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「豪雨の予感」第20話(自然への畏怖)

靴下を履き替え、上履きで3階の同じ教室に着いた愛子と佳奈は窓から見える外の景色にたじろいた。

いつもは大阪城天守閣と堀の石垣にクスノキの緑が映えるきれいな景色であるが、今日は“嵐に包まれた暗黒の世界”に天守閣がうっすらと浮かび上がっている。愛子が学校に着いた後さらに雨足は激しくなり時折雷鳴も響いている。

ドドン、バリバリバリバリバリ

「また落ちた!あーもう怖すぎ!さぶいぼが今までいち立ちまくってる。このまま一生さぶいぼ立って引っ込まんかったらどうしよー!」
「佳奈、まだ冗談いう余裕あるやん!それにしてもこんな大雨今まで見たことないぞ。ニュースとかでは線状降水帯の大雨ってたまにやってるけど、自分がそんな状況に出くわすとは思ってもなかった。」
「そうやけどせめて教室の窓にカーテンしてほしい。外の景色怪しすぎやわ、愛子怖ないの?」

愛子は決して落雷が怖くないわけではないが、それよりもこの豪雨の中に自分がいることの非日常を客観視しているのかもしれない、と感じていた。母のみおから阪神淡路大震災でのエピソードを何度も聞いては災害の恐怖を頭で理解はしていたものの、平穏な現実とその震災が30年以上も前の災害であることのギャップに自分を重ね合わせることができないでいた。しかし災害という意味では共通している今の状況に直面して初めて愛子は逆らうことのできない“自然への畏怖”を感じ、そう感じている自分自身を不思議に感じていた。

1限目は自習になり10時から始まる2限目のチャイムがなった後もしばらく授業が始まる様子はなかった。そこに突然校内放送が流れてきた。
「現在大阪市内には大雨・洪水警報がでており、警戒レベル3がでています。本来大雨・洪水警報が発令されると下校することになりますが、市内の鉄道会社は全て運休になっています。この校舎は上町台地の上にあるため大雨・洪水による危険性はかなり低いため、警戒レベルと鉄道会社の運休解除があるまでは生徒のみなさんは教室での待機をお願いします。またご家族に連絡できる生徒は学校で待機を続ける旨を伝えるようにしてください。」恐らく職員会議で対応を検討していたのだろう。

外は線状降水帯による豪雨が再び強くなってきていた。

第21話に続く
(このストーリーはフィクションです。一部実在する名称を使用しています)

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