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東京膝掛け青春物語〜今日から俺オシャレな東京の人になる〜の巻。

初めて青山のオープンカフェに1人で行った話。

無性に美味しいコーヒーが飲みたくなる時ってあるよね?
私には無い。
いや、無いわけではないが、私は違いがわからない男である。
違いがわかる男、宮本亜門さん(ネスカフェCM)の逆をいくタイプだ。
きっとコーヒーと言われて、墨汁を出されても気がつかない自信がある。
それは流石にわかるわ!
私の育った田舎には喫茶店は無かった。あったかもしれないが、喫茶店に行く暇があればラーメン屋に行っていた。
千葉県民で「コーヒー」と言えば缶コーヒーの「MAXコーヒー」通称「マッカン」なのである。
(ジョージアMAXコーヒーになる前のMAXコーヒーね)
千葉県の人間はMAXコーヒーに育てられたと言っても過言じゃない。だから千葉県の人間はコーヒーを飲みに喫茶店には行かないのだ。
因みに、MAXコーヒーはデザインが黄色と茶色のマダラ模様のため、海で素潜りしている時に缶が捨てられていると、ウツボかと思って飛び上がる。懐かしい。
大学生になって上京してもやはり缶コーヒー。
柔道の練習終わりは「がぶ飲みミルクコーヒー」
パチンコする時は「ジョージアのテイスティー」と決まっていた。
あまりに喫茶店に縁が無かったため、大学生の頃、デートで喫茶店に入りアイスコーヒーを頼んだ時、ガムシロップなんてものを知らないから、アイスコーヒーに砂糖を入れてしまったくらいだ。いくらかき混ぜても溶けないから、スプーンで押しつぶした。アオハルだなぁ。
彼女はまるで「割り勘の端数を何も言わずにポケットに入れる人を見たかのような」驚いた顔をしていた。
恥ずかしさでいたたまれなかったが、元プロ野球選手、名監督・野村克也さんの名言「人間は、恥ずかしさという思いに比例して進歩するものだ」という言葉を思い出し乗り切った。
その後、独りでも喫茶店に行くようになるが、「ゴルゴ13」や「こち亀」などが置いていて、ソファーにはタバコの焦げた後があるような昭和の香りが残る店ばかりを好んだ。

そんな私が青山のオープンカフェに1人で行くことは、ゴリゴリの男子校生が知り合いもいないのに、1人で女子校の文化祭に行くようなもんだ。恐ろしい。
では、なぜそんなことを?
「インスタ映え」
そんな言葉に踊らされてる悲しい男だ。
当時、私はまだインスタをやってないのにだ。
初めて「インスタ映え」って言葉を聞いた時、「どんな蝿だ?」と思っていた私がだ。
きっと田舎から出て都会に染まろうと頑張っていたのだろう。田舎から出て来たコンプレックスなのかもしれない。
きっと名曲「木綿のハンカチーフ」の歌詞に出てくる「彼」はこんな感じで変わっていたんだろう。
「翼を持たずに生まれてきたのなら、翼を生やすためにどんなことでもしなさい」
ココ・シャネルの言葉が私の背中を押した。
青山…初めて来たわけではないが、いつ来ても私の目には全員嘘つきに映る。
私を否定するわけでも、肯定するわけでもない青山に既に飲まれていた。
「やめた。帰ろう…。なんでわざわざ青山のオープンカフェに1人で行くんだ。意味わからない。」
そんな時、ある言葉が頭に浮かんだ。
「意味のないことをたくさんするのが人生なんじゃよ」
「ちびまる子ちゃん」に出てくる友蔵さんの言葉だった。
そうだ。何をビビってるんだ!もう迷わない。
店に着き、常連っぽい雰囲気(ちょっと怠そうに)で
「1人です。」(本当は「です」を付けないようにしたかったが圧に負け付けてしまった。)
すると女性の店員さんは、
「お好きな席にどうぞ。」と返してきた。慣れている!
そりゃそうだ。店員さんなんだから。
椅子に座った。座り慣れない網目のイスに、ケツのベストポジションを探すが、なかなか見つからず、椅子とケツが鍔迫り合いをしている。
すると女性店員さんが「ご注文お決まりでしょうか?」
何⁈まだメニューも見てない!
まさか、ケツをモゾモゾと動かしている時に、尻文字で「注文お願いします」と書いてしまっていたのか?
だとしたら、店員さんは尻文字を読んだのか?
恐ろし過ぎるぞ青山!
とにかく先制パンチを食らってしまった!
見たところ女性店員さんは20代前半で、その瞳からは芯の強さが伺える。
きっと学生時代の伝統ある吹奏楽部とかに所属していて、「辛い練習を乗りこえてきた」という自信からなのだろう。
制服の着こなし方から、この店で働いて1年、いや1年半くらいか。
きっと飼ってる小型犬をスマホの待ち受けにしていそうなタイプだ。更に温かい家庭で育ってきた感が私の調子を狂わせる。
相性的には最悪だ。
どんな偏見だ!
とにかくダメだ。俺とは何もかもが違う‥
やっぱり帰ろう…
しかし、サンジェルマンのカフェテラスを彷彿させる眺めと、こだわりの北欧アンティーク、そしてヨーロッパの古城のようなお店が私にこの言葉を思い出させた。
「打ち倒す者は強いが、起き上がる者はもっと強い」
フランスのことわざだ。
もう名言いいから早く注文しろよ!
立ち直った私は「たまの休日感」「やっと今日休みだ感」を出しながらパスタとコーヒーを頼んだ。
上手に頼めた気がする。
喜びも束の間、「ブランケットはどうされますか?」
僕の頭の中に「???」が溢れた。
なんだ?ブランケット?
落ち着け、落ち着け。
ブラン‥ブラン‥モンブラン?
ケット‥ケット‥ビスケット?
モンブランとビスケット??
はっ!!デザートのことか!
青山ではデザートをブランケットって言うのか!
小慣れてる感じで
「食後でお願いします!」
女性店員さんは、まるで「小学校の同じクラスの男子が慣れた手つきで、鼻くそを食ったのを見たかのような顔」で驚いていた。
女性店員「食後…ですか?かしこまりました…。」
しまった!青山では食前にデザートを食べるのか?失敗した!
でも自動車会社フォード・モーターの創設者のヘンリー・フォードの名言に「本当の失敗とは、失敗から何も学ばないことである」と言う言葉がある。ならば、この失敗をしっかり学び、次から気をつけよう。

食事を済ませると、女性店員さんは伝票と一緒に「ブランケットお持ちしました」と「膝掛け」を持って来た。
穴があったら入りたい。いや、そのまま掘って逃げ出したい。
「あっ、はい。どうも‥」
恥ずかしさで汗が噴き出した。
汗だくになりながら目をつぶりブランケットで膝を暖めた。
もちろん、「ブランケット」という名のデザートは届かなかった。


そんな私を励ます言葉はもう出てこなかった……


初めてのオープンカフェの話。

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