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「生徒がクリエイティブを学ぶと生徒の未来は広がるのか?」#研究報告書

◆実験の背景と目的

 自分の考えや気持ちを表現する方法として、日本の教育界では4つの方法がよく用いられ、それらの育成に重点が置かれている。
 ・文章表現
 ・口頭表現
 ・図画表現
 ・身体その
 しかし、現在ではこれらが融合した「第5の表現」が社会でも一般化してきている。いわゆる動画編集による表現である。より複雑化しているSociety5.0と呼ばれる社会で生きる生徒たちが身につけていかなければならない資質能力の一つこそがこの「第5の表現力」といえるだろう。そのため、この資質能力育成が、今後の教育界においても求められるものであり、その育成手法を構築することが急務であるといえる。
 本研究では、「第5の表現力」を定義し、その育成に有効な理論と手法を明らかにすることで、生徒の未来を広げることを目的としている。

◆検証したいと思っていたこと

 当初は、「第5の表現力」を定義し、それを用いた授業デザイン、評価規準・基準デザインを作成すること。それにより、新たな表現力がどのように身についていくかを検証したいと考えていた。
 一方、GIGAスクール構想に基づく一人一台端末の導入など、教育のICT化が進む現在、ICTを導入する「Know How」だけが先行し、「ICTを活用した方が身につく資質能力とはなにか 」という「Know What」が置き去りにされている現状が生まれている。
 そこで、本研究では、この2点から「ICTを活用した方が身につく資質能力は、第5の表現力である」という仮説を立て、動画編集を通じて生徒たちがにそのような資質能力が身に着くかどうかを検証することにした。
 しかし、研究を進めていく中で、「第5の表現力」を身につけていくことは、学び方そのものにも大きな変化が生まれてくることに気づいた。そこで、途中からは「動画編集が学習に与える影響」を調査・検証することにシフトしていくことになった。

◆活動の概要

・第Ⅰステージ(6月~8月)
 生徒に「第5の表現力」を身につけてもらうために、私自身がその資質能力を体感する必要があるだろうと考え、専門的な知識・技能をもったフリーランスクリエイター陣から知識・技能やリテラシーなどを私自身がリスキリングした。毎週行われる講習を通じて、1作品を2~3週間で提出~Feedback~ブラッシュアップのサイクルを回しながら完成させた。結果、「自己紹介動画①」「学校紹介動画」「授業紹介動画」「自己紹介動画②」の合計4本を作成することができた。
 8月にはメンバーでの1泊2日の合宿を通じて、素材撮影や動画編集のスキルを磨くだけでなく、実際のクリエイターの業務やフリーランスの働き方などについて話し合う機会を得、教育公務員としての働き方と全く異なる職業観や人生観に触れることができた。また、第Ⅱステージについて議論を行い、今後の方針を固めることができた。

・第Ⅱステージ(9月~12月)
 当初は、私が講師となって生徒に技術を教えて…という計画であったが、プロフェッショナルから直接指導を受けた方が良い学びが得られることを痛感したため、クリエイター陣に講師役をお願いし、教員はファシリテータとして第2ステージへ臨む計画へと変更した。
 授業を活用しての動画作成は困難だったため、放課後を活用して有志4人(男子1、女子3)によるプロジェクト学習として実践することにし、具体的なゴールとして、①12月末に行われる「掛川城プロジェクションマッピング」での作品上映、②1月の研究発表会への参加を目指すことにした。
 これらを踏まえて、9月に①企画作成講座、②動画撮影講座、③編集講座を行い、基本的な技術を理解した上で、10月当初より動画作成を始めた。現在(12月18日現在)、動画作成も山場を迎えている。

