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大学柔道部物語!北海道合宿編。覗き魔と悲鳴の巻。

柔道部物語!北海道合宿編。覗き魔と悲鳴の巻

大学1年の夏休み。
柔道部の合宿は北海道の温泉街で行われた。
流石、大学の合宿である。
せっかく北海道に来たのに、ず〜っと柔道をしなければいけない。
しかも、北海道警察の術科特別訓練の柔道部の方々、通称「特連」と呼ばれる柔道のエキスパートに胸を借りる。

ウチの大学の柔道部は千葉県に行けば「千葉県警の特連」、神奈川県に行けば「神奈川県警の特連」と決して「るるぶ」に載ってない通な旅をする。
もちろん東京にいても、新木場にある警視庁の特連の方々のところに出稽古に行く。嫌な言い方をすると、いつも警察のお世話になる。
駅や合宿所まで「護送車」での送り迎え付き特典もあったりする。
鉄格子の中から見る街並みは遠くに感じ、黒い風に覆われるように心身を吹き抜ける孤独を感じた。
今、思えば記念に1枚くらい写真を撮っておけば良かったが、そんな気分になれない。「これから始まる練習」のことを考えると、ミリ単位で身体を動かしたくない。

そう、特連には猛者しかいない。

大学柔道界で名を馳せた人達しかいないのだ。
その練習に参加するのは、今でいうと「酒癖の悪い社長だらけの飲み会」に参加するような気分だ。

私は練習後、足を引きずりながら「こんな強い警察の方々がいらっしゃるなら、日本は安全だ」と、いつも思う。

因みに、特連デビューは高校1年生の時の「千葉県警」だった。
帰り道、トンネルの壁に「打倒!千葉県警!」と不良の仕業と思われるイタズラ書きを見つけた時
同学年のE君がポツリ
「無理だな‥」
私「あぁ。オレ、金属バット持ってもヤダ」
E君「わかる。じゃ、ピストルは?」
私「外したら絶対に殺されるしな、当たっても効かなそうだし‥」
E君「わかる‥」
痛い身体を気遣いながら、2人で小さく微笑した。
E君を見ると、まつ毛の裏に涙が溜まっていた。
なんとE君は、たった1回の特連での練習で柔道耳になっていた。(柔道用語で「わいた」という。因みに超痛い。)
超強い人と壮絶な練習をした証だ。(柔道用語で「ハマる」と言う。)
私達の心は打ちのめされていた。
逃亡犯か私達か、というくらい警察に怯えた。権力にではない。限りなく暴力に近い凄まじい強さにだ。
親切な交番のお巡りさんだけが警察官じゃないことを知った 15の夜。
尾崎豊もビックリだ。
もしも「特連」の方々が街に出て不良相手に「喧嘩自慢」動画を上げていたら、きっと街から不良はいなくなってしまい「クローズ」や「WIND BREAKER」という作品は誕生しなかったかも知れない。

話は大分それましたが、合宿(警察巡り)は辛かった。
さて、それをお伝えしたところで、話を戻します。
北海道合宿中、部員の内でまことしやかなウワサが広まっていた。
「合宿のどこかで1日オフがあるらしいよ」
休みがあるというのだ。
その言葉は、一斉送信のない時代にスゴい速さで皆に伝わった。
だが直接、監督に言われたわけではない。
どこから誰が言い出したかも不明だ。
皆いつもソワソワしていた。正直練習どころじゃない。本末転倒だ。
そして、その日は突然やってきた。
練習終了後のミーティングでコーチから「明日オフにするから、ゆっくり身体を休めるように」の一言。
その瞬間、オリンピックの東京開催が決まった時のフェンシングの太田雄貴さんと滝川クリステルさん顔負けの歓喜に満ち溢れた。
もちろん心の中で。
大喜びしている姿を見せると、監督に「そんな元気があるなら休みいらないな」と言われかねない。
全員、いつも通りの伝令と同じテンションで「はい」とだけ言った。チームはひとつになっていた。
わかるだろうか?
長い乾季で干からびたアフリカの大地に恵みの雨が降った瞬間だ。
動物,植物達は喜び、雨はやがて川になる。
私達のケガや疲労は一瞬で姿を消した。

