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昏き闇斬り裂く眩き光~異・ウルトラマンA~

空想(こういうヤツが見たかった)特撮シリーズ

第一回 絶望の焔と閃光の巨人

 それはMATが再建されてから20年近く経った、陽の光が強い四月のことだった。広島県福山市に巨大な生物が出現した。
 数少ない生存者によると、地底などから現れたのではなく、突然、目の前の景色が歪み、気持ち悪くなり、それが収まってみると怪獣の姿があったという。
 MATが各地に設置した通称怪獣観測計、地底や空に異常に大きな波動を感知する装置も、その怪獣――後に超獣と呼ばれる巨大生物の存在を観測していなかった。
 超獣は突然、その場所に出現したのだ。
 現地警察や役所からの通報を受けた政府は、即座にJアラ―トを発信した。
 Jアラ―ト発信と同時に東京のMAT本部は緊急出動命令を発令、陸上自衛隊東部方面総監部および西空エリアの航空自衛隊はMAT条約に則り、いつもの様にMAT作戦本部の指揮下に一次的にだが組み込まれ、怪獣撃退行動に移った。
 MATの運用する対怪獣戦闘攻撃機マットアロー1号とマットアロー2号はぞれぞれ三機ずつ、計六機編成で発進した。
 改マットアローシリーズは速度が早い。現地到着までは全速力で10分ほどだ。
 その超獣はとても醜く、そして生理的嫌悪感を伴う姿だった。現地の人々は恐怖に囚われ。我先にと避難を開始した。
  まず航空自衛隊の攻撃がはじまった。戦闘機には対怪獣用の特殊弾頭を積んだガトリングポッドとミサイルを翼下に搭載していた。
 先ずはガトリング砲で顔を狙い、怯んだところを特殊合金で先端を多い、身体の内部に侵入してから爆発する、AMM(Anti-Monster Missile/対怪獣ミサイル)を撃ち込む。
 さらに現着したマットアロー1号改、2号改から、細胞を焼き尽くすレーザーが照射された。
 怪獣なら大抵これでカタが突いた。
 が、相手は怪獣ではなく超獣だった。
 先ずミサイル攻撃に対し、身体中からAMM(Anti-Missile Missile)と思しきものを次々と連射しこれを迎撃、レーザーには多少怯んだ程度で、ほぼ無傷だった。
 その結果にMATを含めた人々の脳裏に、不気味な声が鳴り響くと同時に、そらにゆらゆらとした不定形の人型らしき影が浮かんだ。

『ふ、ふははは! 愚かな人類め。我々ヤプールが造りだした超獣ベロクロンにその程度の攻撃が効くものか。いけベロクロンよ。お前の力を三次元どもに見せつけてやれ! 皆殺しにするのだ!!』

 その言葉通り、超獣ベロクロンは身体中からミサイルを発射、福山市を地獄に叩き込んだ。
 ミサイルは建造物に着弾するとそれを粉々に破壊し、さらに炎を撒き散らした。それはまるでナパーム弾のようだった。
 炎には増粘性があり、人がその炎を受けると消火が極めて困難で、ミサイル攻撃を逃れた人々も、炎に焼かれ、いや、焼き尽くしされて死んだ。
 ミサイルの火は人に着かずとも地面や建物、あらゆる場所に火を付けた。その光景は焼夷弾による爆撃を思わせた。
 場所によっては消防隊員たちが消火栓を使って消火に務めたが、増粘性のある火には逆効果で、炎は瞬く間に福山市を包み込んだ。
 さらにベロクロンは逃げ惑う人々を踏み潰し、鋭い爪で引き裂いた。
 時には人を捕え、口に放り込むと牙で嚙み殺し喰った。
「ぎゃあああああああああっ!」
 ベロクロンに蹂躙、あるいは捕食される人々の悲鳴が、炎に包まれている街を包む。それはまさに地獄絵図に他ならなかった。

