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頭痛・親不知・ドブ川のザリガニ。そして、口腔洗浄器

「ドドドドドド」
ポンプが水を押し出す小刻みな音が響き、先端ノズルから噴射された細い水流が歯周ポケットに溜まった汚れを掻き出してくる
「本当にドブ川のザリガニの味がする……」

頭痛が痛い。
日本語として使い方を間違っていることは承知している。
正しい日本語が使えなくなるほど痛い。
痛みのある部位は顔の左半分。こめかみから側頭部にかけて痛みがあり、左目から下にかけて痺れが出ている。
疲労やストレスが溜まり体調が悪くなると、この症状が出る。
以前、蓄膿症で同じような症状が出たので、耳鼻咽喉科で検査したが問題なし。
万が一を疑い、脳外科でMRIを撮影するが、こちらも問題なし。
毎回、解熱鎮痛剤で抑えていたが、症状が出るたびに痛みの部位が広がり、歯茎の腫れがひどくなってきた。
しかし、ひょんなことから原因が判明する。

「最近、お口の中で変わったことはありますか?」
行きつけ歯科医院で口腔ケアが終り、先生の問診時間。
「そういえば、最近体調が悪くなると右下の歯茎が腫れるのです」
「歯茎の腫れ以外に症状はありますか?」
「顔から頭にかけての左半分が、我慢できないくらい痛くることがあります」
「わかりました」
先生が以前撮影したレントゲンを画面に表示しながら説明を始める。
「親不知(おやしらず)が4本とも真横に生えていて、体調不良で歯茎が腫れた際に、右下の親不知が神経を圧迫して、逆側の頭痛を引き起こしています。親不知を抜けば治りますよ」
まさか頭痛の原因が親不知だとは思ってもみなかった。
しかし、原因が判明しても気が重い。
親不知を抜くことが嫌で今まで逃げてきたからだ。
体調が悪くなるたびに、ひどい頭痛に襲われるのか、親不知を抜く時に1回苦しむのか。
決断をしなければならない。
「わかりました。来週の抜歯で予約をお願いします」

親不知抜歯当日
「それでは麻酔をかけますので、痛くなったら左手を上げてください」
麻酔の針が刺さる時点で痛い。まだ、ここで手を上げるわけにはいかない。
顔に目隠しのタオルがかけられているせいで、どんな器具で治療されているかわからないが、歯茎の下に埋まった親不知を抜くために、歯茎がメスで切られるのを感じる。
真上に親不知が生えている人なら、この時点で抜けることもあるらしい。
しかし、私の親不知は真横に生えていて、下半分があごの骨に埋まっている。
「キュイーン、ガガガ」
「手強いな」
「そこ、もっと強くおさえて!」
聞くだけで鳥肌の立つ音と、あまり聞きたくない会話が耳に入ってくる。
どうやら、親不知を“抜く”ことはできず、あごの骨を削り、出てきた親不知砕いて取り除き、またあごの骨を削るという“工事”となっているようだ。
掘り進めるたびに激痛が走り、左手は上げっぱなしになる。
もはや何本麻酔を打ったのか、数える気力も失せた頃に治療が終わる。
顔の右半分がひどく腫れぼったい。鏡を見ると右半分は完全に別人の顔になっていた。
一番強い解熱鎮痛剤を処方してもらったが、完全に痛みは取れず、結局、その夜はほとんど眠れず朝を迎える。
抜歯から数日の間は痛みが続いたが、1カ月程度で傷口が完全にふさがる。

