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『襲われた日』の巻

今から20年ほど前、私が25歳頃の話。穏やかな川が流れ「これでもか!」ってくらい立派な「土手」のある街に引っ越した。
とは言うものの、立派な土手があるから引っ越したわけではなく、引っ越した後に「あれ?ずいぶん立派な土手あるじゃん!」って感じだった。
走りたくなる坂道「全力坂」はテレビでお馴染みだが、その土手は走りたくなる「土手」だった。
いや、正確に言うと、走りたくなるではなく、金八先生のオープニングみたいな、ちょっと軽くウォーキングしたくなる土手だ。
金髪の美女のランニングを楽しみに早速、土手をウォーキング。景色も良く、風も気持ち良かった。
「幸せだな〜僕は土手を歩いてる時が1番幸せなんだなぁ」
若大将の加山雄三さんもビックリの「土手大将」の誕生である。

なんて思っていた矢先、草むらから野良犬が飛び出して来た!
大型の雑種犬だった。
「うわ!」とビックリして大きな声が出た。それと同時に私は猛ダッシュで逃げた!
まさかの「全力土手」だ。
「うわ!わぁ!うわ〜あ〜」と言いながら走る。
こんなに早く走ることが出来ることに驚いた。
後ろを振り向くと、野良犬が更に凄い速さで追いかけて来る。
勝負にならない。

人生とは儚いものだ。
さっき、すれ違ったウォーキングおばさん達とは気持ちの良い挨拶をしたのに。
駅前に美味しそうなラーメン屋さんを見つけて楽しみにしていたのに。
そして、こんなに川は穏やかなのに‥
終わりはこうもあっけなく、突然にやってくるんだな。
さようなら。

次の瞬間、野良犬は私を追い抜いて行った。
それはもう凄い速さで!スタタタタって。
声を枯らすほどの悲鳴を叫びながら私は何をやっていたんだ。
恥ずかしいなんてもんじゃない。
手と膝を付き、息を切らしながら走り去って行く犬を、ただただ見つめていた。
「ふっ、退屈しなさそうな街だぜ」
次の日、身体中の色々なところが痛かった。

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