のことをしゃべってしまうのではないかと心配になってきました。
「僕らのことがバレたらどうなるん?」
陽ちゃんが心配そうな声を出しました。

「バレるわけないやろ!」
私は自分に言い聞かせるように言いました。

「そりゃそうやん。あいつらは何も知らんのやで。」
と、哲ちゃんが落ち着き払って言いました。
「ぼくらの名前も知らんし、知ってるのは背が大中小の三人ていうことだけやで。」

「そうか〜。そんだけしか知らんのか。」
哲ちゃんの言葉に陽ちゃんも私も安心しました。


「何しとんねん!」
突然、背後から大声がしました。
 三人ともこんなに驚いたことがないくらいびっくりしました。
 振り返ると、木の根元に堀川君が立っていました。
「びっくりした~。堀川君、何でここにおるん?」
 私は嬉しいのと不思議なのと両方の思いで尋ねました。


第2話
 堀川君は、
「俺もあいつらに顔を知られてるからな。もし、またあいつらに会うたら、お前らのこと聞かれるやろ?
 お前らと喋っとった俺が、お前らのことなんも知らんなんて言われへんもんなぁ。
 俺もお前らとおんなじで、あいつらとは会わんようにせなあかんのや。
 ま、それと、お前らがどないなってるかなと思てな。」
 堀川君までも、このいざこざに引きずり込んでしまったのかと心苦しく思いましたが、心細かった私は再び強い味方を得た気がしてほっとしました。

 陽ちゃんが、
「堀川君、あいつら吉垣捕まえて聞き込みしとうねん。」
と、現状を報告をしました。
「なんやて!」
 急いで堀川君も木に登ってきました。
「もう、おらへんな。」

 すると、陽ちゃんが、
「バス道を元の方へ戻りよったで。」
と報告を続けました。

「今まで、吉垣に何か聞きよったんやな。」
 堀川君は黙って頭を働かせているようです。

 ややあって
「もう大丈夫や。」
と堀川くんは呟きました。



第3話
「なんでそんなこと分かるん?」
 私は大丈夫だという確信を得たくて聞きました。
 堀川君が説明し始めました。
「あいつらは、製材所に隠れたお前らを見失うてバス道まで出たんやろ?
 ほんで、この宮丘町まで坂道を上って追いかけて来たんや。  
 行っても行ってもお前らの姿が見えへんから、聞けそうな小学生を見つけては聞き込みをやっとったんやな。
 聞くとしても、背丈がこれくらいの三人組としか言えんやろから、聞かれた方も分からんやろな。」
「そうか、聞いたんは吉垣だけやないんや。」
 私はだんだん様子が想像できてきました。
「いや、吉垣だけという可能性もあるで。
 でも、もしそれまでに吉垣以外の誰かに聞いたとしても、聞かれたやつは困るわなぁ。今日はお前らに会うてないんやから。」
「そうか。」
「で、今さっき、あいつらは吉垣に聞いてみた。当然やけど吉垣にも知らんと言われた。もしも、吉垣がお前らに会うたすぐ後やったら答えられたやろけどな。」
「そうか、今日は吉垣には会うてないもんな。」
「お前ら高取山から帰ってきて正解やったな。」
 堀川君の説明に、陽ちゃんはほっとした様子です。
 堀川君はなおも続けて、
「あいつらにしたら、ここまで来て誰もお前らのことを見てないとなると、これは逆方向に逃げたなと判断して、長田町の方へ戻ったということやろな。」  
 堀川君の説明に三人ともほっとしたのでした。


第4話
「さらに言うと、あいつらは長田町方面から来てるな。」
「何でそんなん分かるん?」
「あいつらは、俺らの顔を見たことがない。知らん顔やから知らん土地の方面を探したということや。」
 陽ちゃんが、
「ほんなら、もうこっちには戻って来えへん?」
と聞きました。
「もう大丈夫や。帰ろか。」

 日は暮れかけていました。私達四人は恐る恐る町内に入りました。
「ほんなら、気ぃつけて帰れよ。」
「堀川君、ほんまにありがとう。ほんまに助かったわ。」
 私達は口々にお礼を言い、それぞれの家へ向かいました。
「お前ら、当分、おばん池へ近づかん方がええぞ。」
 堀川君はそう一言叫んで長田町の方へ帰って行きました。


 それから二年後、私と陽ちゃんは、同じ中学校へ入学しました。
 入学式では、校長先生の話の後、在校生を代表して生徒会長が歓迎の挨拶をしてくれました。
 体育館の前列に座っていた陽ちゃんが、こちらを向いてしきりに壇上を指さして何か呟いています。
 見ると、新入生歓迎の挨拶をしているのは、あの堀川君でした。
       第5章 最終章『智将 堀川君』完 
        


 

 



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