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「ヨシノリ少年と父親の秘密の部屋」(後編)

初めてエッチなビデオを見た時の話。

小学6年生の時、同級生5人で集まり
「うちの父親の秘密の部屋」から父親の秘宝を持ち出した。
きっとハリーに「スリザリンの継承者でしょ?」と伺われてもしょうがないくらい、私は秘密の部屋を頻繁に開いていた。

「エッチなビデオ」
この世の全ては、その中にあると思っていた。

みんなでお小遣いを出し合ってお菓子やジュースを買い、遠足さながらだった。
そう、僕らの行き先は「大人」だ!
期待と股間をやや膨らませビデオの再生を押した。

縄で縛られ吊されている女性が登場!

SMものだった…

小学生の僕らは、まだ英語を習ってない。
いや、そんな問題ではない。
父親の趣味嗜好に文句はないが、僕らは階段の一段目で大きくつまずいたのは確かだった。
何も知らない僕らに大人の世界は生優しくなかった。
(後に「特殊な大人」と言うことを知った。)
「いったい、この人達は何をしているんだ?」
「大人になると、あんなことをしないといけないか?」
「苦しんでるのか?喜んでるのか?」
「怖い…」
僕らは敗北した。
賢者の石くらい硬くなると思っていた僕らの「元気印」は、ロックハート先生の魔法をかけられたロンの手ようにグニャグニャだった。
ついさっきまで、駄菓子屋でエッチなワードを言い合っていたのが懐かしい…
『おれ達は… 早すぎたんだ』
「ゴールドロジャー」の気持ちがわかる。
もっとゆっくりで良かった。

ただ1人を除いて…

T君は凛としていた。
「殿様に何か命じられたのか?」というくらい引き締まった表情で刮目していた。
しかもT君は身を潜めるタイプだ。
みんなが「オェ〜」なんて声を漏らすと一緒に「オェ〜」なんて言っているが、終始「ギンギン」だった。
隠密だが身を潜めきれてはいなかった。
私はT君が画面をペロペロ舐め出すのでないかと、ちょっと不安だったが、流石にそれはしなかった。
インパクトが強すぎたせいで作品のストーリーは今でも覚えている。

今の彼氏(今カレ)とSMをしているところから急に始まった。
ところが、元の彼氏(元カレ)が忘れられない彼女は、SMをされに元カレのところに行く。
揺れ動く女心…
そして彼女は決心し、今カレに別れを告げに行く。
何故か服の下はロープで縛られていた。
今カレは怒り彼女を引っ叩く。
彼女は「ありがとう」と礼を言う。
今カレは笑顔で何故か「ギンギン」
それを遠くから見ている元カレは悔しそうに何故か「ギンギン」
そんな内容だった気がする。

やかましわ!!

どんだけ複雑な人間模様だ。
小学生には難解だ。
いや今、見てもだろう。
最後は、元カレと抱き合い
男「大事にするから」
女「うん」
から、また縛られ吊らされていた。
ツッコミどころ満載だ。
僕らは「間違った大人の階段を登ったのかもしれない。」

いや、そもそも「正しい大人の階段なんて物はあるのか…?」

大人の階段と呼ばれるものは幾つも存在し、自発的・受動的関係なく登ったとして、それを何段目まで進もうが、途中引き返そうが、導き出した手答えは皆違うはず。
ならば間違った階段は「ある」とも「ない」とも言えるはず。
つまり、私は何を言っているのだ?

ちょっと冨樫義博先生に影響されて難しい言い方にしたら意味がわからなくなった。

そんなことより、もう1つ忘れられないことがある。
作品の中で中島みゆきさんの「狼になりたい」が流れていたのが印象的だった。
その時「中島みゆき」さんも「狼になりたい」も知らなかったが、後に自分がラジオの生放送している時にこの曲が流れて知った。
衝撃だった。
尾田栄一郎先生もビックリの
伏線回収だ。
一緒にするな!
もちろん、生放送中にこの曲の思い出は話さなかったが、名曲と思い出は色褪せない。
懐かしい友達に会ったような気がした。
それもそのはず、驚いたことに「狼になりたい」がリリースされたのは1979年。
私が生まれたのも1979年。
同級生だった!
これはシンパシーを感じずにはいられない。
なんと不思議な巡り合わせ。
いや「奇しき因縁」とでも言うべきか。
まさに「なぜめぐり合うのかを、私たちは何も知らない」状態。
名曲「糸」もビックリだ!

すいません。話を戻します。

帰り際、T君は私にだけ「俺、もっとスケベなの見たことある」と一言残して帰っていった。
それはT君の本心なのか?虚勢だったのか?
しかし、その言葉は夕日と一緒に沈んでいった。

その日の夕飯、家族でご飯を食べてる時に事件は起きた。

大好きな唐揚げでご機嫌な私は、ご飯のおわかりを待っている時、無意識に「狼に〜なりた〜い♪」と口ずさんでしまった!
世にも珍しい「1人誘導尋問」に引っかかった。

「なんでそんな歌知ってんの?」
と母は笑いながら言った。
「ドキッ!!!」
心臓が飛び出るかと思った!
恐らくジム・キャリー主演「マスク」みたいになっていたと思う。
目玉と心臓がビョーンだ。
「えへへ、なんだろう?」と笑ってみせたが、上手に笑えない。

ビールを飲んでいた父親のグラスが一瞬止まったように見えた。

咄嗟に「T君が歌ってた」とだけ言った。
父親は何も言わない。
上手く切り抜けられたのかだろうか?
それはわからない。

ただ、秘密の部屋のビデオの隠し場所が変わっていた。


開けてはいけない秘密の部屋(後半)の話

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