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【翻訳】ICMはブラインドからのリスティールにどのような影響を与えるか【ICM、MTT】GTOWブログ.56

私がプリフロップの解析に取り組み始めた頃、最も印象的だった特徴の一つは、比較的小さなポットへの大きなプリフロップオールインベットであった。ソルバーが登場する前の時代には前代未聞のことではなかったが、こうした巨大なオールインは、ポストフロップのスキル不足を補うための粗雑な手段であり、フィッシュが行うようなプレイだと広く考えられていた。しかし、基本的な原則は正しい。適切なスポットで、適切な種類のハンドがあれば、プリフロップでの巨大なオールインは最適なプレイである。それは、フロップ後のこれらのハンドのプレイの難しいという事が一因といえる。

このような大きなオールインは、相手のレンジが最も広いレイトポジションで最も頻発する。このようなシナリオでは、レイズフォールドするには強すぎるが、アクションを誘発したいほど強くないハンドでオールインをするのが最適となることがある。これは、レイトポジションのプレイヤーに、オープンしていないポットに20bbを突っ込んだり、レイトポジションの「スティール」に対して30bb以上突っ込んだりするインセンティブを与える。ブラインドは小さなレイズをした後でフロップ後にポジションが無いところから大きなポットを争う事にリスクがある為、特にこのような大きなオールインをする動機がある。

例えば、40bbのスタックで2.3bbのBTNレイズに対するBBの反応をチップEVモデルで見てみよう。


BBは6%のハンドをオールインするが、低SPRでポストフロップのプレイアビリティが低いが強固なエクイティを持つスモールペア、AQo、AJoのようなハンドを明確に好む。これらのハンドはレイズによるフォールドエクイティを重視し、4ベットには強すぎてフォールドできないが、小さい3ベットによる追加アクションを望むほど強くない。

あなたがこのようなオールインをしたときにどんなハンドを持っているかが明らかになるのかもしれないが、対戦相手がそれについてできることはほとんどない。もし相手がタイトなレンジでコールした場合、これらの手札はコールされたときのパフォーマンスは落ちるが、ショーダウンなしでより多くのポットを獲得する。もし相手がより広いレンジでコールしてきた場合、これらのハンドはフォールドによる利益は少ないが、コールされた時のエクイティは高くなる。

この戦略が唯一失敗する可能性があるのは、BTNが最初に過度にタイトなレンジでオープンしていた場合である。この場合、あなたのレンジの弱い部分は、より適切にアグレッシブなBTNからのスティールによって失うはずだったポットを獲得し、利益を得る。



オールインは選択肢の一つである


これらのオールインの多くは混合戦略であり、オールインのEVはコールや小さい3betのEVと変わらないかそれ以下である。純粋な戦略でオールインする多くのハンドでも、他の戦略とのEVは近い。88のオールインは均衡上で3.2bbの価値があるのに対し、小さい3betは3.15bbである。AKoを使った小さいスリーベットのEVは5.68bbで、オールインの5.59bb比較してわかるようほとんど差がない。

覚えておくべき重要なポイントは、特定の頻度で特定のハンドでやみくもに大きなオールインはしないことである。全てのプレイヤーがちょうど40bbを持っている状況に出くわす可能性は低いからだ。その代わりに、このようなプレイが良い選択肢となり得る状況、なぜそれが望ましいのか、どのハンドが最も適しているかの傾向を把握する事が重要である。

ソルバーが考慮しない重要な要素として、絶対に考慮すべきなのは、相手とのスキルの差である。OOPからポストフロップをプレイするのは常に難しいが、強い相手に対しては特に難しい。EVが近いこれらのハンドでは、たとえBBが均衡状態で決してオールインをしないとしても、手強い相手に対してはオールインは有効な選択肢となり得る。コールや3betのEVはフロップ後のエクイティを実現できるかどうかに大きく左右されるので、それが疑わしい場合はオールインが比較的魅力的になる。

その他の重要な考慮点としては、BTNがどの程度のレンジでオープンしていると考えるか、またBTNがいくらのレイズをしているかがある。前述したように、これらのハンドをオールインすることのEVは、BTNがオールインにどう反応するかよりも、むしろ彼らが最初にどれだけ広くオープンしたかに左右される。66のような手をオールインする目的は、いわばクッキー入れに手を突っ込んでいるところを捕まえるような物である。相手が66より良い手札を持っていることはあまりないので、相手がどんなにコールしたり、もっと悪いハンドでフォールドしたりしても、あなたのオールインは+EVである。

BTNのオープンの大きさに関しては、大きな違いがある。レイズが小さいほどポットオッズが良くなり、相対的にコールが魅力的になる。以下はBTNが2.3bbではなく2.1bbをオープンした場合の9人テーブルのチップEVシミュレーションである。


BTNのレイズサイズが少し変わるだけで、BBのオールイン頻度は半分以下になる!それでも、EVはかなり近いままであり、候補となるハンドも同じである。88以下のペアはすべてオールインの候補であり、均衡状態では決してオールインしないペアも含まれる。55をオールインした場合のEVは1.75bbであるのに対し、小さい方のスリーベットは1.78bbである。


