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役に似た言葉

演じるこころに似通った詩があったので
覚え書き。
大好きな井坂洋子さんの詩だ。

過度に
音楽をあびたあとは
麻痺した耳を休めたい
インコの声が肩のあたりで
まだいきているの
と鳴く

あなたの怒声が聞こえ
深夜 だれかにささやかれる
私は雨によみがえった芝の色を
灰が動くようにして見ている

むかし誤って殺したインコのお墓は
とっくに霊がぬけ出て
それを見ることも
墓を想像することもむなしくなっている
内と外を仕切る
戸をぼんやりと思い描き
小学生の私を立たせてみる
耳にはまだ
陶酔の残滓はない

黄色い羽根をもち赤目の それが
二十数年の沈黙ののち
乾いた土をかぶり
私の肩のあたりで
まだいきているの、と鳴く


井坂さんのまた別の詩に
こんなところがある。

…世界には最初に傷があり
大きく 醜い傷口からいちように
吐きだされる歓びがあった

稚魚の孵った水槽のようなにおい
のする春先の雨あがり
あたらしい死者が「よい人生を」という…


罪深き者にも、春が来て、雨が降る。
傷口から
ただ赤い血が流れる。
それは善でも悪でもなく
人間の血である。

そのような感覚をいま
探している。


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