狗田へきる

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【SS】「善意」(2,266字)

「善意」狗田へきる                                      そこで、蛇は女に言った。「あなたがたは決して死にません。あなたがたがそれを食べるその時、あなたがたの目が開け、あなたがたが神のようになり、善悪を知るようになることを神は知っているのです」(創世記3章4節より引用) ひっくり返った荷車を雨避けに、あばらの浮いた犬が横たわっている。 見たところまだ若く、成長途中といった体付きだが、四肢は葉を落とした枯れ木のように細り、豊かな体毛は湿り気

    • 【SS】Moanin(2738字)

      「Moanin」 狗田へきる 街で突然、後ろから「ああ、久しぶり」と見覚えのない人に声をかけられて、周囲の喧騒に靄がかかっていく。 深夜の花道通りは客引きとがなりごえ、時たまどこか、近いか遠いかわからない場所でわっと歓声のように沸く酔った人たちの声が波のように耳に流れて、近付いては遠ざかる喧騒のただなか。 親しげな人の鮮明な声は何処か聞き覚えのある女性のもので、それは独特な湿度を孕んでいた。 「暇してませんか?」 「今からどこいくの?」 「ボックス席もありますよ」

      • 初note ライオンのはなし

        はじめまして、狗田へきるです。 右も左もわかりませんが、始めましたnote。相互様が投稿してらっしゃる記事を拝読するのがすごく好きなのと、以前友人伝えに「大学辞めちゃった江守さんってあれから文章書いてないの?noteとかアカウント知らない?」と聞いてくれる方がいたとか。 「江守は書いていないと生きていけないんだよ」 「大学を辞めても、どうか描き続けてください」 といつか言われたことを思い出しました。 決して上手くはないし、なかった。でもそう感じてくれる人がいることが

      【SS】「善意」(2,266字)