初回アポばっくれ男の共通点
前日、当日ドタキャンはよくある話である。すみません、行けなくなりました、と連絡をくれるのは全然問題ない。もちろん予定は前もって調整している手間はあるが、行けないものは仕方がない。
問題は、連絡もよこさず現れないメンズである。バックレられるのは流石に腹立たしい。
今のところ2人にやられている。そして私は気づいたことがあるーーー
■T君 経営者
正直彼の名前はもう忘れてしまった。
東カレでかるーくマッチした。
一歳年下の、何やよくわからないが自身で会社を経営しており、年収は5000万円超え。年収保証マークもついていた。海外の大学を卒業。文章の語尾が全てびっくりマーク。
顔写真は可もなく不可もなく。
年収が高すぎてカタギのものか怪しいが、まあメッセージくらいはやりとしてみよう。
「ランニング好きなんですね!一緒に皇居ランしましょ!」
t君は挨拶もなくメッセージをよこした。ワンマン社長タイプかなと想像。
「プロフィールみてくださってありがとうございます!皇居ランいいですね!」
こちらもびっくりマークで応戦。
そこから何通かメッセージをやりとりした気がするが、もう記憶にない。
しかしかなり早めに会いませんか?というお誘いがあったとは思う。
「土曜日空いてませんか?よかったらお茶しましょ!」
わー軽いなーと思いながらも了承。
「14:00に赤坂でどうですか!」と先方。
こちらの都合お構いなく全部決めるんだなと思いながらも、諾。
そして前日にまたメッセージが入っていた。
「仕事が押しそうで、明日15:00でもいいですか!」
特に嫌だと言える訳もなく、諾。ではまた明日!ということになった。
当日。午前中に相手のプロフィールを見直した。
年収高すぎるんだよなー、メッセージやりとりよくわからなかったなー、まあ会わないと何もわからないしなー、、ということで彼のプロフィールをよく見たが、もちろん謎は深まっていくばかりだった。この人と今日会うのか。全然知らない人だけど。
怖いものなしだな私、と我ながら呆れた。
午後は約束の時間よりだいぶ早めに赤坂に着いてしまった。
あまり来ないエリアなので散歩でもして時間を潰すことにした。
ちょうど赤坂ACTシアターでハリーポッターが上演中で、駅の近辺はハリーポッター一色にデコレーションされていた。ハリーポッターに今更そんなに興味があるわけではないが、お祭りみたいで楽しめた。
さーて、時間も多少潰せたことだし、そろそろ顔面を最終チェックしておきましょうかね、と思い立ちトイレに向かった。そしてパウダールームでメイクを直した後、メッセージでも入っているかしらとアプリを開いた。
いない。
午前中には確認できたはずの彼のプロフィールがなくなっていた。
これはつまり、ブロックされたのだ。
彼とは今日会うことは不可能だ。
やられた。
やられましたー!!!
連絡を取る手段が無いので、手も足も出ないし、アプリの運営に通報する手段もない。
怒りは湧いてきたものの、怒ったところでどうしようもない。
意外と冷静な気持ちで、次の瞬間にはじゃあどっかで美味しいもの食べて帰るかーと思った。
しかし、これが噂のばっくれってやつか。
電車代も、気を使って整えた身なりも、スケジュール調整した労力もぜーんぶ無駄。
ずいぶん舐めたことしてくれたものが、まあ私が誰かを傷つける側じゃなくて良かったと思った。
美味しいもの探しをスマホで始めたが、何と言っても現在地は赤坂であることを思い出した。それならば!と国立新美術館によって帰ることにした。ちょうど企画展のタダ券も持っていた。
そんな理由で来館者を獲得するなど、新美もびっくりである。
この日はアプリの男にばっくれられた日ではなく、品よく現代アート鑑賞をした日になった。
めでたしめでたし。
■S君 営業
この彼も名前は忘れてしまった。しかし写真はイケメンだったので顔は覚えている。
というか舐めたことしてくれた貴様の顔は忘れないからな?
出会ったアプリは確かタップルだった。
埼玉在住、27歳、不動産の営業職、178センチ、筋肉質の黒髪センターパート。
このスペックでは女性には困らないタイプだろうから、YOUは何しにこのアプリへ?
