ヨーロッパ地域ごとの各音律の需要について(音律史について自分で調べたことのまとめ-2)

はじめに

 以下はyoutubeのコミュニティに投稿した複数の文章をほとんどそのままコピペしたものです。私は研究者ではありませんし、音楽もしていません。情報元はほとんどネット上の論文です。ただ、できるだけ18世紀、19世紀当時の直接的な記述(ほとんど日本語か、英語に翻訳されたものだが)を参考にするようにしていますので、原典を確認することはできると思います。
 言いたいことは、情報元を確認してほしい、ということです。そして、芸術的解釈と、厳密な音楽史の研究は区別して、どこからどこまでが確実に言えて、どこからは推測なのかをはっきりする必要があります。私はもう音律関係のことを漁るのには満足しましたし、何かこの記事にコメントがあったとしても返すかどうかはわかりませんが、もし何か音律史についてこの記事のようなてきとうなものではなく、きちんとした主張をしたいのならば、ドイツ語の書籍をあさったり、当時の書籍や書簡をあさったりする必要があるかと思います。私はこうしたことをしませんでしたが、研究したい場合、できることです、ぜひそうしてください。

まとめ

以下の論文が大変有用ですので紹介します。

A Clear and Practical Introduction to Temperament History
https://www.researchgate.net/publication/329591485_A_Clear_and_Practical_Introduction_to_Temperament_History

全然、読めていませんが要約。オルガンについても議論されていますが、主にピアノ、ハープシコードについてここでは要約。
・ドイツの1700年前後に発表されたミーントーン、well temperamentは平均律に近いものが多く(ヴェルクマイスターが1698年に発表した大変緩いミーントーン、その他ナイトハルト、Marpurg、Sorgeなど)、平均律自体もこの時代に受け入れる音楽家が増えて行った(Neidhardt in 1706, Mattheson in 1722, Sorge in 1744, and Marpurg in 1756)。最終的には、1789年にGottlieb Türkが技術書に平均律が最も普及している音律と記載(29ページ、34ページ)。

・キルンベルガー2音律がすべての音楽家に手放しに受け入れられたとは到底言えず、むしろ冷ややかな反応が多かったようだが、知名度はあり、情報はヨーロッパ中に広まった(30ページ)。例えばイギリスのCharles Stanhopeは1806年、キルンベルガー2の1/2SC分割五度が耐えられないと主張し、代わりにSCを3分割する音律を提唱している(40ページ)。

・18世紀ドイツの音律について、ミーントーンはオルガンで残った。緩いミーントーン、well-temperament、平均律は大体大枠のチューニングプロセスは同じで、密接に関連していたかもしれない(31ページ)。

・Thomas McGearyによる論文で、1770-
1840のドイツーオーストリアの調律指南を22個調べたものがあるが、結果は平均律が一番多く、次に多いのがキルンベルガー2だった。その他は2つしかなく、1つは白鍵側の五度を純正、黒鍵側を狭くとる音律(つまり一般的なヴァロッティ音律などと逆)で、もう一つは複雑で、他に類を見ない特異なものだった( 35ページ)。

・フランスでは18世紀初めは1/4SCミーントーンの改良音律が一般的だった。ラモーが1737年に全ての五度を少し狭めるという実践法とともに平均律の実用を訴えるが、実践はすぐには広まらなかったようだ。18世紀終わりに近づくにつれ調律指南記載が平均律に近いものになっていき、19世紀初め当たりに従来の方法から平均律への移行があった(34、36ページ)。

・イタリアでは18世紀はミーントーンが主流で、19世紀終わりまで不等律が生き残った(22、36ページ)、そして20世紀初めにも不等律が使用された痕跡がある。18世紀終わりに向かって1/6ミーントーン、1/6分割well temperamentなどの広い長三度を使用しない不等律が徐々に考案された。平均律はドイツの新しい方法として懐疑があり、19世紀半ばあたりから広がった。

・(イギリスについては論文38ページから)イギリスでは18世紀半ばに、イタリアでは100年前に無くなった分割鍵盤が現れるなどガラパゴス的な傾向があり、19世紀初めにもwell-temperamentや緩いミーントーンの使用があった。equal temperamentと言いながら、現実はこうした不等律をさしていたこともあったらしい。1806年、Charles Stanhopeが16~18名の音楽家に意見を聞いた結果、平均律を支持したのは半数だった。1880年代にもFrench Ordinaire式の改良ミーントーンが見られ、1875年あたりまでオルガンもミーントーン調律を受けた。この時期にも、平均律に対する懐疑的な意見が複数出ている。

・Rudolf RaschがDoes ‘Well-Tempered’ mean ‘Equal-Tempered’? というタイトルの論文を発表した。バッハのwell
temperedが何を意味するのか、当時の用例を調べ確かめる内容だが、結果平均律を意味していた可能性が高い、という結論になった(51ページ)。

・Johann Matthesonなど、18世紀当時でも平均律を推しているにも関わらず調性格を論じている場合があって、音律と調性を結び付ける議論には注意が必要である(52、53ページあたり)。Matthesonはまた、この調性格はピッチによるものと明言しており、当時あった2つのメジャーな standard pitchの内、1つについて述べたものであると明言している。

・ベートーベン、モーツァルトなどのドイツ、オーストリアの音楽家がどの音律を使用していたのか、直接的に証明する証拠は存在しない。しかし様々な文献がこの時代のドイツ、オーストリアで平均律が主流であったことを示している(52、53ページあたり)。

・現代での演奏で音律をどうするかについて。1700年より前の音楽については簡単で、ミーントーンで問題ない。それより後は国によっても状況が違い面倒だが、ヴァロッティ音律はイタリア、ドイツ、フランスの音律全ての特徴をある程度持ち合わせており、現実的な解決策となる。その他、例えば18世紀前半のフランス音楽のみならば1/4改良ミーントーン(ラモー音律など)もありだが、普通様々な国の曲を演奏するのが普通で、中々これはむずかしい(50ページ)。

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