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今だからsilentに想う事

元気にしてる?好きな人とはどうなった?
どこか心の片隅で気にかけつつ
紬は想のいない人生の特にこの3年、
ちゃんと幸せに過ごしてきた。

ちょっとだけ特別な日になる予感がして、
きれいな靴下を履いて出かける。
見覚えのある横顔、大好きだった人。
突然目の前に現れて、気持ちを一瞬にして
8年前に戻していくなんて思いもせず。

待ち望んだ再会は望んだモノとは違くて
元気なのかさえ聞けないまま。
ただただ、好きだった人からの拒絶と
わからない手話、現実を突きつけられる。
「ちょっと話そうよ」
そんなこと、想は望んでいなかった。

「想、耳聞こえなかったでしょ」
紬が今の想を受け入れるのに、
早いとか遅いは関係なかった。
それは8年前に突然去られた側だからかもしれない。
思い当たる、最後に会った公園、
「青羽に聞いてほしいことあって」
別れた理由がそのことなのか確かめたかった。

ツチノコに例えるくらい、実在する事が
現実だと思えなかったかつての大好きな人。
やっと手が届くところに現れてくれたその人が、
また去ってしまわないように。
目の前に居てくれるだけでいい。
どうでもいい話をするだけでもいい。
次の約束を、つながりを、求める。

想は?想はどうなんだろう。
自分のため、紬のため、母のため、親友のため。
いずれ現実に直面する時が来る、
もう電話もできない、一緒に音楽も聴けない
悲しませたくない、心配させたくない
そうなる前に去る事を選んだ。

聞こえなくなってからの3年、母とも距離を置き
奈々とだけ交流しながら細々と生きてきた。
大きなタワレコを見上げても
入ることなんてないまま。
一生入ることなんてないだろうと
思っていたかもしれない。
紬と再会しなければ、想なりに静かな生活のまま
平穏に生きていけただろう。
誰かに、何かに、傷つけられることもなく。
想や母が望んだように。

でも会ってしまった。
それはもう、ジェットコースターがガタンガタン…
と頂上まで上がっていく時間なんてない状態。
動き出したらいきなりフルスピードで
しかも減速なんかできない状態。
気持ちの整理なんてする間もなく
息つく間もなく。

しまい込んでいた「好き」が
勝手に飛び出してきて、
また好きになってしまう気持ちは
止まることを知らない。
一緒にいたいと望んでしまう気持ちに
抗うこともできない。

想にとって母の待つ家が、少しの用でも
ただいまって帰れる場所に戻る。
タワレコに入ってCDを手に取ることができる。
紬との未来をちゃんと見つめようと覚悟しかける。

なのに。

紬と一緒にいるほど体感してしまう
「聞こえない現実」
8年前、受け入れられないだろうと思って選んだ道に
あっという間に引き戻される。

変わってしまった自分、
あの頃のままのまっすぐな紬。
愛おしい表情、ふと感じる幸せな瞬間、
ふとした紬との時間に
この現実を思い知る。

聞こえない事が受け入れられないほど、好きな人。
好きになる度、前が向けなくなる。
別れた理由、全てを切り捨てた理由、
やはり同じ事で苦しくなる。
声が聞きたい、叶わないなら、
また好きになんてならなきゃよかった。

再会してからラストシーンまで激動の約2ヶ月半。
8年のブランクを埋めるにはもっとゆっくり
時間をかけるべきだったのかもしれない。

2ヶ月ちょっと、止まらないジェットコースターが
ようやく減速したら、見えてくる事が沢山あって。
想に必要だったのは、
紬と向き合う覚悟じゃなくて
今の想を想自身が受け入れること。

silent、何度も見て、沢山の時間を想って過ごした。
紬の気持ちも想の気持ちも
それなりにわかったつもりでいた。
そんな単純じゃなかった。
出会い直して、お互いが惹かれ合ってるんだから、
一緒にいるのが当然で1番いいだなんて
それこそ単なる自己満足の思い上がりだった。

10話の想が紬に見せた本音、
湊斗に打ち明けた本心、
今はあの時より理解できる気がする。

声が聞きたい。
好きだから一緒にいるのつらくて別れたんでしょ。
紬をまっすぐ見られない、手話を読みたくない、
だから俯いてしまう。
前を向けばいつだってまっすぐな紬が、
そのまっすぐさで自分と向き合ってくれる。
でもそれは変わった自分を思い知ることにもなる。

想には束の間立ち止まって
足元を見る時間が必要だった。
これからも一緒にいるために、
見ないふりはできない、
避けてはいけない葛藤だった。
また好きにならなきゃよかったって
思ってしまう事を、その理由を、
紬とふたりで分かち合って乗り越える必要があった。

乗り越えられたことに意味があって、
そこでようやく想は紬と向き合う覚悟を
もつことができた。
「想らしさ」の自信も少し取り戻す、
そっと握ってくれる手を
しっかり握り返せるくらいには。

心の奥底に閉じ込めて、
8年ずっと眠らせていた深く強い愛情。
いきなり叩き起こされて、
体と心が全然ちぐはぐなのに
無理やり引っ張られて
全速力で走ってる状態だった想。

一度立ち止まり、自分を受け入れ、迷いを払拭し、
今の紬をまっすぐ見る。
やっと自分の意思で紬の隣を歩けるように
なったのだろう。
変わってしまったものと
変わらないものとを受け止めて、
紬と一緒にいる今を選ぶ。

1ヶ月がすぎて、全話を見返す。
時間が経ってからの方が新しく気がつく発見が
あって驚く。
見るたびに大事な何かに気付かされる。
ようやく想の気持ちが少し理解できる。
いや、理解できた気がするだけ。
浅はかだった自分に気がつく。

何度見ても揺るがないのは、 silentへの気持ち。
やっぱり大好きだ。

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