その夜、北海道出身の部員は引っ張りだこだった。
まだ乗り換えアプリなど無い時代、目的地までの行き方を教えてもらう為だ。
「札幌市すすきの」 

皆行き先は一緒だった。

もちろん私も聞いたが、教え方の無駄のなさに、教えた人数の多さがわかった。
念の為、お店の場所までの地図を描いてもらって、準備OK。
お店の場所?はて?
きっと美味しいパンケーキのお店とかだったかな。
うん、そうだ。きっと、多分…そう、甘い物好きだからな〜
他の人は、「如何わしいお店探し」に勤しんでいた。
いつもは怖い先輩達も機嫌が良かった。

そんな時に事件は起きた。

いつも通り3、4年生が床につき、私達のプライベートが訪れる。
1学年上のK先輩とH先輩。私と他数人で露天風呂に浸かっていた。
今回の合宿は、部員全員でホテルの大広間を借りて寝泊まりしていた。
そんなことが可能だったことに驚きだが、全員が寝てる姿は南極の氷の上で横たわるアザラシだ。
だから、この露天風呂だけが楽しみであった。

湯船から出て私達は竹の筒で出来ているオブジェに腰を下ろし、身体を冷やしていた。
そのオブジェは椅子ではないのだが、身体のデカい柔道部員が入ると風呂場が狭いので、その竹筒オブジェに腰を下ろすしか居場所がない。竹筒は柔道部員の重さで山なりにしなっていた。

いつもは2年生の先輩達はもう休んでいる時間だが、「明日のウキウキ」で寝れないのだろう。1年生の私達もゆっくり浸かるなんてことはそうそうないが、「明日のウキウキ」がそうさせた。
露天風呂は人数オーバーをしていた。いや人数はオーバーしてないが、明らかな体重オーバーだ。
100キロを超える人間達で露天風呂から悲鳴が聞こえそうだ。
そんな時、H先輩がたまたま露天風呂の外側にある衝立の間に目をやると、ビデオカメラを持っているおじさんを見つけた!
覗きである!
その場所はたまたま通りがかるところではない。柵を乗り越えたりしなければ辿りつけない。
H先輩の「覗きだ!!」の声に皆一斉に立ち上がった!
その時、「ぎゃ〜〜」悲鳴があがった!
なんと、皆一斉に立ち上がったせいで、しなりまくっていた竹が元に戻り、竹の割れ目にK先輩の大事な巾着が挟まった!
まるで竹が意思を持ったかのように先輩のキン◯マに喰らいついてる。
九州男児のK先輩は指を骨折しても、試合に出る強靭な精神力の持ち主だ。
(因みに柔道家はテーピングで大体のケガを補う。
テーピングに対する信頼が非常に強い。)
K先輩があんな悲鳴をあげるなんて、痛みの想像を絶する。
皆、覗き魔どころではなくなった。
もちろん皆、挟んだことがないので、アタフタすることしか出来ない。
まずは、人間の習性で無理矢理、抜こうとした。
先輩の大事な「巾着」は空を飛ぶ「モモンガ」のように広がった。
確かに北海道でモモンガは生息しているが、まさか露天風呂で見れるとは!
そんな悠長かこと言ってる場合じゃない
K先輩は男梅みたいな顔をしながら「痛い痛い痛い、ダメダメダメ」と男梅とは思えない弱腰なセリフをは連発した。

次に私達は身体の力を抜けば巾着が抜けると思い
「先輩、ちょっと力を抜いてみて下さい」
馬鹿である。
普段から巾着はダラーンとして力は抜けている。
「先輩頑張って下さい」
先輩は何を頑張れば良いのだ。
的外れなことしか言えない、後輩を持った先輩が不憫でならない。

「みんなで竹に乗れ」
覗き魔の追跡を諦めたH先輩が言った。
「確かにそうだ!」
数人で竹に乗りしならせた。
無事「モモンガ」は罠から逃れた。
K先輩は膝から崩れ落ちた。
モモンガは天敵エゾフクロウに襲われたかのように縮こまっていた。

すぐに起き上がり、目を閉じ長い深呼吸をすると「あぶなかった」と風呂からあがっていった。

次の日、K先輩の姿はすすきのにあった!
もちろん、損傷は部分はテーピングで補強していた。

なんと強靭な精神力と丈夫な身体だ。

「健全なる精神は健全なる身体に宿る」というが、例外もあるようだ。


北海道合宿の話。

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