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扉がひらく

背中を押す風がある。
立っていると自然に前に足が出る。

もう開かないと思っていた扉が
もうすぐ開く。
隙間から光が漏れはじめている。

情感だけではぬくもりだけでは
越えられない地点を越えて
わたしたちはここまで来た。

数字も評価も正義も、関係ない。
わたしにとって大切なものは
ただひとつだけ。

身体を動かし、しんどさを乗り越え
想像し、時に傷つき
目に見えないものを相手し続けることである。

現場、である。
振り返れば一貫して、現場に執着する人生だった。

理屈が通用しないところが好きだ。
方法論も作戦も、現場では無力だ。
技術も経歴も、言葉も体裁も、まるで意味を為さない。
力だけが、本物の力だけが浮き彫りになる。
その手加減のなさが好きだ。

芝居は反射だ。
考える前に体が反応しなくてはならない。
考える前に涙が出る。
考える前に話している。
だからエキセントリックだ。

現場の仕事はそれに似通っている。
どんな事情も準備も関係ない。
幕が上がれば、わたしたちはまな板の上の鯉である。

手出しできない。
運命の為すがままだ。
そして同時に
すべてを手中におさめている。

運命はわたしたちのためにあるのだから。

もうすぐ扉がひらく。
どうすればいいのか、わたしの体はもう知っている。

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