見出し画像

死にたいぐらいに憧れたエロい都″大東京″の巻

とにかく東京に出たかった。
隣の千葉県に生まれたが東京は遠い存在だった。
大体千葉県出身と言うと「じゃ、近いね」なんて思われるが、私の生まれた千葉県鴨川市から東京駅までは特急で片道2時30分かかった。
正確に言うと安房鴨川駅から東京まで2時間30分で、実家の最寄り駅から鴨川駅までは2駅ある。田舎の2駅は遠い。
結果、トータル3時間くらいはかかる。東京には滅多に行くことはなく、テレビでしか見たことがなかったため、外国のような存在だった。
ディズニーランドも同じようなもので、千葉県にいながら2時間以上かかる。行く時は船橋の親戚の家に泊まっていた。
泣ける。
実家は海と山に囲まれた田舎で、コンビニも中1の夏に出来た。
その時は夏休み中ということもあり、本当に24時間やってるのか友達と2時間おきに確認したくらいだ。
初めて“ツナマヨおにぎり”を食べた時の感動は今も忘れない。
慣れていない店員さんが“フローズン”(今は無くなった)を作るのに20分くらいかかったが、イライラよりワクワクが勝っていた。
町の皆が昼夜問わずコンビニに訪れた。きっと「都会がやって来た!」と浮かれていたのは、私だけじゃなかっただろう。
それと同時にお母さんが怒った時に使う恐怖の呪文「晩ご飯抜き」は24時間営業の前に効果を無くした。
大きな事件どころか小さい事件も起きない町だった。地元の新聞の記者もきっと大変だったと思う。
どのくらい平和かと言うと私の実家には鍵がなかった。まさに平和の象徴だ!(後に火事で全焼するが…まっ、それはまた次の機会で。)
しかし10代の私は刺激を求めていた!
コンビニは便利だった。でもこんなじゃない!
東京ってどんな所なんだろう?
東京に出たい。
ネットもケータイ電話もない時代。調べようがないから人の噂話が頼りだった。
大抵の人は「東京は悪い人が騙そうとしてくる怖い所」「隣に住んでる人の顔すら知らない所」「冷たい街」など良くないものばかり。
そんな中、酔っ払った父だけはいつも「東京は良いぞ〜いい女だらけだ」「東京はスケベなお店がいっぱい」「フィリピンパブに行ったら女の子じゃなくてボーイさんと仲良くなれ」など小学生相手に何を言っているんだと思ったが刺激的な話だった。
大人気漫画「ワンピース」ではゴールドロジャーの「この世の全てを置いてきた」で始まった大海賊時代、私の中では父の「東京はいやらしいお姉さんしかいない」が始まりだった。
不誠実だがしょうがない。
東京に行きたい。そこで、考えた案はひとつ。
中学生の私は、頭は悪かったが柔道はそこそこ強かった。練習は真面目にやっていたし、何より柔道が好きだった。
「これで勝負をかけよう」
勉強を捨て柔道にbetした。そのおかげで、県大会では準優勝、関東大会にも出場。
県内の強豪校からスカウトが来た。特待生で木更津の高校に行くことなる。親孝行だし東京にも近づいた。
これで東京までの距離は、快速電車で1時間30分になった。
しかし辛い辛い3年間だった。知り合いもいないし、寮生活だし、練習ばっかりして遊ぶ暇もない。こんな辛いとは聞いてない。
絶対に東京に出て「エロい事件に巻き込まれてやる」
その思いだけで頑張った。
抑圧された環境下にいたため動機は更に不誠実になっていた。
そもそも、うちの田舎から東京に出る人は少なかった。
田舎に残る人、田舎は出るが千葉県内に残る人ばかりだった。
だが私は迷わない。
高校の柔道部では主将で、県大会でも優勝したおかげで大学から推薦を頂いた。
「これだ!」これ以上に親や監督が納得し、オフィシャルで東京に行く手段はないだろう。
東京に行きたい一心で大学に進学を決めた。
とうとう新宿まで16分になった。
しかし辛い辛い4年間だった。またも寮生活、練習、合宿。20歳を過ぎお酒も飲むようになるが、柔道部の仲間と寮で野蛮な宴ばかり。
気がつけば高校3年間、大学4年間とまともに女子と話をしていなかった。女性の友達どころか知り合いもいない。
なんだか随分と遠回りをした。
自由とは数多くの不自由と戦わねばならないものなのか?

大学を卒業し、かりそめの自由を得た私だったが…
エロい事件に巻き込まれることはなかった。
東京のどこに行っても裸の女性は歩いていない。
当たり前だ。父もそんなことは言ってない。
そもそも、エロい事件ってなんだ?
ただ一度だけ、一度だけだが道端にパンティが落ちていたことがあった。
これは事件だ!!
(前置きがかなり長くなってしまったが、今回はこの話をしたかった。)

それは突然の出来事だった。仕事に向かう為、駅まで歩いていた。
「ん?何か落ちてる」
薄いピング柄でクシャと丸また物体だった。
すぐにそれがパンティだと私は気づいた。
「えっ?パンティ?なんで?どうして?どうしょう?」
私は困惑しながら照れていた。
何より、落とし主はきっと困っているだろう。
いや、「落とす」ってなんだ?
東京の人はパンティが脱げているのに気が付かないのか?今頃ノーパンで探しているかもしれない。
そのノーパン女子に「あっ、それ私のです。拾ってくれてありがとう。大事なパンティだったんです。お礼にお茶でもどうですか?」なんてこともあるかもしれない。
(あるわけない!)
それに、交番に届けてあげれば持ち主から1割貰えるかもしれない。
(パンティの1割ってなんだ!)
いや、待て!
もし交番に届けようと歩いている時に、お巡りさんに職務質問されたらどうする?
「道で拾いました。今、ちょうど交番に届けようと思いました」と言って信じてもらえるか?
無理だろう!
なんせ私の顔は“由緒正しき下着泥棒”みたいな顔をしている!
誰が由緒正しき下着泥棒顔だ!
やはりリスクがデカすぎる。ならば、このまま見て見ぬフリして通り過ぎるか?
何しに東京に来た!
それにノーパン女子の下半身が風邪をひいてしまうかもしれない。
私は‥私は一体どうすれば良いのだ!
(いや、何もしなくて良いだろう)
その時、柔らかい爽やかな風が吹いた。
パンティがカサカサと動いた。
「ん?」
パンティは風でカサカサと動くものなのか?
ベテラン万引きGメンの様な動きとパチスロの目押しで鍛えた眼力で刮目した。
可愛いエビの絵柄に「EBI‥FILET」と書かれていた。
それは「エビフィレオバーガー」の包み紙がクシャとなっていただけだった!!!
「良かった…ノーパンで困っている女の子はいなかったのか…ポイ捨てはよくないな…」
無言でゴミを蹴飛ばし駅へと向かった。

東京に来て27年。
今日もエロい事件は起きない。
街は平和だ…。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?