 今までも市街地における対怪獣戦闘はあったが、ここまで凄惨な光景は生じなかった。
 人間を捕食する怪獣もいたが、逃げ場はあったし、そもそも地底怪獣や飛行怪獣でもない限り、出現するのは山々や海などの自然が多い地域だった。
 そうした場合、MATの指揮下に入った陸上自衛隊は、怪獣が市街地に侵入する前に防衛線を張って足止めし、そしてMATの攻撃によって駆除してきた。
 それが今回は、人口密集地帯である市街地のど真ん中に、突如として出現した。
 しかもヤプールを名乗る何者かの手によって造り出された人工の怪獣、いや、超獣だ。
 なにもかもが異例尽くしだった。
「くそ、なにが超獣だ!」
 現場で指揮を執るMATの戦闘隊長坂田は、自分たちの武器が全く相手にに通用しないことに歯軋りしながらも、兵装が残っている限り攻撃を繰り返した。

 AMM(Anti-Monster Missile/対怪獣ミサイル)が完全に尽きると、今度は執拗にレーザーで攻撃した。
 だがやはり、ベロクロンを倒すには至らない。
「ん?」
 いったい何度目の攻撃だったか、坂田はレーザー攻撃を受けたベロクロンの表皮の再生が、ひどく緩やかなものであることに気が付いた。 レーザー攻撃は有効だ。同じ個所にレーザーを当て続ければ、やがて再生が追いつかなくなり、表皮を破ることが出来る!
 そう確信した坂田が、マットアロー全機にレーザーによる一点集中攻撃を命じようとしたそのとき、富士要塞の本部から通信が入った。
『坂田、戦闘停止だ。一旦近くの空自基地で待機しろ』「竜隊長! 何を言ってるんですか!!」
『WDG(地球防衛庁(Global Defense Agency/GDA)から、戦闘行動は停止し、以後は救助活動に当たれとの命令が下された』
 坂田は一瞬、頭がくらっとした気がした。攻撃を止め救助活動に当たれ。それは事実上のベロクロンに対する敗北宣言だった。
「超獣を、ベロクロンを放置するつもりですか!?」
『我々の兵器が通用しないのでは、下手な攻撃はヤツを怒らし被害を増やすだけだ』「ヤツにはレーザー攻撃が効きます! 集中攻撃すればダメージを与えられるんです!!」『命令はすでに下された。陸自も戦闘を止め、救助活動に全力を尽くしている』
「しかし!」
『坂田っ ・・・・・・これはGDAからの命令なんだ』
 GDAは普段、MATの作戦行動に口を挟むことはない。命令権はあるものの、現場での作戦はMAT本部に任せるのが不文律だった。
 その不文律を破っての命令。それがどれほどのことを意味しているのか、入隊歴が十年になろうとしている坂田には理解できた。
「・・・・・・了解、しました」
 そう答えると、坂田は再び無線のチャンネルを編隊全機へと替えた。「こちら坂田。全機に告ぐ。攻撃は中止。繰り返す、攻撃は中止」
 坂田は脳内ですぐさま、最寄りの滑走路を持つ航空自衛隊の基地を検索した。
「全機坊府基地で待機する。オーバー」
『坂田さん! 本気ですか!?』
 すぐに指揮下のアロー2改から返信が入った。まるで自分が喋っているようで、坂田は小さくクスリと笑った。
「山中か。これは司令部からの命令だ」
『っ! GDAからの_!?』
「そうだ」
 MAT隊員たちは富士要塞を本部と呼ぶ。司令部というとき、それはGDA、つまり地球防衛庁を意味した。
 坂田は手早く、自分が本部にいる竜隊長に下された命令を、山中を含む全機搭乗員に説明した。 眼下ではベロクロンが目のつく人々を蹂躙しながら、福山市を灰塵に帰そうとしている。
 それを見逃がす。怪獣退治のために組織されたMATの隊員にとって、これほど悔しいことはない。坂田も、許されるものなら命令違反を犯してでも攻撃を続けたい。
『坂田さんはそれでいいんですか!?』
 若く一直線な気性の山中らしい反問が、ヘルメットのレシーバーに響いた。坂田はかつての自分の様なこの隊員を好ましく思っていた。
 だが命令は絶対だ。MATは軍隊ではないが、命令を守らなければ組織が成り立たない点においては同様だ。これは他の組織、警察や消防にも当て嵌まった。
「山中隊員。命令は絶対だ。反抗は許さんぞ」
 そういって通信を切ると、操縦席右横のWO(WeaponsOfficer/兵装管制官)シートの吉村公三隊員が「・・・辛いですね」と、正面の兵装管理ディスプレイを見据えたまま言った。
「これも給料のウチさ」
 坂田は口元を歪ませ、MAT一冷静な隊員の慰めにも似た言葉に応えた。「くそ、くそぉ!」
 一方、山中が操縦席でこれ以上はないほどの悔しさに震えていたとき。

