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【全年度分析表つき】実務A評価のR5予備合格者が、民事実務基礎教材を完全解説

予備試験論文式試験の実務基礎科目は、合否に直結するとも言われているほど重要な科目です。実務基礎は差がつきやすいため、確実にAを取れるように準備したいところです。

では、そのためにはどの教材を使い、どんなの対策をしたら良いのでしょうか。

本記事では、令和5年度予備試験において、論文試験・実務科目でA、口述試験70位で合格した筆者が、民事実務基礎で高得点を取るためにはどの教材を使うのがベストなのか、市販されている教材を徹底的に検討しました。
全年度分の予備試験過去問との対照表も作成しましたのでぜひご覧ください。(ライター:いのっち/The Law School Times編集部・答案部門最終答案作成担当)


検討した書籍一覧

完全講義 法律実務基礎科目[民事]〔第2版〕─司法試験予備試験過去問 解説・参考答案─ (完全講義シリーズ)
以下、「大島予備過去」

著者:大島眞一
出版社 ‏ : ‎ 民事法研究会 (2023/3/29)
発売日 ‏ : ‎ 2023/3/29
‎233ページ

アガルートの司法試験・予備試験 総合講義1問1答 民事実務基礎 
以下、「アガ一問一答」

出版社 ‏ : ‎ サンクチュアリ出版 (2021/12/14)
発売日 ‏ : ‎ 2021/12/14
205ページ

完全講義 民事裁判実務の基礎〔第3版〕(上巻)
以下、「上巻」

著者:大島眞一
出版社 ‏ : ‎ 民事法研究会
発売日 ‏ : ‎ 2019/3/25
521ページ

完全講義 民事裁判実務[要件事実編]─民事訴訟の基本構造・訴訟物・要件事実─ (完全講義シリーズ) 
以下、「要件事実編」

著者:大島眞一
出版社 ‏ : ‎ 民事法研究会 (2024/5/21)
発売日 ‏ : ‎ 2024/5/21
517ページ

完全講義 民事裁判実務[基礎編]─要件事実・事実認定・民事保全・執行─ (完全講義シリーズ) 
以下、「基礎編」

著者:大島眞一
出版社 ‏ : ‎ 民事法研究会 (2023/3/29)
発売日 ‏ : ‎ 2023/3/29
464ページ

新版 完全講義 民事裁判実務の基礎[入門編]〔第2版〕─要件事実・事実認定・法曹倫理─
以下、「入門編」

著者:大島眞一
出版社 ‏ : ‎ 民事法研究会; 第2版 (2018/9/27)
発売日 ‏ : ‎ 2018/9/27
570ページ
※中古のみ

なお、大島本には、「下巻」や、「続」もあるが、これらの書籍は、論文式試験との関係では明らかにオーバースペックであることから、検討対象から除外している。

タイプ別のおすすめ

先に、結論としてタイプ別におすすめの教材を挙げます。

受験者全員

⇒大島予備過去(但し、予備校の解答・解説を持っている場合には、購入しないと いう選択肢もあり得る。)

民事実務基礎の初学者(今から着手する人)

予備校ベースで勉強してきた人⇒アガ一問一答
基本書ベースで勉強してきた人⇒基礎編

中級者(既に基本的な要件事実は理解している人)

⇒今まで使用してきた教材の反復が最優先
ただし、
その教材に執行・保全が載っていない⇒アガ一問一答or基礎編の併用
知らない要件事実が聞かれるリスクを最小にしたい⇒要件事実編の併用

アガ一問一答の特徴

・一問一答形式であることから、漫然と読み流してしまうリスクがない。
→「分かったつもりだけど覚えていない」という事態に落ちるリスクが少ない。

・必要十分な要件事実と、その導出過程が載っている。
→暗記で対応すべき問題はもちろん、現場で冒頭規定などから要件事実を考える問題にもある程度対応できる。
ただし、導出過程の解答は、答案用紙に書くような短く整った文である。そのため、行間を埋める必要があり、大島本と比較すると、理解が不十分になり、あるいは、誤った理解をしてしまう恐れは大きい。

