第一部ドビュッシー 生誕160年に寄せて

8/22の田園調布 せせらぎ館のコンサート
そちらの曲目の和訳ページになっております!

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星の夜  

詩 テオドール・ド・バンヴィル

※星の夜よ
そのヴェールの下
そよ風と香りの下で
ため息をつく悲しい竪琴よ、
私は過ぎ去った恋を夢見ている

澄みきった憂愁が
私の心で花開いた
聞こえるんだ、私の思い人が
夢の森で身震いしているのを

※リフレイン

2人の泉で思い出す
君のまなざしは空のように青かったことを
そしてこのバラは君の吐息で
この星は君の瞳だ

※リフレイン

麦の花

詩 アンドレ・ジロ

そよ風になびきつつ、しなやかに伸びる麦の群れ
色っぽい乱れ髪のようだ、
僕は君に花束を作ってきたんだ。

君の胸に早く着けて
君のことを考えながら、君のために作ったんだ
君の指も、きっと
その意味を知っているんだろう

麦の穂は、
太陽に照らされて、金色に輝く
君のブロンドの髪なんだ。
この鮮やかなケシの花は、
真っ赤な君の口だ。そしてこの矢車草は、
不思議なことにちっとも色褪せない青色で、
君の瞳にそっくりだ。
その蒼さはまるで、
空から2つの光が降りてきたようだった。

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題名:麦畑の農家(1888)
作者:フィンセント・ファン・ゴッホ
所蔵:ゴッホ美術館(アムステルダム、オランダ)

ピエロ

詩 テオドール・バンヴィル

気のいいピエロ、
アルルカンの結婚式が終った後
お寺の小路を夢見心地でふらつく
はだけたブラウスを着た娘が、
彼を誘ったところで無駄なこと

そうこうしているうちに、ひそやかに
彼をお気に召した
牛の角のような白い月が
切れ長の流し目を送る
新しい恋人となった、ジャン・ガスパール・ド・ビュローに

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題名:ピエロとアルルカン(1898)
作者:ポール・セザンヌ
所蔵:プーシキン美術館
右がアルルカン、左がピエロ。
彼らはイタリアの伝統的な仮面劇、コメディアンデッラルテに登場する人物たち。
アルルカンにはコロンビーヌという恋人がいる。
ジャン・ギャスパール・ドビュローは18世紀の黙劇の中の登場人物。


忘れられたロマンス

詩 ポール・ヴェルレーヌ

それは恍惚

それは恍惚
それは愛の疲れ
それはそよ風に抱かれた
森の震え
それは灰色の木々がさざめく
小さな声の群れ

おお、ひそやかでみずみずしい歌声よ!
さえずり、ささやいている
まるで草の葉がそっと漏らすような
小さな泣き声のようだ
君はこういうのだろう
せせらぎの下で小石がうごめいているようだと

嘆くこの魂
眠りつつ悲しみにくれているこの魂は
私たち2人のものではなかろうか?
私と君がもつ魂が
慎ましやかな祈りの歌を呟いているのだろう
この穏やかで暖かな夕暮れに

雨が降る

私の心は涙に濡れる
街に雨が降るように
このやるせなさはなんなのだろう
胸をじんわり痛ませている

あぁ、路地と屋根に落ちる
優しい雨の音よ
嘆き悲しむ心のために、
雨の音よ!

訳もなく涙に暮れるのだ
行き場のない私の心は。
なんだって、裏切りさえ見当たらないのに
理由のない、この物憂さよ

この激しい痛みを背負いながら
その所以を知ることはできない
愛も憎しみもなく
私の心は苦痛に満ちている

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題名:モンマルトル大通り春の雨(1897)
作者:カミーユ・ピサロ

木馬

回れよ回れ、お馬たち!
100回でも1000回でも回れ!
よくよく回れ、ずっと回れ!
オーボエの音に合わせて回れ!

