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イップ・マン

−和名を「葉問」と言うイップ・マンは、実在した香港の中国武術家。 一代にして葉問派詠春拳(えいしゅんけん)を築き上げ、その弟子には少年時代のブルース・リーもいたという、伝説のカンフーマスターである。彼を主人公にした映画『イップ・マン 序章』(08)は世界中で大ヒットした−


イップ・マンの映画を観る。
あまりに素晴らしかったので、文章を書きたくなった。

これは勿論、詠春拳という武術の映画である。
でも同時に、不条理についての映画だ。

日清戦争における日本軍の傲慢と残酷。
イギリス統治下の香港でのイギリス人の
中国人差別と暴力。

中国側の視点から描かれた映画だ。
日本人にもイギリス人にも言い分はあるのかもしれない。

でも戦時下で、植民地統治下で
何が起こるかなんて
人間の品性は本来下劣なものだと
思わせるようなことでしかないと思うのだ。

残酷で下劣で
卑怯で執念深く
愛なんて一生理解することのないような
人間が確かにいるのだ。

人の手を折っても、殺めても
1ミリの心も動かない。
そういう人間もいるのだ。

そしてまた、そういう人間を
戦争が作り出していくのだから。

不条理だ。世界は。
汚れている。汚れきっている。

この映画において、イップ・マンは唯一の光である。
どんな時も和を重んじ、冷静さを失わない。
そして、強い。

現実はきっともっとシビアだったであろう。
生き抜くためにイップ・マンは
映画とは違い、日本の警察の下に入って
給料を得たという。

だから嘘だ、なんて思わない。
本心はきっと日本人が憎かったろう。
家族を養うためだ。
正義よりも米である。

詠春拳を、民衆が路上で習うシーンが
とても美しい。
女性も子供も、不条理に負けまいと
澄んだ目をしている。

強さとは、澄んでいること。
しずまっていること。
そして、みなぎっていること。

信念を持った人間に、わたしもなりたい。


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