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【翻訳】ペイアウト構造はICMにどう影響するか【MTT、ICM、セオリー】GTOWブログ.88


前回は、ゲーム選択におけるICMを考慮してフィールドサイズについて議論したが、これは収益性、分散、そしてプレイスタイル(タイトまたはルース)に大きな影響を与える事がわかった。今日は、ペイアウト構造に関するICMの考慮点について見ていこう。


ペイアウト構造が標準的か、フラットか、または急勾配であるかは相対的なものであるが、この記事の目的のために、いくつかの前提を設けよう。

  • 一般的なMTTのペイアウト構造は、参加者の15%から20%のペイアウトが支払われ、賞金プールの大部分がファイナルテーブルで支払われ、賞金プールの約30%から40%が上位3名に支払われる。これが標準的なペイアウト構造としよう。

  • フラットなペイアウト構造は、賞金を得るプレイヤーへの報酬をより均等に分配する。標準的なペイアウト構造と比べて、最終的な優勝者に支払われる賞金は少なくなるが、他のファイナリストやミニITMのプレイヤーに支払われる賞金は大きくなる。フラットなペイアウト構造では、より多くのプレイヤーに賞金が与えられることもある。

  • 急勾配なペイアウト構造はその逆で、賞金プールの多くが最終的な上位入賞者、特に優勝者に集中する。また、全体的に支払われる人数が少なくなることもある。

両極端な例として、最もフラットなペイアウト構造はサテライトトーナメントであり、全てのプレイヤーが同等の価値の賞金を得るのに対し、最も急勾配なペイアウト構造はwinner-takes-allのトーナメントである。この2種類のトーナメントの戦略的な違いは非常に大きく、まるで全く別のゲームであるかのようである。





バブルファクター


フィールドサイズの記事と同様に、フラットとトップヘビーのペイアウト構造の戦略的な違いを把握する最も簡単な方法は、以下のトイゲームを使用する事である。
6人のプレイヤーが全員20bbを持っているテーブルがある。これはマルチテーブルトーナメントで、他のテーブルの平均スタックも20bbである。
私たちは27人に賞金が払われる180人トーナメントに参加しており、現在のプレイヤーは残り28人でバブルに突入している。
このトーナメントを異なるペイアウト構造で何度かシミュレーションする。そして、各例でバブルファクターを確認し、各フォーマットの戦略的な違いを見ていく。

以下が3つのペイアウトストラクチャーである:


ノーマルなペイアウト構造はPokerStarsの180人SNGと同じ比率で、非常に一般的な構造と言える。フラットなペイアウト構造は、1位のペイアウトは少なくなるが、その他のペイアウト、特にミニITMの金額が多くなる。急勾配なペイアウトは、最後の2人を除く全員に支払われるペイアウトが少し少なくなる。
フラットの例ではミニITMの数を増やし、急勾配の例ではミニITMの数を減らすこともできたが、可能な限り比較を近づけるため、ファイナルテーブルの前に1回ペイジャンプを行い、27人のプレイヤーがペイアウトを得ることにした。
以下は、標準的なペイアウト構造における各プレイヤーのバブルファクターである:

全員が等しく1.41のバブルファクターの影響を受けていることが分かるが、バブルファクターについての記事を読めば、このテーブルで他の誰かにオールインするためには59%のエクイティが必要であることがわかるだろう。
フラットペイアウト構造と比較してみよう:


バブルファクターは1.48と高くなり、プレイヤー同士がオールインするには60%のエクイティが必要ということだ。わずかな差だが、よりタイトになる。トップの賞金が少ないので、ミニITMの確保と生き残りの重要性が少し増す。
今度は逆に、急勾配なペイアウト構造を見てみよう:

バブルファクターは1.35であり、プレイヤー同士がオールインするには57%のエクイティが必要である。スタンダードのペイアウト構造と比べるとわずかな差だが、フラットと急勾配の差は3%であり、これは大きい。
この差は非常に小さいと思うかもしれないので、もっと極端なペイアウト構造を使ってみよう。例えば、これが勝者総取りのトーナメントだったらどうなるだろうか。


追加の配当がなければ、これは本質的にChipEVコンテストなので、バブルファクターは1である。

逆に、これが27人のプレイヤーに同じ賞金が支払われるサテライトだったらどうだろう?


バブルファクターは27で、オールインをコールするには96%のエクイティが必要なほど極端である。当然だがプリフロップでそれだけのエクイティを持つハンドはない。これは文字通り、もし全員がGTOをプレイしていたなら、UTGが72oでオールインして手札を表にし、BBがAAをフォールドするような状況である!