 炎に焼かれている福山市を、光が覆った。
「う! な、なんだ!?」
 坂田は、あまりの光の強さに思わず目を瞑ってしまう。遮光バイザーを下ろしているのになんという光の強さか。もはやそれは光の闇と言っても過言ではなかった。

 光が収まった。体感時間としては一分くらいだったが、実際はほんの数秒しか経っていなかった。
「郷・・・・・・さん!?」
 操縦席の中で坂田が呆けたような顔で呟いた。
 光の収まったあとには、銀色の巨人が立っていた。身体には赤いラインが走っており、その姿はかつて二度にわたり日本の出現し、怪獣や異星人といった脅威と戦い、人類を守ってくれた銀色の巨人・・・・・・ウルトラマンに似ていた。
「ウルトラマンだ!」
 坂田同様、二度目に地球に現れたウルトラマンを見たことがある山中は、コックピットの中で歓声を上げた。
 ウルトラマン。
 それは謎に包まれた銀色の巨人。異星人であることは科特隊時代から、彼と最初にコンタクトした隊員の証言で明らかになっている。
 ウルトラマン。
 マッハ5の速度で大気圏を飛行し、強力なエネルギーであらゆる敵を粉砕する不死身の異星人。
 彼らがなぜ地球人を守り戦うのか。今も続く長年の謎だが、我々に好意を持っていることは、その行動から明らかだった。
 だから科特隊もMATも、世界の秩序を破壊する怪獣や異星からの侵略者と、共に戦った。
 ウルトラマンといえども、敵に思わぬ苦戦を強いられるときがある。科特隊とMATは、彼にとって力強い味方であった。