ICMの導入


同じシナリオを、フィールドの25%が残っているICMモデルで考えてみよう。


すべてのオールインがなくなった!以前はオールインしていたハンドのほとんどが、今ではコールがより良いプレイとなる。これは、(ICM)の基本的な考え方を反映している: ICMは、チップを増やす価値を低く見積もる。ChipEVモデルがすべてのチップを等しく価値あるものとして扱うのに対し、ICMは最後に残ったチップを最も価値あるものとして扱い、スタックに追加されたチップはすでに持っているチップより価値が低いものとして扱う。従って、ICMのプレッシャーが増すと、BTNがオールインにフォールドしたときに5bbを獲得する価値が減り、BTNがコールして勝ち、トーナメントをバストアウトする事によるリスクを避けるようになる。

EVはChipEVのソリューションほど近しくはない。均衡状態において、スモールペアをオールインする事はそれらをコールするよりも20%ほど悪い選択になるので、オールインの方がより良い選択肢になるには、かなり大きな均衡からの乖離が必要となる。トーナメントが進んでICMのプレッシャーが高まるにつれて、BTNのオープニングレンジがタイトになることにも注意するべきである。BTNも、チップを増やすことよりもチップを維持することを重視する。

以下の図は、トーナメントが進むにつれ、BTNのオープンに対するBBの反応がどのように変化するかを示している。


ChipEVは最初のハンドでさえトーナメントプレイの完璧なモデルではなく、バブルが近づくにつれ、これらの大きなオールインがBBの戦略から外れていくのがわかる。バブルに近づくにつれ、オールインは小さな3betになり、3betのいくつかはコールになり、コールのいくつかはフォールドになる。
興味深いことに、より強いハンドがBBの3betのレンジからコールのレンジに移行するにつれ、BBのフォールドは減っていく。このような強いハンドがコールレンジに入ることで、BTNがフロップ後にアグレッシブになることが難しくなり、BBがよりアグレッシブな3ベット戦略を取っていた時にはフォールドしていたようなハンドのエクイティが実現しやすくなるのである。


SBの反応


SBの場面でも同様のパターンが見られ、ChipEVモデルにおいてBTNのオープンに対してSBが行う40bbのオールインは、ICMがより重要な要素となるにつれて減少していく。
次の表は、トーナメントのフェーズ毎におけるBTNのオープンに対するSBの戦略を示している。有効スタックは先ほど同様40bbである。



より浅いスタックだとどうなるか


30bbのスタックでは、オールインのリスクとリワードの比率はより有利であり、ショッビングはバブル間近までBTNレイズに対するBBの反応の一つであり続ける。それでも、トーナメントが進むにつれ、BBのオールイン戦略はより保守的になる。
次の表は、30bbディープのトーナメントの局面別に、BTNオープンに直面したBBの戦略を示したものである。


トーナメントが進むにつれ、BBのオールインレンジの構成にも興味深い変化が見られる。ミディアムペアはコールがより良いプレイだとされ始め、一方、スーテッドKとQは少しアグレッシブにオールインしている。以下は、有効スタック30bbのBBのBTNオープンに対するオールインレンジを25%のプレイヤーが残っている状態(左)と50%のプレイヤーが残っている状態のもの(右)を並べて比較したものである。


これはBTN側がオールインをコールするレンジの変化に対応している。BTNがスーテッドKやスモールペアをフォールドするにつれ、BBはミディアムペアをオールインするインセンティブが減り、キッカーが低いスーテッドKをオールインするインセンティブが増える。



スクイズ


SBがBTNのオープンをコールした後のBBのオールイン戦略も同じ傾向が見られる。より多くのチップと3人目のプレイヤーが既にポットに入っているため、オールインはバブルの直前までBBの対応策の一部であった。しかし、トーナメントが進むにつれ、BBはヘッズアップのシナリオと同じように、オールインの一部を小さな3ベットに切り替える。


バブル時、BBのオールイン頻度は、フィールドの25%が残っていた時より少し上がっている。これはBBが弱いハンドをオールインしていることを反映しているわけではない。BBのオールイン頻度自体はバブル直前が一番低いのだ!むしろ、TT、JJ、AKoは、トーナメントの序盤では小さいスクイーズでアクションを誘発することを好んだが、バブル付近ではオールインをしてより少ないリスクでポットを取るインセンティブがある。
また、ヘッズアップポットでのBBのフォールド頻度は、コールレンジに強いハンドがあるおかげでバブル時には低下するが、SBがコールした後のフォールド頻度は上がり続けるという点も興味深い。マルチウェイポットはICMの影響を悪化させる。より良いポットオッズは、BBが勝った時により大きなポットを獲得することを意味するが、ポット内のプレイヤーが多ければ勝つことは難しくなる。ICMはBBがより多くのチップを貯めることよりも、今持っているチップを守ることを重視するように促す。


まとめ


ICMはリスクを冒すことを罰する。バブルに近づけば近づくほど、チップを節約し、生き残りが危うくなるような状況を避けるように努めるべきである。その結果、トーナメントが進むにつれて、レイトポジションでのスティール目的の大きなオールインは好まれなくなる。スタックが浅い時や3人目のプレイヤーがポットに入っている時にオールインをするハンドはより強力になる。AKoやJJのような強いハンドは、アクションを誘発するために小さく3ベットするハイリスクハイリターンの戦略よりも、より小さなポットをより少ないリスクで勝つためにオールインする事を好むようになる。


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