キャッシュを保証することの方が重要なので、フラットなペイアウト構造ではタイトにプレイすべきである。急勾配なペイアウト構造では、トーナメントに勝つことがより重要なので、ルーズにプレイすべきである。


ペイアウト構造と分散


ここまで、バブルファクターの違い、つまりフラットなペイアウトと急勾配なペイアウトの戦略的な違いについて見てきた。次のゲーム選択の考慮点は分散である。

トーナメント分散計算機を使って、異なるペイアウト構造を比較したときに、運の要素がどれだけ異なるかを示すことが出来る。

以下の各例では、$50のMTTで10%のROIを持つプレイヤーが、100人のMTTを1,000回プレイした場合どうなるかをシミュレートしている。唯一の違いはペイアウト構造である。バブルファクターで行ったように、フラットと急勾配のペイアウト構造をシミュレートすることは出来なかったため、今回は、ペイアウトされるプレイヤーの数を変えることで、ペイアウト構造を平坦にしたり急峻にしたりした。

まず、100人のプレイヤーのうち15人にペイアウトする標準的なペイアウト構造をシミュレートした。以下は、私たちが行ったシミュレーションの20のサンプルである。


最良のケースでは、プレイヤーは約$25,000を獲得し、最悪の場合は約$10,000を失い、平均$5,000の利益を得た。この例では、損失の確率は18.2%で、破滅のリスクを1%に抑えるのに必要なバンクロールは$9,840だった。
次のシミュレーションを再実行したが、唯一の違いは、各トーナメントで100人中5人だけが賞金を獲得出来るという点だ:

最良の結果は大幅に改善され、約$35,000の利益を稼いだ。最悪の成績はもっと悪く、$20,000近くを失った。平均はほぼ同じで、$5,000ほどの利益だった。今回は損失の確率が26.1%で、破産のリスクを1%にする為に必要なバンクロールは$14,275と、最初の例よりはるかに多かった。

最後に、各トーナメントに参加した100人のプレイヤーのうち30人に賞金を支払うフラットなペイアウト構造をシミュレートした:

この例では、最高の成績で$20,000を稼ぎ、最悪の成績で$7,000強を失い、平均利益は$5,000強だった。損失の確率は14.4%で、必要なバンクロールは$7,797だった。

どのシミュレーションでも平均期待値は$5,000だった。これは、$50のMTTで10%のROIのプレイヤーが1,000トーナメントをプレイした場合の期待値である(文字通り、1トーナメントあたり$5の利益を1,000倍したものである)。長期的に見れば、ペイアウトの仕組みに関係なく、プレーヤーは同じ額を稼ぐことになる。しかし私たちは無限のプレイ時間を持たない人間であるため、ここには実際のゲーム選択の考慮事項がある。急勾配なペイアウト構造は、短期的には最大の上振れが大きい反面、短期的な下振れも大きいという特徴を持つ。

トップヘビーなペイアウト構造に特化すると、破産する可能性が高くなる。フラットなペイアウト構造は、損失のリスクははるかに少ないが、それに比べて上振れは限定される。


レジストに関わる考慮事項


ペイアウト構造はゲーム選択とICMのもう一つの重要な要素であるレジストのタイミングに影響を与える。この点については、レイトレジストレーションの記事で簡単に説明したが、ここではそれを強調するために、簡単なトイゲームをしてみよう。

参加費が$10、スタートスタック$1,000の9人トーナメントをプレイしているとしよう。4人のプレイヤーがバストし、10番目のプレイヤーである私たちがレイトレジストしたとする。レイトレジストすることで得られるICMエクイティのブーストを見てみよう。

まず、これが標準的なSNGのペイアウト構造である:

我々はテーブルで最下位のプレーヤーである。レイトレジストした事で、$1.17(11.7%)のエクイティブーストを即座に得たことがお分かりいただけるだろう。
ペイアウトをもっとフラットにしたらどうだろう?スタックサイズは同じですが、1位の賞金から$10を引き、他の2人のペイアウトをそれぞれ$5ずつ増やしましてシミュレーションしてみた:

私たちのスタックは最初の例よりも価値があり、今回は1.43ドルのエクイティブーストを得る。
もう一方の例として、3位からいくらか賞金を引き、最終的な勝者に渡し、ペイアウトをよりトップヘビーにしたらどうだろうか?


依然としてレイトレジストしても利益は出るが、前の例よりは少ない。0.99ドル、つまり9.9%のエクイティブーストしか得られない。
極端な話だが、これが3位まで同じ額の賞金が支払われるサテライトだったらどうだろう?

ここでは$1.71という最も大きなブーストが得られる。
次の展開がお分かりになるだろう。勝者総取りのトーナメントだったらどうだろう?

