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「カーター・スチュワートの再来」は本当にあるのか

今年のMLBドラフト

今年のMLBドラフトは
現地時間(東部)で6/10の午後7時から2日かけて行われる。
日本では指名が5巡までに短縮されたことに注目が集まっているが、
MLBのほうではドラフトでどのような演出が行われるか、
MLB公式にも名前が載って少し話題になった
大塚虎之介選手の指名はあるのか。
このあたりも注目ポイントである。
もっともドラフトの演出について言うと、
MLBは他のスポーツに比べて指名数が多すぎるのもあってか
もともと演出に関してはかなり弱いので
NFLほどの盛り上がりにはまずならないと思う。
リンク先のようにここ2年全指名動画を公式であげているのが
唯一の強みだろうか。

さてMLBドラフトの概要が発表された際、
日本では
「カーター・スチュワートのように
NPBと契約する若い外国人選手が増えるのでは」と
期待する人がやけに多かった。
というか今も期待している人は非常に多いように思う。

2018年の1~5巡指名

忘れてはいけないのは、
スチュワートは1巡全体8位指名を蹴り
その1年後にホークスと契約したことである。

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1~5巡の164人中、
MLBと契約しなかったのは
スチュワートを含めて4人。
全て1巡指名の高校生で、
スチュワート以外の3人は現在も大学でプレーしている。
3人とも去年あるいは
今年の数少ない試合の中で早々に活躍しているようなので、
今年のドラフトにかかることもありうる。
まあ現在のMLBの状況で
本人が2年の時点で契約したいかどうかは見てないが。

あと大学生にも
事実上MLBと契約しなかった選手が一人いる。
スチュワートの直後、全体9位で指名された
オクラホマ大の外野手カイラー・マレーだ。
アメフトのQBとしても高く評価されていたマレーは
いったんアメフトのために大学に残留し、
NFL入りの可能性もあることを条件に契約。
結局ハイズマン賞を受賞する活躍を見せ、
翌年のドラフト全体1位指名でNFL入りした。

MLBと契約できない選手

次は今回指名がなくなる6巡以降を見よう。

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2018年の6巡以降は大学生が非常に多い。
6~10巡は実に85%が大学生。
30巡までいっても大学生が大半で、
高校生は極端に少ない。
31~40巡では高校生も多くなるが、
その高校生のうち契約したのは127人中たったの16人。
大学でも野球をやって
改めてMLBに指名される選手もいれば
パトリック・マホームズ(2014年37巡全体1120位・拒否)などのように
他のスポーツで活躍し
そちらのプロになる(2017年NFL1巡全体10位)選手もいる。
マイナーリーグの待遇なども踏まえれば
高卒下位指名でのMLB入りは得策と考えない選手は多いと思われるし、
MLB側もそのことを織り込み済みで指名したのだろう。

指名漏れする選手と日本の「ファン」の需要

2018年のドラフトでと契約し
正式にMLB入りした選手の数はこうなる。

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これらでわかるように
ドラフト指名されMLB球団と契約するのは
ほとんどが大学生
で、
今回のMLBドラフトで指名されない可能性が高いのも
「6巡以降に指名される大学生」になる。
2、3年生ならまだ大学残留や別な大学への移籍の道があるから、
完全に指名漏れするなら4年生だ。
ところが
「スチュワートの再来」を望むのであれば、
これらの選手は全く逆になる。
1年間短大でプレーしてるとはいえ
日本で紹介されるスチュワートの肩書は
「1巡指名の高校生」

「22歳を超えた下位指名の大卒」ではない
日本人選手について
高校生の指名と高卒2、3年目での抜擢をやたらと要求してくる人たちが、
育成目的の外国人選手は大卒でも構わないと
考えるとはとても思えないのだ。

