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【小説】おとぎ話の世界で君ともう一度#14

第二幕 靴を落とした少女


10:”いい子”の呪い


「そうね。純粋、、、、ね。
私は、優しくて”いい子”でなければいけないの。」


そういって、エラが悲しそうな表情をしたことに私は動揺した。

「エラ??」

「え、えぇ。全然大丈夫。ちょっと思い出ちゃっただけだから。」

「思い出すって何を??ごめん。言いたくなかったらいいんだけど。」

「そうだね。。。。。。これを話すのは、りうが初めてだね。。。
りう。ついてきて欲しいところがある。」

「う、うん。いいけど。この家のお母さん達とお姉さん達に見つからない?大丈夫?」

「大丈夫よ。お母様とお姉様達は寝ている。」

「そう。ならいいんだけど。」

そう言って私は屋根裏部屋を後にし、エラの後について行った。

エラが行く先は、このお屋敷の裏にある庭だった。 薄暗い庭は私には少し不気味で、エラに連れ出された脚が少しだけゆっくりになっていった。

「エラ。ここに何があるの??」

「もうすぐ着く。」


そして、盛り上がっている土の上に何かが刺さっているところまで来るとエラの足が止まった。
そしてエラはこういった。

「ここよ。」

「エラ?ここは?」

「ここは母上の仮のお墓よ。母上の本当のお墓は別の場所にあるわ。」

なるほど。
エラのお母様のところだったんだね。
ちょっと不気味なんて思ってごめん。エラ。
でも、土の上に刺さっているのはなんだろう?
木の枝??

「そうなんだね。それと、ここに刺さっているのは何??」

「それは、ハシバミの枝。亡くなる前にもらった父上からの最後のプレゼント。」

「そっか。そう、なんだね。それで、エラはここに来て何を話したかったの?」

「そうね。
ちょっと母上と父上に、会いたくなって。
それと、りうのことも紹介しておきたいと思ったの。
それにね、うーん。
そんな大したことではないの。
でも、それがずっと心の中に残っているの。

母上が亡くなる前に言った
"いい子"でいるのよ
って言葉が。

私は、その言葉通りにいつも"いい子"でなければいけないと思った。

だから、私は悪口なんてもってのほかだし、愚痴も溢さずに生きてきた。

でも、少しね、母上がなぜ私に残した最後の言葉がそれなんだろうってどこかで思っちゃうの。
もっと、ほかの言葉を探せばいくらでもあったのに。

でも、それは"いい子"な私は思ってはいけないこと。

そう思ってたんだけど。

やっぱり、母上がなぜ私にそんなことを言ったのか、分からないの。

今は父上と一緒に見守ってくれてるのかなって、素直に思えることがいいんだろうけど。

その疑問がどうしても消えてはくれないの。

でも、私は、それ以上に母上と父上に愛されていた。とってもね。

だからね。少しだけりうの純粋って言葉が、母上の言葉と重なってしまったのかもしれない。

ごめんなさい。
こんなこと言うつもりじゃなかったのに。

りうも、そんなつもりで言ったことじゃないことも知っている。

ただ、私は、誰かに打ち明けたかったのかも知れない。
このどこにぶつけていいのか分からない思いを。」

そう言って、エラは、ハシバミの枝が刺さったところを前に手を合わせた。

エラの表情は、いつもより少しだけ苦しそうに歪んでいた。

そんなエラを見ていて、やっぱりこの世界は残酷だと思うしかこのやりきれない思いを表す言葉が見つからなかった。

そんな思いと共に、私は、エラになんと声を掛けていいのかわからなかった。

そして、エラがハシバミの枝の前から立ち上がったとき、ちょうど0時を知らせる鐘がなった。

途端に、エラはその場から崩れ落ち、ドサッと横に倒れた。

私は、エラが死んだんじゃないかと焦り、エラ!!っと声を荒げてしまった。

すると彼女が目をパチっと開けて

「何よ。うるさいわね。あのクズ女達が起きてしまうわ。」

と言葉を発した。

この言葉遣いは、もしかして

「エル??」

「そうよ。エルよ。というかここはどこ?あの部屋ではない見たいね。」

そう言ってエルは起き上がっハシバミの枝が刺さった土の丘を横目に見た。
するとエルは、

「あぁ。またエラはここに来ていたのね。あなたと一緒にここへ来るなんて、りう。あなたエルにとても信頼されているのね。」

と言った。

「そう、、、なのかな?そうだったらいいんだけどね。っていうか、エルはここのことを知っていたんだね。」

「ええ。ここで、0時の鐘を聞くことは、何度かあったし、それに、断片的だけど、エルの、この物語のストーリー?というのかしらね。それは、もうあのボタンを通して知っているから。」

「だから、エルは驚かなかったんだね。納得がいったよ。」

「それよりも、あなたとエラは一体ここで何をしていたのかしら?」

「エラのお母さんの話を聞いていたよ。」

そう言って私は、エルにエラの話していてことを話した。

そのことにエルは

「あぁ。それは知っているわ。」

「エル。知ってたの。」

「そうね。だってその言葉、"いい子"って言葉がエラと私を乖離させた原因でもあるのよ?だからこそ、私は心底この運命には腹が立つのよ。
まったく、エラにも私にも呪いの枷をつけるだなんて。」

「呪い?エラは呪いだなんて言ってなかったよ?」

「りう。あなた頭が悪いのかしら。
どう見たってあれは幼少期に受けた母からの呪いじゃない。
そうね。
この呪いに名前を付けるのだとしたら、"いい子"の呪いなんてどうかしら?」

そんなことを私とエルはヒソヒソと話しながら、屋根裏部屋に戻ったのだった。


*これはフィクションです。
登場人物とは一切関係ありません。

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