終わったら始まるかもしれない(ドラマ『シッコウ!!〜犬と私と執行官〜』感想)
毎話見ていてグッとくるものがあります。
火曜日夜9時テレ朝です。
ペット業界で職探し中の吉野ひかり(伊藤沙莉そん)が、裁判所の執行官、小原樹(織田裕二さん)がとある「執行」を通じて出会い、犬担当の執行補助者として振り回されながらさまざまな人生のリスタートに立ち会うドラマです。
そもそも、「執行官」とは?というところからでした。
執行官とは、裁判所の判決が実施されない場合に強制的に判決を執行する仕事をしている人々です。
「差押」という言葉がとても強いです。
事情があって家から立ち退けない、借金が返せないなど弱い立場の人に対して、血も涙もない行為をするという印象も受けました。ドラマ内のひかりと同じで、好んでやりたいと思える仕事では無いなと正直感じました。
…最初は!!
以前も書きましたが、お仕事ドラマのすごいところは、一見避けられがちな仕事にもきちんとスポットを当てて、悪くないじゃん、と思わせてくれる所です。
「執行官」は裁判所の判決がきちんと実行されるための最後の砦、事件を「終わらせる」仕事です。
執行官の方々が、執行をしてくれるからこそ、裁判というものが意味を持ち、そしてそれは司法を司法たらしめるものとなります。
なくてはならない仕事です。
そしてこの物語は、執行官の「事件を終わらせる」という側面に注目しています。
借金も返せず、家を差し押さえられても行くところがない、でも子どももいて…などなど、このドラマで執行を受ける側は、単にズルをしたいからというだけではない複雑な事情を抱えてる人たちが多いです。
確かに、ただでさえ複雑な事情があるのに、執行でわずかに残っていたものまで無くなったら、もう何もかも終わりだと感じるでしょう。
ただ、織田裕二さん演じる執行官の小原は、「終わらせたら、始めることができるかもしれない」(※セリフのままではないです!すみません!)と言います。
そうなんです。何もかも終わったからこそまた始められるんです。
物事をちゃんと終わらせることって、実はとても大事なのかもしれないと思いました。
区切りをつけることすらも出来なくなっている人々に、きちんと終わりをつくるのが執行官の役割でもあるのかもしれません。
もちろん逃げ続けるという選択を取る人もいるし、執行官をからかったり騙したりしてなんとか執行を逃れようとする人もいます。罵声を浴びせられることも多いはずです。
簡単ではない仕事だけれども、無駄な仕事では絶対にありません。
また、私がこのドラマでとてもいいなと思うのが、仕事以上のことはしない姿勢を感じるところです。
自分の仕事範囲を超えて、事件に深く介入し、解決をしていく人物にスポットを当てているドラマもありますが(これが良くないという訳では無いです)、小原やひかり、その他執行を行うメンバーは自分の仕事範囲を着実に遂行するのです。
情によって、見逃してあげたり、猶予をあたえることは決してしません。ポケットマネーで助けてあげるなんてこともしません。
情が無いのではなく、逆に言うと情があるからこそ着実に執行をするのです。
どうしようもない状況に置かれている人たちを前にして、粛々と執行をするのは、たしかに血も涙もないように見えるかもしれません。
でも、よくよく考えたら、どう頑張っても所詮は他人が、人様の複雑な事情をスッキリ解決させることなんて不可能なのです。
仕事を遂行するため以上に、事情を背負う必要は無いし、背負わないからこそ終わらせることができるのです。
そしてその終わりが、次へ進むキッカケになることもあります。
事件を終わらせた後、どうするかは、執行された人の人生です。
困っている人やままならない人を見て、なんとかしてあげなきゃ、と思いがちな私は少し気楽になりました。
自分の仕事に責任を持つことが、何よりの誠実で、なによりも最適解なのかもしれません。
使い古された「終わりは始まり」という言葉を、確かな実感をもって使えたことに、嬉しさを覚えた次第です。
拙文、読んでくださりありがとうございました。
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