NPB側から見ても獲得は簡単にいかないはずだ。
スチュワートの今年の年俸は1億2800万円。
公式戦は無観客なうえに
まだいつ中断してもおかしくない。
この状況下では、
育成目的の選手に対して
スチュワート並とまではいかなくとも
MLB最低額の55万5000ドルを払うのは難しいだろう。
しかも来日した選手はしばらく待機しなくてはいけない。
チームにとっても選手にとっても
リターンは非常に少ないのにリスクだけ高すぎである。

ドラフト指名の代価

普段だと
こういうドラフトの話ははてなブログに書くんだが
あえてnoteのほうに書かせてもらった。
今回の内容は
これまでnoteに書いてきた
「16球団構想」や「若手厨」の話などとも
リンクしていると思うからだ。

先ほどの表を見ると
ドラフトで指名されても契約しない選手は一定数いるが、
2018年はそれでも961人(高校・大学以外のFA選手が1人いる)が
MLBチームと契約している。
裏を返せば
「代わりに最低でも961人、
1チーム平均32人の選手が解雇される
ことを意味しているのだ。
また新しく契約した選手には
年俸と契約金も支払わなければならない。

たとえば最近問題になっている
マイナーリーグ在籍選手の解雇について考えてみよう。
いくらマイナーリーグの選手を特例で解雇しないと言っても
最低5枠は空けておかないと
ドラフトで獲った選手の出る場所がない。
指名選手の契約金はというと、
2018年ドラフトでは
全体1位のケイシー・マイズが750万ドル、
29位のノア・ネイラー(30位は契約せず)は約258万ドル、
5巡最後164位のデヴィン・マンでも27万2500ドルだった。
5~6人の指名選手に対して
ウェーバー下位のチームでもメジャー契約数人分の年俸
上位チームなら大型契約に匹敵する額を払わなければならないのだ。
超薄給で知られるマイナーリーガーを大量解雇しても
この金額を全て賄えはしないと思うが、
経費削減の一環ではあるのだろう。
ちなみに全体最後の契約選手になった
40巡1207位のアンダーソンは5000ドル、
高校生最後のマーケス(39巡1175位)には3万5000ドルが支払われている。
40巡まで指名していたら
試合ができないにもかかわらず
さらにメジャー契約数人分の金額を必要としたことになる。

ところが
外部の「16球団構想」賛同者にしても
「若手厨」にしても、
こうした代価に関する意識はあまりにも希薄だ。
まず「若手厨」の場合は
一つがドラフトの大量指名を主張する点。
大量指名すれば
それ以上の数の選手が戦力外になると考えておらず、
その戦力外選手には
まだ伸びがいまいちな若手も含まれる可能性を見ていない。
また彼らがよく口にする
「若手をひたすら抜擢し続ければ長く活躍する選手を輩出できる」は
未熟な若手の抜擢によって
どの程度戦力ダウンするかを考えていないし、
「若手を抜擢し続ける」ことによって
「育ちかけた若手を強制的に次の若手に交代させる」ため
長く活躍する選手を輩出させない矛盾を作っている。

外部の「16球団」や「アジアリーグ」賛同者は
チーム数、支配下や外国人枠を増やせば
大量の選手をすぐプロ野球に入れられると考えているふしがあるが、
この選手たちに対して見合う金額を支払う気はない。
「プロ野球の年俸は高すぎる」とよく批判しているので
「トップ選手たちの年俸を大幅に削って調達すればいい」と
思っているのだろうが、
これは「成長し活躍しても給与は増やさん」とも言いかえられる。
「既存チームが収益がとれない今のうちに球団を増やせ」とも
主張しているので、
そもそもプロ野球球団自体に
大きな収益をあげさせるつもりがないのだろう。
日本の独立リーグを手本にさせようとしているあたり
プロ野球選手には
せいぜい独立リーグくらいの給与しか与えるつもりはなく、
選手年俸をそのぐらいの金額に抑えることで
何とか成り立つ程度の経営規模を要求しているわけだ。
それでいて選手の数だけは大量に増やせと言う。
これが守られるべき「草の根の野球」らしいが、
この人たちにとって
「選手は畑からただで湧いて出るもの」なんだろうか。
ソ連じゃないんだから。

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