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『未解決事件は終わらせないといけないから』あとがたり前編:記憶整理と追体験の試み

 2024年1月。リリース前から期待していたSomi氏の新作『未解決事件は終わらせないといけないから』をプレーしました。
 久しぶりに目にした清崎蒼という #名前 がきっかけで注目し、実際に触ってみると短編でありながらもその期待を遥かに超える満足感に包まれた今作について、色々と思いを巡らせるうちに書き残したいことが色々出てきたので、あとがたりとして残します。
 そして今回は、その必要があるので前編・後編に分けることにしました。


⚠️ 注意 ⚠️
この記事には『未解決事件は終わらせないといけないから』のネタバレが含まれます。2~3時間の短めなプレー時間が想定されている作品なので、まだプレーしていない方は是非ともプレーすることをオススメします。



前編:記憶整理と追体験の試み

● 『清崎蒼』という名前を見て思い出すのは……

 『清崎蒼』という #名前 を見て思い出すのは、やはり『Legal Dungeon』でしょう。あの作品で清崎蒼として下した決断と、そこに至るまでの数々の葛藤は、印象深い経験として胸に刻み込まれています。この『未解決事件は終わらせないといけないから』に触れる中で、同じ作者で登場人物のつながりがあり、グラフィックやサウンドの雰囲気も近しい『Legal Dungeon』を、知っていながら思い出すなと言う方が難しいでしょう。
 この作品に触れる中で、個人的に『Legal Dungeon』を深く感じたのは、「情報を #繋ぐ 」という行為でした。そして『Legal Dungeon』の記憶があるからこそ、この「情報を繋ぐ」という行為に対して他の作品とは違う「重み」を感じていました。
 『Legal Dungeon』では、警察の事務方として、供述調書や捜査状況などの今回の事件にまつわる書類と、法令や判例を照らし合わせ、それらの「情報を繋ぐ」ことで、被疑者を不起訴相当とするか、あるいはどの罪で起訴相当とするかの意見書を作成し、次の手続きに送るという作品でした。自分の役回りは、裁判官でも検察でもないため、被疑者の有罪無罪を直接的に決定する権限はないのですが、情報の解釈によって起訴相当にも不起訴相当にも意見書が書けてしまうところから、「どう情報を繋ぐか」という被疑者の運命を左右する可能性の高い決断を常に迫られる立場でもありました。この「情報を繋ぐ」という行為が「重いものである」ということは、作品に仕組まれた誘導によって、より印象深いものになるようになっていました。
 この『Legal Dungeon』の影がちらつくこの作品で、その選択の重みを感じながらも情報を繋いで話を広げていくうちに、「情報を繋ぐ」という行為に少し違いがあることに気がつきました。それは「情報を繋ぐ向き」。『Legal Dungeon』では繋ぎたい先が分かっていて、そこに繋ぐ情報を探していく形でした。一方この作品では繋ぐ根本の情報(タグ)から繋がる先の候補が提示されて、それを選択する形になっています。つまり、向きが逆なのです。「ある話題にするための情報を選ぶもの」と、「ある情報から出てくる話題を選ぶもの」という鏡写しのような関係になっています。
 ただ、全てが逆というわけでもありません。赤い鍵を解錠する方法はまさに『Legal Dungeon』と同じ形式で、黄色い鍵を生成するための正しい位置に繋ぐ行為は「正しい物語」を目的地とした繋ぎ方と見ることができます。すなわち、この作品では両方の向きがあるのです。この2つの向きの繋ぎ方について、終盤まではどちらも相応に重い選択になっている可能性があるとして進めていました。結末を見届けた後に振り返ってみると、実際のところはそうでもなく、特にある情報から出てくる話題を選ぶという方向については、この作品ではそこまで重いものではないということがわかりました。この方向の情報を繋ぐ行為は、あくまで探索先を広げるための、言わば後戻り可能な通路の #分岐選択 のようなもので、むしろこのくらいの重さのもので「情報が繋がる」という感覚を意識させ、タグのつながり方とは異なる、絡み合った本来の情報の繋がりはどうだったのかというところに意識が #誘導 されているようにも感じました。