どうでもいいが、私の人生はいかなる場合においても埼玉のイケメンと壊滅的に相性が悪い。
だからプロフィールを見た時に、埼玉かーやめようかなーと思った。
いやでも、そんなくだらないジンクスで折角のご縁を葬るなんて!と思い直し彼とマッチすることにした。
誤解がないように申し上げておけば、私は決してイケメンが好きなのではく、イケメンに甘いだけである。
しかし今思えばやはりやめておけばよかった。
「はじめまして!写真綺麗ですね」
S君からメッセージがやってきた。
「メッセージありがとうございます!Sさんも写真かっこいいですね!」
それから割と常識的なメッセージが続いた。ここ最近はアプリで「こんにちわ」とメッセージを送ってくる輩が続いており、正しい日本語で気持ちの良い会話ができることが新鮮にすら感じられた。
ちなみに「こんにちわ」と第一報が来ようものなら、私は即ブロックする程度には心の余裕がなくなっていた。メッセージを続けたところで、やはり何かが破綻していると感じる部分が結局他で出てきてしまうのだ。大変失礼なマネをしていると自覚してはいるが、そうしなければこちらの気力が持たない。ごめんなさい。
そこへきてS君については、どうせこの人はアプリ真剣にやってはいないだろうと当初踏んでいた振れ幅もあり、わー日本語か通じるし、普通の人だぞー!と妙に加点することになってしまった。
「平日夜になっちゃうんですけど、今度飲みに行きませんか?」
二日間くらいメッセージをやり取りしてから、早いタイミングでお誘いがあった。
断る理由は特にないので、行きましょう!ということになった。
しかし都合の良い日を尋ねると、翌々週の火曜日20:00とのことだった。全然先なのによくこのタイミングで誘ったな、、?
しかし行きましょうって言ってしまった手前、日時を了承した。
「僕埼玉住んでいて、場所は赤羽になっちゃうんですけど良いですか?」
ううううううん。そう来たか、赤羽か。…遠くね?
でも埼玉に住んでるからギリ都内には出てきてくれるってことだしな。しかし赤羽20時って割と終電逃すコースが既に見えていて面倒だな。でもどうせこのイケメン君と付き合うとかはないだろうし、遊ぶだけなら遊ぶだけ遊んでくるでもいっかー、もう。
BBA捨て身。失うものもなしと思えば。
日時と場所が確定した後は、ではまた近づいたら連絡しますねということで、一旦メッセージは途絶えた。
そして時は約束の前日になった。月曜朝イチでメッセージが入っていた。
「すみません。明日なんですけど仕事終わりの関係で、場所南浦和でもいいですか?」
うげげえ!南浦和は流石に嫌でござい!でも夜予定空けちゃってるしなあ。
南浦和までの電車での所要時間を調べてみると、赤羽から+15分といったところだった。
会うために二週間待ったのに、この延長15分が無理ですって断るの、、?
すっごくお断りしたい気持ちを抱えつつ、平日にイケメンを拝むためならばと了承した。
「わかりました!お仕事無理なさらず。南浦和承知です!」
「ありがとうございます。よろしくお願いします💦」
最初から今に至るまで一方的に日時と場所を決められたので、この人全然私のこと配慮しないんだなとは感じていた。しかし日本語がまともだったので、心のどこかで常識はある人なのかもしれないと信じていた。
あとは会ってみて、フィーリングが合えばいいんだけどなー、と呑気に構えた。
私はどこまでもイケメンには甘いのだ。
約束の当日は在宅勤務だったので、終業後のんびり準備に取り掛かった。
部屋着を外行きの装いに変更した。念の為下着も着替えてやった。
こいつ平日にばちばちにキメていやがる!と思われない程度のメイクをして、出発。
この日初めて外に出たが、日は既に落ちていた。
何度か乗り換えをして、赤羽を通過した。ここまでくるのは面倒だったが、さらに先に進まねばならなかった。DUE TO イケメン見学。
普段乗らない電車に乗ると、車窓の風景や客層の違いにハッとした。
ここにも人が住んでいるんだなー、当たり前だけど。
手入れのされていない草木やチェーン店しかない駅前、一様に疲れ切って東京から吐き出された、くたびれたシャツのサラリーマン。彼らは翌朝、多少はマシであるが相変わらずの悲壮感を湛えた顔をして東京に吸い込まれていくのだろう。
私、絶対ここら辺は住みたくないわ、と思った。田舎出身のくせに、この中途半端な地方都市特有の「東京の属州感」に関しては何とも受け入れられなかった。
風景を見ながら、だんだんテンションが下がってきた。
南浦和に到着したのは約束の時間10分前だった。S君から特に連絡は入っていなかった。
10分も前に「着きました!」と連絡すると急がせてしまうかもしれないので、約束の時間まであと5分を切ってから、改札前にいますねとメッセージを送った。
何となくだが嫌な予感がしてきた。そういえば今日はS君と一通もやりとりしていないのだ。
急に不安になるくらいなら、昼過ぎくらいに「今日変わらず大丈夫ですか?」とメッセージ入れておくんだった。
入るお店は決まっていなかったので、Googleマップで近くのお店を検索した。やはりチェーン店しかなかった。一番心惹かれたのはミスドだった。
こんな時間に、こんな場所で、大したお店にも入れそうにないなんて、悪いけど今日はこのイケメン君に奢ってもらわねば割に合わないな、と思った。
約束の時間になっても彼から連絡はなかった。
この時点で私は、これ今日バックレられたな?と思った。
しかし最後の望みをかけてあと15分は待つことにした。
改札から出てくる地元民達を、舐めるように見つめた。若い男の子はほとんどいなかった。
S君が写真と同じイケイケサラリーマンだったとしたら、歩いていたら相当目立つはずだ。
しかし目に映る男性にはクタクタのおじさんしかいなかった。
巷の噂によると、アプリではあえて待ち合わせに遅れていくのが賢いやり方なのだそうだ。
待ち合わせに現れた人物をもの陰から見ており、写真とあまりにも違うブスが来たら会うのをやめるらしい。
実はこの日、そんなパターンもありそうだなと、改札前についた瞬間から周囲の物陰をチェックしていた。隠れる場所も少ないし、その場に長く止まっている男性や、周りを伺っている男性はいなそうだと確認済みだった。もちろん先方が私より早く到着しており、私を瞬時に発見、即退散していたのなら話は別だが。
15分経ったが、誰も現れず、連絡も来なかった。
はい、ばっくれられました!
