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「お父さんが家を出ていくの巻」


ほら、僕って中学1年の誕生日に、両親が離婚したじゃないですか?

今回は誕生日サプライズの最先端をいっていた、ウチの父親が荷物をまとめて出て行った時の話。

授業中、先生から呼び出され
「良徳、お父さんから電話があって、今から帰ってくるようにって。」と言われた。

まだケータイもポケベルすらない1990年初頭である。

呼び出された理由は知っていた
家を出て行く父親の荷物をまとめる手伝いだった。

授業中の途中退場はちょっと緊張したがヘラヘラしながら「じゃあ」と出てきた。

自転車で家へ帰る僕が口ずさむのは
大事MANブラザーズバンドの「それが大事」
大ヒットした曲だ。

負けないこと
投げ出さないこと
逃げ出さないこと
信じ抜くこと
ダメになりそうな時それが1番大事♪

「結局どれが1番大事なんだよ!」と言いながらも、単純素朴で真っ直ぐな歌詞が、ヨシノリ少年の心に入ってきた。

父親より自分が早く着いた

気を利かして先に荷物をまとめてあげようかと思ったが、なんか早く出ていけ感というか、出て行くのを喜んでるように思われそうで、何もせずに待っていた。

父親がいなくなる‥
そりゃ、怒ればメチャクチャ怖くて、何度ぶっ飛ばされたかわからない。
それに酒癖は悪いし、超スケベだし、悪いところをあげればきりはないけど、良いところもある…

まっ、なかなか出てこないけど

お世辞にもウチは、家族円満とは言えないが、だからと言って形が崩れるというのはやはり悲しい。

両親はよくケンカしていた。
ケンカはしてほしくなかったし、何より止めることの出来ない自分も嫌だった。
だから「ケンカがなくなるなら良いのかもな?」と思っている自分もいた。


「早かったな」
少し、申し訳なさそうな素振りをみせながら、父親が帰ってきた。

しばらく黙々と荷造りをしていたが、出て行く父親の荷造りは、はかどらない。

きっと「出て行く父親の荷造りあるある」にもはいるだろう。

すると父親が口を開いた
「婆さんが死んだら帰ってくるよ」

伝え忘れていたが、父親は義理母、つまり私にとってのおばあちゃんとも仲が悪い。

頼もしいぐらいに我が道を行くのである。

父親はいわゆる
「マスオさん」状態で
義理の祖母も一緒に暮らしていた。

今思い返しても仲が悪かった
決して混じり合わない2人だった。

ミネラルウォーターとごま油のような関係だ。
水と油でいいんだけど、少し愛着を込めてみた。

それぞれに言い分はあるだろうけど
「婆さん死んだら帰ってくるよ」と言われて
「わかった!楽しみに待ってる〜♡」とは言えない。

僕は人生で1番小さい
「うん」
を言った。

今回の家出は「お父さんVSおばあちゃん」のケンカが発端であったが、毎度のケンカなので原因は覚えていない。
きっとお父さんは僕に味方になってもらいたかったのだろう。

父親もストレスと酒の飲み過ぎで、高血圧で何度も倒れて救急車で運ばれていた。

このままではダメかもしれない
いや、きっとダメだめだ‥

僕「お父さん、これからどこに行くの?」
父「‥‥しばらく会社の人にお世話になる」
僕「お父さん、ここにいたら死んじゃうよ、出て行った方が良いよ」

「北の国から」を彷彿させるような会話だ。

中1の僕には、かなり背伸びした言葉を言ったつもりだった。でも、本心だった。

後に、その言葉が離婚の決めてだったと父親は言った。
少し責任を感じるが、俺のせいにするとは相変わらずひどい父親だ。

「ありがとな、お前のことだけが気がかりで、お父さんはヨシノリが1番大事だから」

お父さんの目は少し赤くなっていた。

みんながハッピーになることは難しい。
この決断は、みんなが幸せに近づこうとした結果なのかもしれない。

お父さんは家から離れているところに車を止めていた。

荷物を駐車場まで運ぼうとしたら、
「寂しくなるから来なくて良い」と言われた。

父の荷物は思っていたより少なく、もしかしたら「すぐに帰ってくるかも」と淡い期待を持たせた。

玄関でまたお父さんとおばあちゃんがケンカを始めた。

最初は、おばあちゃんが止めた感じだったが、最後は、互いにとんでもない言葉で別れを告げていた。

最後まで「ドクターリセラの水素水」と「アマニ油」だ。

ちょっと高級感を出してみた。

僕はといえば、泣いていた。

お父さんの玄関を出て行く時の寂しそうな背中。
途中、立ち止まったが振り返らず、また歩き始めた。

自分でも、よくわからない感情だった。
きっと冷静に考えれば言い表せられるのだろうが昂っていた。
決して気持ちの良くない、追い詰められるような昂りだった。
涙が止まらなかった。

気がついたら駐車場まで走っていた。

もう会えないかもしれない。
とにかく急いだ。

父の車はまだあった。

「お父さん!!」

身体中がドクドクと脈をうっていた。

それとは逆に車のエンジン音がゆっくり聞こえる。

窓が開き、そこから「チャゲ&飛鳥」が流れてきた。

父「どうした?」

僕「お父さん、あの‥」

言葉が見つからない。

「息子さん?」

緊張感のないカタコトの日本語が聞こえた。

声の主は、助手席のフィリピン人の女性だった。

フィリピン人の女性?!!!

感情が追いつかない。
女性は目を大きく開け会釈してきた。
(愛想の良い人だなぁ〜)
いやいや
僕「お、お父さん、誰?」
お父さんは情けないような逞しい声で
「か、会社の人‥」
女性は明るく手を振り「よろしくね〜♪」

僕「‥‥‥」
父「‥‥‥」
父「じゃ、元気でな」
僕「‥うん」

「ププ〜♪」と友達同士の別れ際の軽いクラクションを鳴らし父は去っていった。


やはり、1番大事はいっぱいある。


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