親不知抜歯の治療を終えて、定期的な歯のメンテナンスを行う日
「では、残りの親不知3本はいつ抜きますか?」
「嫌だ! 二度とあんな体験はしたくない!」
思わず口から出そうになる言葉を飲み込み、「今ちょっと仕事が忙しくて時間が取れないのですよ」と、その場をごまかし逃げる。
「わかりました。でも、親不知が虫歯になったら、大変なことになりますので、その時は仕事が忙しくても抜かないとダメですよ」
「それと、今までと同じ歯の磨き方では親不知まで届いていませんから注意してケアしてください」
自宅に戻り、食後に歯を磨き、いつものように糸ようじでケアするが、親不知のところまで届かない。
さて、どうしたものかと思案しながら、リビングで休んでいると、本日届いた「通販生活」が目に入り、何気なく流し読みをしていると、とある記事が目に入る。
リコーエレメックス製の口腔洗浄器「ポルタデントG-1」
タンクに給水して先端のノズルから水を射出し、口の中の汚れを落とす家電だ。
メーカーによって「ジェットウォッシャー」「ウォーターピック」「オキシジェット」等の名称は様々だが、総称すると「口腔洗浄器」となる。
「そういえば、昔買ったけど使ってなかったな」
一人つぶやきながら、物置部屋の片隅に置かれていた「ポルタデントG-1」を洗面所に設置する。
以前に使用した時は、歯に水流を当てていたので、効果が実感できないばかりか、洗面所が水浸しになったため1回で使用をやめた。
しかし、今回は覚悟が違う。親不知が虫歯になると、抜歯のために、あの地獄の“工事”を再び行わなければならない。
しっかり説明書を読み、使い方を勉強する。
説明書によると、歯に水流を当てるのではなく、歯と歯茎の間に水流を当て、歯周ポケットの中にたまった汚れを洗浄するイメージだ。
タンクに給水し、スイッチを入れる。
「ドドドドドド」
ポンプが水を押し出す小刻みな音が響き、先端ノズルから噴射された細い水流が歯周ポケットに溜まった汚れを掻き出してくる。
「ドブ川の水ってこんな味なんだろうな……」と思えるほど、ひどい臭いの液体が出てくる。
液体だけでなく、数日前に食べたと思われる唐辛子のカスや、青のりも出てくる。
同時に歯茎から出血し、血の味も混じり、口の中がもはや何が何だかわからないほど酷い液体のカクテル状態。
某家電レビューサイトの記事では「口の中からザリガニが出てきた」と表現されるのも納得のひどさだ。
しかし、終わってみると、かつてないほど口の中がさっぱりしている。
懲りずに翌日も使用する。出血はまだ続くが、今度は数日前の食べ物のカスではなく、その日に食べたカスが出てくる。
そんな状態が数日続くうちに歯茎からの出血も止まり、もはやこれをやらないと気持ち悪くて眠れない体になってしまう。
何より、あれほどのものが口の中に入っていたことが、今から考えると恐ろしい。

そして1カ月後、歯科メンテナンスの日
「あれ? 歯周病の影響で歯周ポケットが深くなる進行が止まっているけど、何かしましたか?」
「はい。口腔洗浄器を毎日使用するようになりました」
「そうか。歯茎も引き締まってきているし、いい傾向だね。この調子で続けましょう」
親不知をケアするために始めた口腔洗浄器の使用が、歯周病の進行を食い止めるという副産物まで生んでいる。
おかげさまで、今に至るまで親不知は3本残っている。

自宅の口腔洗浄器は長年使用した「ポルタデントG-1」が寿命を迎え、現在はパナソニックの「ドルツジェットウォッシャーEW-DJ75-W」を使用している。
一時期はリコーエレメックスをはじめ、ブラウン、オムロンなどの大手メーカーが口腔洗浄器の生産から撤退してしまい、パナソニックの独壇場であった。
しかし、ここ2年ほどは新興メーカーが相次いで参入しているカテゴリーである。
コロナ禍で口腔ケアが見直された影響や、2022年10月から歯科健康診断が義務付けられる法律が施行され、市場が拡大している影響だろう。
みなさんも口腔洗浄器を使って、口の中に飼っているザリガニを逃がしてあげてみてはいかがでしょうか?

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