前述したように、勝者総取りのトーナメントはChipEVであり、バブルはなく、したがって、レイトレジストするメリットはない。いつレジストしようが、$10は$10のままなのだ。そのため、あなたが熟練したプレイヤーであると仮定すれば、このようなトーナメントには最初から参加するのがベストであろう。
ここで、ペイアウト構造に関する非常に重要なICMの教訓がある。

ほとんどのトーナメントにレイトレジストした場合、全体的に多くのお金を稼ぐことができるが、最初から登録した場合よりも、同じスキルを仮定した場合、優勝することは少し少なくなる。

ペイアウトストラクチャーがフラットであればあるほど、ミニITMが最優先されるため、レイトレジストする価値は高くなる。トップヘビーなペイアウトのトーナメントでは、上位に入賞することがより重要になる。急勾配なペイアウト構造であっても、レイトレジストは有益であるが、深いスタックの時に優位に立てるのであれば、早めのレジストをした方がよいだろう。


複雑な要因



今日上げた例はすべて、参加者間のスキルが同等であることを想定しているだけでなく、インセンティブも同等であることを想定している。現実では、しばしば力学を変化させる複雑なニュアンスが存在する。誰もが同じトーナメントで同じ額のEVを目指してプレイしているわけではない。

例えば、過去2年間、GGPokerはWSOPメインイベントのオンライン予選でプロモーションを行った。GGPokerのワッペンをつけてメインイベントで優勝すれば、さらに100万ドルを獲得できる。これはまさに2022年にEspen Jorstadに起こったことである。以前、PokerStarsなどの主要なポーカールームもWSOPのファイナルテーブル進出を果たした予選者にスポンサーシップを提供していた。

WSOPメインイベントのファイナルテーブルの優勝賞金が1,000万ドルだとしよう。彼らは$1100万を目指し、他のプレイヤーは最高$1000万を目指す。彼らが2位になれば、準優勝と同じ賞金を獲得出来るが、優勝すれば10%多く獲得できる。彼らは、より急勾配なペイアウト構造でプレーしているのだ。

同様に、リーダーボードなどのいくつかのプロモーションは、一部のプレイヤーにとってはペイアウト構造をある意味でフラットにする。有名な例では、2019年にRobert CampbellがWSOPプレイヤー・オブ・ザ・イヤーのリーダーボードを獲得したが、WSOPはポイントの計算を誤った。Shaun Deebは、ファイナルイベントで首位に立つにはファイナルテーブルでの大きなITMが必要だと考え、優勝を狙ってプレーした。後になってこの誤りが発覚したのだが、優勝するには比較的小さなファイナルテーブルでのフィニッシュで充分だったのだ。Deebは後に、もしその事を知っていたら、本当にタイトにプレーをしていただろうし、おそらくリーダーボードのタイトルの順位を上げていただろうと語っている。

この例では、ミニITMとラダーは、最後のトーナメントでたった一人のプレイヤーShaun Deeb、にとってより大きな価値があった。Deebは他のプレイヤーよりもフラットなペイアウト構造でプレイしていたのだが、彼はそれに気づかなかった。WSOPのミスのせいで、彼はかえって急勾配なペイアウト構造でプレイしているよう立ち回ってしまったのだ。

私たちは、WSOPで誰かがブレスレットの為にプレイしているときにも、この効果を見ることが出来る。一部のプレイヤーは、単にお金よりもブレスレットを重視しており、大きなスタックを得るためにバブルで弾けることを厭わないことがある。最後に、お金がより重要なプレーヤーもいる。ミニITMや上位の入賞賞金がどうしても必要だったりするのだ。

重要なのは、現実のテーブル上では、全員が自分と同じペイアウト構造を求めてプレーしているとは仮定出来ないということだ。また、彼らがフラットなペイアウト構造で大きなフォールドをするだろうと仮定することもまた出来ない。なぜなら、彼らはトーナメントで優勝するというプロップベットを行ったかもしれないし、3位になれば優勝しなかったとしても賭けの対象から外れるかもしれないからである。また、私たちは、バブルの際に急勾配の賞金構造でプレイしているプレイヤーを搾取出来るかもしれない。彼らはサテライトを通じて予選を通過しており、ミニITMが彼らにとって非常に重要な意味を持つからだ。


まとめ


ICMのフラットペイアウトと急勾配なペイアウトの違いは、多くの点で小規模なフィールドと大規模なフィールドの違いと似ている。フラットなペイアウトは小規模なフィールドのトーナメントと同じで、優勝のためにプレーするインセンティブが少なく、入賞を確保するインセンティブが高い。この場合、ミニITMが全体の賞金プールの中で大きな割合を占めている。

急勾配なペイアウトストラクチャーは、大規模なフィールドのトーナメントのようなものである。賞金プールの多くが最終的な賞金ポジションに集中しており、ミニITMの価値が低いため、チップを積極的に集めるスタイルでプレーするインセンティブが高くなる。これはまた、ペイアウトストラクチャーがよりフラットな場合、レイトレジストがより有益であることを意味する。

小規模なフィールドのように、フラットなペイアウト構造では、賞金を手にする可能性が高いため、分散が少ない。しかし、これらのトーナメントの上限には限りがある。急勾配なペイアウト構造では大規模なフィールドのように分散が大きく、フィールドの上位1%に入賞することが求められる。

通常のペイアウト構成と、ほんの少しフラットであったり急勾配であったりするものとの戦略的な違いは、非常に些細なものになりがちである。しかし、フラットと急勾配の違いはかなり大きい。さらに重要なことは、サテライトやwinner-take-allのトーナメントなどの極端なペイアウト構造では、その違いは非常に大きく、本質的に全く異なるゲームと言えるほどである。


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