何となく心の準備ができていたためか、そこまでショックは受けなかった。
ただ、気を使わせちゃうからあと5分待ってからメッセージ送ろう♪などと気遣っていた先ほどまでのおめでたい自分がバカみたいだった。
そしてばっくれ被害1回目の時のように素敵なバックアッププランなど、ここ南浦和で用意できるはずがないのが癪だった。
二人で食べるはずだったので夕食はまだだ。お腹は空いている。でも行きたいお店などない。
さっき見つけたのは…ミスドか。ミスドでやけ食いしてやるか。
私は駅のロータリー付近のミスドに、さも仕事帰りの地元民ですよ?みたいな顔をして入店した。
私は普段小麦粉と乳製品を食べない。ちょいと意識高めの食生活をしているが、この日の無念さはコテコテのジャンクフードでなければ埋められなかった。
大好きだったポンデ黒糖と、噛んでも噛んでも砂糖を感じられそうな暴力的逸品(名称不明)をチョイスして、アイスコーヒーと共に喰らった。体感3秒だった。
こんなものを食べたらますますブスになってしまうが、知ったことではなかった。翌日から登場するであろうストイックな自分に後処理を任せることにした。
イケメン生で見たかったなーと思いながら、アプリを立ち上げた。
S君は間抜けなことにまだ私をブロックしていなかったようで、プロフィールがそのまま表示されていた。
え?ただのバカなの?と心配にすらなった。もしくはこれは捨てアカか何かなのか?
彼の真意はどうであれ、プロフィールが残っているのならば仕方がない。
きっちりやらせていただきますね。通報。
私はタップルのガイドラインに基づき、S君を問題がある人物としてアプリの運営に申し入れた。
「○月○日、当該人物とマッチングして、メッセージを開始した。○月○日、当該人物提案の場所と日時で、会う約束を取り付けた。この待ち合わせは下名の事情を汲んだものではなく、当該人物の都合で決定された。○月○日、当該人物から待ち合わせ場所変更の提案があり、了承した。○月○日、当該人物は事前の連絡なしに待ち合わせに現れなかった。待ち合わせ場所にて15分待機するも、連絡がなかった。その後も現在に至るまで一切連絡がないものである。」
出来るだけ冷静に事実を書いたつもりであったが、そりゃこんなこと淡々と書いてくる激怖女は誰だって尻尾を巻いて逃げ出すわな、と思った。
「こいつに100合わせてアポに行ったらばっくれられてクソ腹立つ。何とかしろ。」と書いた方がまだ人間味溢れる魅力的な人間でいられたかもしれない。
ミスドでアプリへの通報を完了させて、家路についた。車窓からの景色がどんどん東京に戻っていった。
なんて心が潤っていくのだろう。私はこの先に帰るのだ。
今日はちょっとした学びがあった日になったなー、と振り返った。
1、アプリのイケメンはやはり関わらない方がよい。
2、私は埼玉でも容赦ない田舎判定をする腐れ東京かぶれである。
東京に何年か住んでも全くおのぼりさん気分が抜けない私は、こうして田舎コンプレックスを順調に積み上げていくーーーー
さて、今のところ計二人にバックレられた私であるが、バックレ男の共通点に気付いた。
サンプル数が2なので、全く根拠が薄いが私なりに「こんな男に気をつけろ!」と警鐘を鳴らしたい。
一方的に待ち合わせの詳細を指定してくる男はやめろ!!!!
これに尽きる。
こちらの事情など一切尋ねてくることもなく、何日何時にどこどこ、と設定してくる男はやめておこう。もはや「どこ住みー?笑」とか訊いてくる股のゆるそうな男の方が、場所の確認をしてくれるだけマシまである。
一方的に提案してくる男には、どんなに破綻のない日本語を使っていても、気を許してはいけない。
というか、ん?と違和感を感じる相手に突き進むのはやめましょうね、といういたくシンプルなお話。