◆各ステージを通しての気づきと成果

・第Ⅰステージ(6月~8月)
 動画作品の創作は初めてだったこともあり、日常業務との並行実施は想像以上に大変だった。週一回のリスキリング講座でクリエイター陣から都度適切なFeedbackをいただくことにより技能は上達する一方で、自分の「センス」のなさを痛感するのが正直、ツラい時期もあった。しかし、合宿などを通じクリエイター陣や参加メンバーとの絆も深まり、皆から多大なフォローをいただくことにより何とか第Ⅰステージを終えることができた。結果、今までにない知識・技能の習得できただけでなく、想定外の多くの気づきを得られたステージとなった。
 成果としては、予定通り第Ⅰステージにおいて「第5の表現力」を「編集を加えた文章・口語・図画・身体を統合した表現」と定義することはできた。また、動画編集にはICTは不可欠であり、だからこそ新しい資質能力=「第5の表現力」を育成するためにはICT活用が必要であるという結論にたどり着くことができた。次に、その結論に基づいて授業案・評価案を考えていったわけだが、その中で動画編集は単なる技術ではなく、「動画編集の考え方」そのものが「第5の表現力育成」の核を為すものという考えに至るようになった。
 それらを元に、第Ⅱステージのデザインを変更していくことになった。

・第Ⅱステージ(9月~12月)
 3回の基礎講座を行い、生徒に動画作りの基礎を学ぶ機会を作った。企画講座で学んだ「6W2H」など学校では学べないような内容を、本物のプロから、生の声で学ぶ機会を作れたのは良い仕掛けだったと思う。受講生徒数も多く、第Ⅰステージのような感覚では進められない部分もあったが、生徒たちの理解も早く、講座後の課題も早々にやり遂げるなど順調なスタートを切ることが出来た。    
 基礎講座終了後からいよいよ動画制作が始まった.幸運にも、本校メンバーには地域史を探究している生徒と動画編集経験がある生徒、イラストが得意な生徒、写真撮影が得意な生徒が揃っていたため、自然と分業体制が出来上がり、動画作成もスムーズなスタートが切れた。
 作品テーマは年末の掛川城PMの出品を見越して「(本校の所在地である)富士宮と掛川を結ぶ歴史」とした。企画を練る段階においても、クリエイター陣から多くのアドバイスをいただくことで生徒たちのアイデアがより洗練され、具体的になっていくのを傍から見ていると、生徒の可能性と底力に感心することしきりだった。
 現在、作品提出の期限が迫り、まさに佳境であるが、限られた時間内で全力を尽くした先にあるゴールが楽しみである。
 成果としては、「第5の表現力」が動画制作だけでなく、他の場面でも生徒から見られるようになった。レポートの書き方など、「6W2H」に基づいた記述ができるようになり、明らかに内容の質に向上が見られた。また、編集活動において、メンバー間で意見を戦わせ、折り合いをつけながら、皆が納得する作品を創り上げる過程は、生徒が「子どもから大人へ」と変わっていく過程を短期間にみているようだった。そして、創作活動にのめり込むことで、加速的に「自分事」化していくプロジェクト学習の効果はプロジェクト以外にも表れてきたのが印象的であった。

◆結論
 「生徒がクリエイティブを学ぶと、生徒の未来は広がるのか?」ていう問に対しての結論は「広がる」である。
 学習指導要領で求められている「主体的・対話的で深い学び」「地域に開かれた学校」「教科横断型のカリキュラム編成」は、これからの時代を生き残っていく生徒の未来を広げるために求められているものだが、この実現のために最適な取り組みがクリエイティブ学習と言えるだろう。そして、その根幹を成すものが「第5の表現力」であり、その育成には動画編集に基づくクリエイティブ学習が最適であるという結論に至った。
 一方で、GIGAスクール構想による1人一台端末の導入に伴い、様々な授業実践が行われているが、「ICTを活用することで身につく(身につけやすい)資質能力とはなにか?」という問の答えは誰も出していない。本研究を通じて「動画編集(クリエイティブ学習)によって身につく第5の表現力」が、その答えに当たると結論が出せたのも成果の一つである。
  これらの成果をもとに、今後は動画編集を活用したクリエイティブ学習を教科学習にも取り入れていくことを目標に、実践を積み上げていきたい。