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烏賊のお刺身が教えてくれたこと

 一週間程前、久しぶりに、ものすごい頭痛に襲われた。頭が割れんばかりとはこのことだと思うくらい。丁度、仕事がお休みの日でよかった。前日の晩に、久々に飲んだ梅酒がキツかったのか、更年期障害か。とにもかくにも、吐き気をともなうほど酷くて、横になるしかなかった。

 夕飯は、カレーを作っていたので、皆で食べるように旦那さんに伝えて、ひたすら寝た。旦那さん、いろいろ動いてくれて、感謝の気持ち。普段は、分かりにくいけど、こういう時は頼りになる。

 夜中、ふと目が覚めて、喉の渇きを感じ、一階のリビングへ。
すると、お姑さんが、子ども達の制服のアイロンかけをしてくれているのが目に入った。
「ありがとう」と伝えると、「うん。身体は大丈夫?」と言ってくれて、手早くリビングの後片付けをしてくれた。

 普段、ほとんど自室で過ごすお姑さんが、リビングにいるのは、めずらしい。
せいぜい、夕飯時くらいか、用事がある時くらいだ。子ども達が小さい時は、一緒にリビングで過ごす時間もあったし、よくご飯も作ってくれていた。
今は、子ども達も大きくなり、習い事や部活で、ご飯の時間はバラバラ。
煮物が多いお姑さんのおかずは、子ども達の人気がなくて、だんだんと料理も作らなくなってしまったから、尚更、用事が無くなってしまったんだろう。

 自然にリビングにいるお姑さんを見ていると、少し遠慮もあったし、いろいろあったんだろうなぁなんて、ふと思った。

 翌日、頭痛は、まるで憑き物が取れたように、すっかりなくなった。

 その日は、お姑さんを整形に連れていく日だった。私は、診察が終わるまでの待ち時間に、スーパーで買い物をすることにした。

 私の住んでいる街は、海に近い。時々、スーパーの鮮魚コーナーに、釣りたての魚が並ぶ。今日は大量に釣れたのか、丸々と身の太った烏賊が、平台の殆どを占めていた。お値段もリーズナブル。烏賊のお刺身は、旦那さんと子ども達も大好き。
でも、捌けないしなぁ。鮮魚コーナーの調理場は、もぬけの殻で、「お魚、調理します。」の看板が寂しそうに立っている。

 20年前に他界したお舅さんは、自家用の舟を持っていた。大量に釣った魚を、お姑さんが捌いていたらしい。高齢で力も弱くなりつつある今でも、魚を捌けるのだろうか。
私は、あまり魚を捌いたことがないから、ぜひ、お願いしたいと思った。

 整形の帰りに、「スーパーに、美味しそうな烏賊が売ってたんだけど、私、捌いたことなくて。捌いてもらえるなら、買おうと思うんだけど…。」と聞くと、即答で「いいよ」と返事してくれた。烏賊を購入し、家に帰ると早速、捌き始めてくれた。

 見ていると、その手早さに驚いた。振り返ったら、もう終わってた。まな板の上には、烏賊の刺し身の短冊が、まるでピカピカ輝く白いヨットの帆のように並んでいる。
いつもテレビの前にじっと座っている姿が、もったいないなと思えた。

 その日の夕飯は、豚肉の生姜焼にプラスで、烏賊の刺し身が並んだ。思わぬ一品で豊かな食卓になった。新鮮で、とても柔らかくて、美味しい。旦那さんも子ども達も、もちろん私も、よく食べた。
お姑さんは、同じ鮮魚コーナーに売っていた太刀魚を焼き魚にして、大根おろしと一緒に食べている。食べた後は、猫も食べないくらい、骨だけになる。それくらい、お魚が大好きな人である。

自分が苦手なことは得意な人にお願いしたら、自分がするよりも何倍もの恩恵と、何より、その人自身が活躍する場所が得られた。

いつも遠慮してしまうけど、これからは、もっとお願いしてみようかな。

私は、その日から、スーパーの鮮魚コーナーによく行くようになった。


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