「違う。郷さんじゃない」
「坂田さん?」
 坂田の呟きの意味を図りかね問いかける吉村。だが坂田は何も答えない。
 突如として現れた銀色の巨人は、冷静になって見ればウルトラマンとは姿が違った。
(もしやこいつがヤプール!?)
 一瞬、疑いが生じた。が、すぐにそれは杞憂であることがわかった。
 巨人は対人ミサイルを発射しつつ、口から炎を放って街を破壊し人を殺しているベロクロンに向かい、一直線に走りながら跳躍。
 ドロップキックを浴びせかけた。
 巨人の身長はおよそ50メートル。いったいどれほどの質量によるキックなのか。人間にその答えは計りかねたが、ドロップキックを身体に喰らったベロクロンがその巨体を、地面に倒れこんだことから相当なものであることはわかった。
 次に巨人は立ち上がろうとするベロクロンに、サッと指を伸ばした右手を向けるとナイフのような光を放ち、異常な頑健さを誇る超獣の身体に鋭い傷を負わせた。
「ギャアアアアアアアアア!」
 ベロクロンの傷から悲鳴と共に血しぶきがとんだ。
「傷が再生しない!?」
 マットアロー1号改から巨人とベロクロンの戦いを注視していた坂田は、レーザーでは傷を負わせることが出来ても、再生を阻むことは出来ないのに、光の矢はそれを成している事実に驚きを隠せなかった。
 手傷を負ったベロクロンは、なんとか立ち上がると巨人に向けてミサイルを斉射した。
 無数のミサイルが巨人を狙い飛んでいく。
「危ない! 避けろ!!」
 思わず坂田は、届くはずもない声を上げていた。
 ミサイルが次々と巨人に命中し爆発していく。ミサイルの威力は相当なもので、瞬く間に辺り一面を火の海と化した。
 これでは巨人も無事では済むまい。
 巨人とベロクロンの戦いを目撃していた者は、誰しもがそう考えた。
 だがいったいどんな超能力なのか、巨人が「ヘアッ」と両腕を振ると、一瞬で炎は消え去った。
 ウルトラマンでもこんな能力を見せたことはない。神の如き力を見せた彼らも、火災を消すには超能力で猛烈な水流を発生させていた。
 しかし目の前の巨人は水流など用いずに、腕を振っただけで炎を消し去った。
 唖然とする人間をよそに、巨人対ベロクロンの戦いは続いている。
「ダアッ!」
 炎を消した巨人は次に両手から、ウルトラマンも使ったノコギリ状の刃を持った光の輪を作り出すとそれをベロクロンに投げつけた。
 二つの光輪は飛翔しがら分裂し、ベロクロンに襲いかかった。
 光輪の群れはベロクロンの表皮を切り裂き、たちまちのうちに悪魔の様な超獣を満身創痍にした。
 血を流し過ぎたのだろう、すでにベロクロンはグロッキーで、巨人はトドメを刺すため、右手を光の剣に変化させ近づいていった。
 その時再び、あの忌まわしい声が坂田たちの脳に直接響いた。
『ベロクロン! 一旦退け!!』
 すると出現したときのように、ベロクロンは空間を歪ませて姿を消した。
『おのれ、おのれ! ここでも我々の邪魔をするか$#%&*!』
 どうやらヤプールと巨人は以前にも戦ったことがあるらしい。ヤプールは巨人の名を言っていたが、それは坂田たち人間には理解出来ない言語だったため、救い主ともいうべき巨人の名を知ることは出来なかった。
『覚えているがいい、三次元人ども。我々の攻撃はこれで終わったわけではない。これから始まるのだ。この地上は地獄と化し、屍ばかりの世界と化すのだ。貴様も! 貴様も! 誰も我々ヤプールの攻撃からの攻撃から逃れることなど出来ないのだ!!』
 ヤプールの呪いの言葉が終わると、巨人はやはりウルトラマンの様に空に飛び去った。坂田は、後に自衛隊のレーダーサイトが追尾したが、途中でロストしたことを聞いた。
 ともあれ、謎の巨人のおかげで市全域を覆っていた炎は消え去ったが、倒壊したビルや逃げ遅れて命を落とした人たちの遺体などは、そのまま残っている。
 生存者を救助し、遺体を回収するのは陸自の仕事だ。
 坂田は心の中で彼らに頭を下げると「全機RTB。繰り返す。全機RTB」と、基地への帰投を命じた。
 坂田も操縦桿を握り直し、機体を東へ向けた。
「あの巨人、ウルトラマンの仲間なんですかね?」
「さあ、俺にはわからん。ただ、本部や司令部は今頃大騒ぎなことだけは間違いない」
 吉村の言葉にそう答えた坂田は、郷秀樹が帰ってきたわけではなかったことが少し残念だなと、心の中で呟いていた。

 富士山麓一帯に建造された要塞に帰投した坂田たちは、予想通りの光景を目にした。上層部だけでなく、MATとGDAの組織全体が上へ下への大騒ぎなっていたのだ。
「竜隊長。坂田以下全機、帰投しました。戦闘詳報は後ほど提出します」
 坂田は本部作戦室の隊長席に座る竜五郎にそう告げると、敬礼をして下がろうとした。
「待て待て、坂田。疲れているだろうが、ちょっと話がある」
「銀色の巨人のことですか?」
「察しが良いな。その通りだ。最も間近で巨人の戦いを見ていたのはお前たちだ。そこで明日東京のGDAへ出向いて、見たこと聞いたこと、何でもいいからお偉方に説明してやってくれ」
「超獣とヤプールのことはいいので?」
「むろんそれもだ。ったく、いくつになっても可愛げのないヤツだ」
 竜の呆れた様な口調に、坂田はニタリと笑みを浮かべて言った。
「その分、仕事の出来は良いでしょう?」
「ふふふ。言いやがる」
「上官の教育が良かったんでしょう」
 坂田の上官とは、すなわち竜隊長その人である。
「ははははははは。そうかそうか」
 部下の軽口に笑うと、竜は「DGAへの出頭は翌朝0900だ。連絡機は用意してある。以上、下がってよし」と伝えるべきことを伝え、それに敬礼で応えた坂田は作戦室を後にした。
(つづく)


予告編
『ついに姿を現した謎の侵略者ヤプール。彼の地球侵略の目的はなにか?
そして銀色の巨人はウルトラマンの仲間なのか?
次回『ベロクロン逆襲』、みんなで読もう!』

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