ぼくは真っ赤な服、
母ちゃんは白いエプロン、
兄ちゃんは黒い服、
かわいいあの子はピンクのワンピース
しがみつく子もいたり、
ポーズを取って気取る子もいる
みんなお小遣いを手に
この日曜日に乗りに来るのさ!

回って回って!
ぼくらのおんま!
みんなが夢中になってる間、
狡いスリどもが目を光らせているぞ
回れ!甲高いトランペットの音に合わせて!

こりゃ驚いた、みんなうっとりだ
バカげたサーカスを歩いて回って
お腹はからっぽ、頭はくらくら
人込みにゃ悪い輩もいるが、いいヤツもいる

回れ!木馬よ、走る術がなくても
拍車がなくとも
堂々巡りの言いつけを守るんだ
たとえエサがもらえなくとも

急げ、みんなのかわいいお馬よ
もう晩飯の時間になっちゃった
夜になれば団体客のお出ましだ
みんな喉ががらがらの呑んだくれ達だ

回れ、回るんだ!ビロードの空が
金の星屑をゆっくりと飾り付けるよ。
教会の鐘が悲しそうに鳴り響くんだ。
回れ!陽気な太鼓にあわせて!

葛飾北斎の浮世絵
『富岳三十六景』内「神奈川県沖浪裏」を採用した、ドビュッシーの交響詩『海』の初版楽譜の表紙

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ステファヌ・マラルメの3つの詩

ため息

私の魂は夢みるお前の額の上へ
おお、静かな妹よ、
そばかすを散らしたような落ち葉の秋に、
そして君の天使のような瞳から空へと
昇っていく、物憂げな森の中のように
純真な人よ、白い泉が青空へと吹き上がる

空へと、蒼く澄んだ10月の穏やかさは
大きな湖面に限りない憂いを映す、 
そして漂わせる、死んだような水面に褐色の苦悩、
風に吹かれた落ち葉と冷たい波紋とを
黄色い太陽が長い轍を引きずりゆく

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題材:アルジョントゥイユの秋の効果(1873)
作者:クロード・モネ
所蔵:Courtauld Institute of Art(ロンドン、イギリス)

虚しい願い

姫君よ!
私は嫉妬しているのです、
あなたの唇が触れるカップに描かれた女神の姿に、
嫉妬に駆られたところで、私は慎ましき聖職者
私の裸体をこの陶器に映すことはないでしょう
私はあなたのペットでもなければ、お菓子でもなく、
口紅でもなく、可愛らしい玩具でもございません
あなたの閉じられた眼差しが降り注いでいるのを感じているだけなのです。
天賦の才を持つ美容師が繕ったあなたのブロンドはまるで金細工のようです。

私たちに命じてください
キイチゴのような笑い声をなさるあなたは
牛舎で手懐けられた羊の群れと一緒に、
やりたい放題なさっていますね。

私たちに命じてください。
扇のような翼を持つ愛の神が、
笛を手に羊小屋を眠りにつかせる私の姿を
描いてくださるだろう

姫君よ、私たちに
微笑みの羊飼いという役職をお与えください。

夢みる人よ、
道なきところから純粋な喜びに僕が飛び込むために
巧みな偽りで
僕の翼を君の手に持っていてほしい
黄昏時の爽やかなひと風が
あおぐ毎に君に届き
この囚われた扇の羽ばたく音が広がる
地平線へと、ささやかに

目眩がした
ほら偉大な接吻の領域が震えているぞ
それは誰かの為に生まれた狂気だが
興奮する事も、鎮静する事も出来ないのだ

君は分かるかい? この残酷な楽園を
まるで秘められた微笑みのようだ
口角から流れ出し
襞の一筋一筋に伝ってく

ばら色に染まる岸辺で王笏は
黄金の夕日にたそがれる
そう、それこそが君の置いた白い翼
ブレスレットの炎の傍らに

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作者:ステファヌ・マラルメ
所蔵:マラルメ美術館
マラルメが自作の詩を書き込んだ扇を自分の娘に贈った。その詩がまさにこの「扇」である。

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