・ランクと、ランク別の取り組み方が載っているため、誰でも正しく使える。
→重要性の低い要件事実に時間をかけるといったことを防げる。特に始めたばかりの人にとってランク情報は有用。

・薄くてコンパクト。
→1周するハードルが低く、対象の限定と反復に適しており、今から始めても、確実に定着できる分量。また、持ち運びに便利で、隙間時間に勉強するのに最適。

・必要十分な執行保全が載っている。
→執行保全は必ず聞かれる範囲であり、基本的な問題に答えられるようになっておくべきところ、一問一答形式で基本をさらえる本書はそれに有用。

・法曹倫理は載っていない。
→法曹倫理は、論文式試験との関係では、条文素読で十分ともいえる(多くの受験生は、法曹倫理を勉強しないか、条文素読をする程度だから。)。

上巻・要件事実編の特徴

・掲載されている要件事実の数が、検討対象書籍の中で一番多い。
→他の受験生に知識で負けることはなくなる。

・文章で、要件事実の導出過程が書かれている。
→文章で書かれているため、理解できないということは比較的少ない。この点は、基本書を使い慣れている人からすると、ありがたい。
一方、使い慣れていない人は、導出過程の重要性の判断(暗記しなければならないのか、理解すれば足りるのか、読み流す程度で問題ないのか)に困るおそれがある。

・レイアウトは基本書の中では読みやすい。
→もっとも、ほとんどの要件事実や記載例は四角い枠で囲われているが、地の文に要件事実が記載されていることもままあり、アガ一問一答と比較すると読みにくい。

上巻と要件事実編の違い

・要件事実編は、上巻の完全リニューアル版として刊行された。
→既に上巻で勉強してきた受験生には、使い慣れた上巻の使用の継続をお勧めする。この時期に乗り移るほどの大きな変更点はないと考えるからである。ただし、要件事実編にのみ載っている要件事実もあるため、万全を期したい人は、要件事実編を購入してもよいとは思う。

→口述試験との関係では、昨年までの圧倒的多数は上巻を使用していたが、要件事実編の刊行された本年からは、要件事実編が主流となることも十分想定される。そのため、上巻と要件事実編で迷った場合には、要件事実編の購入をおすすめする。

入門編・基礎編の特徴

・載っている要件事実の数は、要件事実編に比べて少ないものの、予備試験で過去問われた要件事実の網羅度の点においては、ほとんど変わらない(下表参照)。
→論文式試験との関係では、基礎編で十分ともいえる。
ただし、知らない要件事実が聞かれるリスクを最小にしたいのであれば、要件事実編の使用をお勧めする。

・法曹倫理が載っている
→法曹倫理は、論文式試験との関係では、条文素読で十分ともいえる。(多くの受験生は、法曹倫理を勉強しないか、条文素読をする程度だから。)
ただし、20頁程度にまとまっており、短期間で読めるため、余裕のある受験生に限っては、一読しておくという選択肢もあり得る(使用者インタビュー)。

・執行保全が載っている
→アガ一問一答に比較して、掲載されている範囲は狭い。
執行保全の対策としては、本書のみでは不十分に思われる。ただし、一問一答よりも基本書のスタイルの方が理解・暗記しやすい人は、ひとまず本書の範囲を抑え、適宜、他の基本書等で補うことも考えられる。また、要件事実や準備書面の勉強に力点を置き、執行・保全は本書の限度で抑えるという戦略もあり得る。

入門編と基礎編の違い

・基礎編は、入門編の改題である。
→基礎編と入門編のいずれかを購入するならば、基礎編の購入をお勧めする。

過去問全年度分析・各教材との対照表



おわりに

私は、1年目の受験の際は、アガ一問一答を使用した。要件事実の問において不足を感じることはなかったので、それで十分であると考えています。一方、2年目の受験の際は、大島予備過去と併せて上巻を利用しました。これは、1年目の論文受験後、口述対策として、上巻を使用した勉強をしており、上巻の要件事実をある程度覚えていたからです。

基本書慣れしていなかった私は、上巻を読むのに相当の時間を要した(論文試験後にだらだら読んでいたのもあって、1周するのに2週間ほどかかってしまった)ことから、論文直前期に着手する場合、相当の時間を要し得ることを踏まえて取り組む必要があると思っています。


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