● 初めて『未解決事件は終わらせないといけないから』の予告PVを見た時に……

 初めて『未解決事件は終わらせないといけないから』の予告PVを見た時に、ふと頭をよぎったのは『WILL:素晴らしき世界』でした。話の断片を入れ替えて、#物語を作り出す という形式に思い当たる節がありました。もちろん推理ものとして、話の断片からそれらを組み替えて背景にある事実を考えていくという形式になるのは当然の形なのですが、この作品にはそれ以上に感じるものがありました。
 『WILL:素晴らしき世界』では、人々の願いが込められた手紙を受け取る神様として、その手紙の断片を組み替えることによって、差出人にとっての「 #理想 の物語」を作り出し、その作り出した物語を現実にすることで願いを叶えていきます。時に複数人の手紙を同時に組み替え、誰にどの出来事が起こるかすら操作しつつも、思わぬ運命の交差に頭を悩ませることになる、そのような体験を、様々に用意されたありうる現実をもって味わい深いものにしてくれる作品でした。
 その後実際に『未解決事件は終わらせないといけないから』に触れ、その時の自分の直感はある意味で当たっていて、ある意味で違っていたことが分かりました。話の断片を人物を跨いで組み替えて物語を作り出すという行為自体には近しい感触があるものの、その行為から湧き上がる感情は異なるものでした。『WILL:素晴らしき世界』では、みんなの願いを叶えるためにできる限りの「理想の物語」を作っていましたが、この作品では、言われるがままにそこに現れる「現実の物語」を作っていくことになります。そしてこの手で作り上げられる物語の全容が見えてくる段階で、「このまま全てを解明することが、果たして良いことなのだろうか」という逡巡がこの作品では湧き上がってきました。「全てを組み上げたときに現れてしまうこの現実の物語は、作り上げられることが誰にも望まれていないかもしれない」という #疑念 は、一度無邪気に物語を組み替える手を止める力としては十分で、この思いと向き合いそれでも「何のためにこの物語を完成させるか」という覚悟を決めて再度物語を作り上げていく、という感情の動かされ方を誘発するシナリオの見せ方はとてもドラマティックなものでした。


● 断片的に開示されるストーリーの前後関係が一体どうなっているのか……

 断片的に開示されるストーリーの前後関係が一体どうなっているのか、時に予想と異なる繋がり方をしたり、時に意外な時期であることが判明したりするという経験には覚えがありました。10人を超えるそれぞれの主人公から語られる断片的な物語が、幾つもの時代を跨ぎ話が複雑に絡み合っていくSF青春群像劇、『十三機兵防衛圏』です。
 物語の聞き手に伝えられる情報の順序が、本来の #時系列 とは限らない上で、全体に絡まる謎を様々な人物の視点から紐解いていくという部分に、体験としての共通項をかなり感じました。どういった順序で情報を知っていくかについても、個性が出せる程度には広い #分岐選択 がありながら、ロックが適切にかけられることによって大まかな流れが #コントロール されているという構造も近しいものがあります。
 思い返せば、『未解決事件は終わらせないといけないから』の物語を見届けた後に感じた「他の人の選択順序が気になる」という思いは、この構造によって引き起こされたのかもしれません。どんな側面から知っていくかによって見え方が様変わりするこの構造は、特に風呂敷が広げられてゆく序中盤での推理に大きな違いを生むため、自分が #作った物語 のようでその違いを楽しみたくなるのだと思います。事実『十三機兵防衛圏』では、奈津乃編を主軸に進めながらも後回しにしていた三浦編にようやく手を出した時の衝撃は、その間にあるものも含めた順序選択だったからこそのものだったので、自分の記憶に深く残っています。


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後編へ繋ぐためには鍵を外す必要がある。

#時系列 #誘導 #疑念


参考資料

・未解決事件は終わらせないといけないから

・Legal Dungeon

・WILL:素晴らしき世界

・十三機兵防衛圏


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