よくあるランプの精の話
人里から遠く離れた無人島で、男はランプの精に会いました。
そもそも、どうして男は無人島なんかにいるのでしょうか。
それは、一口に言えば、自分探しのためでした。男は日本での借金まみれのフリーター生活に嫌気がさしていたので、自分探しの旅に出れば何か変わるかもしれないと思ったのです。
しかし、こんな無人島に来ても男は何一つ見つけられませんでした。だから、男は大いにがっかりしていたのです。
そういうわけで、男はランプの精と出会ったとき、男は大いに驚き、喜んだのです。
「お、お前は三つまでなんでも願いを叶えてくれるという、あのランプの精か。」
「いかにも私はランプの精です。ただし、私ができるのは『なんでも願いを叶える』ことではなく、『何かを十倍にする』ことです。」
「え、『何かを十倍にする』?」
「はい、その通りです。私はあなたが願いを言った時、あなたの言葉とその時あなたが『何を十倍にしてほしいと思っているか』ということを考慮して、十倍にします。例えば、」
ランプの精はそう言って、一枚のお札を取り出しました。
「あなたがこれを指して『これを十倍にしてくれ』と言ったとします。そのとき、あなたが『この紙を正確に十倍にしてほしい』と考えながら願いを言ったのなら、私は通し番号も汚れ具合も全く同じお札を九枚増やしますが、」
ランプの精はお札をコピーして十枚にしました。
「『同じ種類で同じ額のお札があと九枚ほしい』と考えていたのなら、私は通し番号も汚れ具合も程ほどに違う同じ種類で同じ額のお札を九枚増やしますし、」
今度は同じ額だけど汚れ具合等の違うお札を十枚にしました。
「ただあなたが漠然と『お金がほしい』と思いながら願いを言ったのなら、私はあなたが今現在持っている換金されている財産を十倍にします。」
「・・・人類の幸せを十倍にするなんてことはできないのか?」
「あなたの幸せを十倍にすることならできますが、私ができるのはそこまでです。全人類やあなたの親戚の何かを十倍にできるのは、私の師匠の『なんでも願いを叶える』ランプの精ぐらいのもんです。」
「そうか。それは残念だ。日頃偽善者で通している俺らしいことができないな。」
男は、裏表のある自分も嫌いになっていたのです。
「・・・しかし、俺の幸せを十倍にできるとか言ったな。『幸せ』なんて曖昧なものを十倍に、できるのか?」
「はい、この―」
ランプの精は双眼鏡に取っ手の付いた様な眼鏡のようなものを取り出しました。
「この道具であなたの幸せを計って、私の力でその数値を十倍にします。ちなみに言っておきますが、この道具で出てくる数値は私たちランプの精の間で流通している数値なので、あなたが覗いてもわけがわからないだけですよ。」
「・・・そうか。なら話が早い。俺の賢さを十倍にしてくれ。」
男は前々から、この手の天使や悪魔、ランプの精に会った時はまず賢くしてもらってから残りの願いを決めることにしていたのです。
「・・・わかりました。それではしばらくお待ちください。」
ランプの精はそう言った後「眼鏡」で男を覗き、そして笑いながら奇妙な踊りを踊りました。そうして確かに男の賢さは十倍になったのです。
「・・・はい、終わりました。それで、残りの願いは何ですか?」
「ええっと、金だ金。それと女!」
「今言ったのは二つ目の願いと最後の願いですね?」
「ああそうだ!俺は早く欲しいんだ。早くしてくれ!」
「わかりました。」
そう言った後、ランプの精はまた「眼鏡」を取り出して、笑いながら奇妙な踊りを踊りました。
しかし何も起こらなかったみたいです。
「それでは契約が終了したのでさようなら。」
ランプの精はランプの中にさっと消え、しばらくするとランプも消えてしまいました。
「・・・おい、何も起こんねえじゃねえか!騙したな!待て!」
しかしランプは跡形もありません。
そのころランプの精は笑っていました。
「やっぱり地球人は馬鹿だ。頭の良さがマイナスなだけある。ゼロに十をかけてもゼロ、マイナスにいたっては小さくなるだけなのに・・・」
一ヵ月後、男のもとにはヤクザがやって来て、男からお金や臓器を絞れるだけ絞り取ったそうです。
2006/04/19
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