見出し画像

【翻訳】ICMが機能しない時【MTT、ICM、セオリー】GTOWブログ.93

以前のGTO Wizardの記事や私の著書を読んだ方ならご存知だろうが、私はICMの支持者である。ICMは、多くのトーナメントプレイヤーに軽視されすぎているが、驚くべきことである。トーナメントプレイヤーにとって最も重要な金銭的決断の指針である可能性が高いからだ。それがタフなファイナルテーブルのスポットであろうとファイナルテーブルのディールであろうと、ICMのミスはウィンレートに大きく影響する。

しかし、非常に影響力があるとはいえ、ICMは決して完璧ではない。ICMにはいくつかの限界があり、大きなミスを犯さないように注意する必要がある。これらの限界をまとめると以下のようになる:

  • ICMはブラインドレベルを考慮しない。

  • ICMは同等のスキルを前提としている。

  • ICMは将来を考慮しない。




ICMは同等のスキルを前提としている


これについては、ファイナルテーブルのディールについての記事で既に述べた。ファイナルテーブルディールはしばしばプレイヤーが初めてICMに触れる場であり、多くのプレイヤーがICMの最も基本的な限界を認識する場でもある。ファイナルテーブルでのディールは分散を減らすための方法であり、「ICMチョップ」はチップスタックに実際の金銭的価値を割り当てるための、現在のところ最良の方法である。



問題は、知識や実力がまったく考慮されていないことだ!残りのプレーヤーのスキルは同等であるという前提があるため、トーナメントで特定の順位に終わる可能性に変動をもたらす事はない。

全くのアマチュアがJason Koonと同じスタックサイズでファイナルテーブルに進出した場合、ICMディールは強いプレイヤーにとってひどいアイデアに見える。ICM計算とは、基本的に(スタックサイズのみに基づいて)トーナメントのフィニッシュ分布を予測するものであり、もしKoonとレクリエーションプレイヤーが共に20bbを持っていた場合、ICMディールは両者がトーナメントで優勝するか、同じ頻度で次にバストすると仮定する。これは明らかに事実ではなく、Jason Koonはアマチュアよりもはるかに多くのトーナメントで勝つだろう。

これは多くのファイナルテーブルでは問題ではない。最近ではプレイヤー間のエッジは小さく、ファイナルテーブルはスタックが浅くなる傾向にあるため、スキルを発揮する余地が少なくなっている。ほとんどのプレイヤーは、分散を減らすために少量のEVをあきらめることに満足し、一方のプレイヤーが明らかに優れている場合には、ICMよりも良い取引を交渉できる傾向がある。

ファイナルテーブルディールについてはすでに説明したが、戦略そのものについてはどうだろうか?ICM計算は最初に、ファイナルテーブルのディールを構築する方法として考案された。戦略的意思決定に用いられるようになったのは、数十年もあとのことである!ICM戦略の話の中でしばしば見落とされがちなことの一つは、とても上手なプレイヤーも、とても下手なプレイヤーも、ICMのレンジに厳密に従うべきかどうかということである。

優勝者に60%、準優勝に40%が支払われる100ドル6MAXのSNGのトイゲームの例を見てみよう。トーナメント開始時にICM計算をするとしたら、各プレイヤーのスタックは$100の価値があり(レーキなしの例)、フィニッシュ分布は次のようになる:

ICMはすべてのプレーヤーのスキルが同じであると仮定しており、当然すべてのプレイヤーが全ての順位でフィニッシュする確率は同じである。どのプレイヤーも33.4%の確率で賞金を得ることになる。

他のプレイヤーに対するエッジを定量化するのは難しいが、一つの方法としては、著しく勝っているプレイヤーの大量のサンプルを見て、彼らがトーナメントでどのようにフィニッシュしているか、平均的なプレイヤーと比較してみることである。私はSharkScopeで6Max SNGのリーダーボードを見て、ランダムに大きな勝者の一人を選んだ。これはPokerStarsの'Kommersant K'で、執筆時点で37,835回6-Max SNGをプレイしており、ROIは12.4%である。

彼の統計から、この選手のフィニッシュポジションをほぼ完璧に表すことができる:

このプレイヤーは11%の確率で6位になるが、平均(先に指摘した16.7%)よりはるかに少ない。5位は16%で、これはほぼ平均的な数字だ。3位と4位は具体的な数値はわからないが、2つの中間の順位に入るのは34%なので、3位が17%、4位が17%と仮定しよう。2位になるのは17%で、平均より少し多いが、優勝するのは22%で、これは平均より大きなアドバンテージがある。

合計すると、平均の33.4%に対し、彼は39%の確率で賞金を獲得している。

他の5人の平均的なプレーヤーと対戦した場合の成績分布は次のようになる:

最初のハンドでBTNが25bbをオールインし、BBのKommersant Kまでフォールドされたとしよう。我々はBTNにオールインかミニレイズの選択肢を与えたが、彼らのオールインレンジは44、A5s、AKo、KTs、Q9s+、J9s、T9sであった。GTOの世界では、Kommersant Kがコールレンジは以下である:

ここにはスナップコールも多いが、ブレイクイーブンに近いギリギリのハンドも多い。

このトーナメントのクラッシャーにとって、このような小さなエッジのために全スタックを賭ける価値が本当にあるのだろうか?もし彼らがフォールドした場合、このトーナメントで賞金を獲得する確率は39%である。私は、ICM計算機がコールだと言うような小さなエッジを、熟練したプレイヤーが見送るべき場合の良い例だと私は主張したい。ここでのコールは、このようなフィールドのクラッシャーにとっては機会損失のように感じられる。

もちろん、このトーナメントに参加している他のプレイヤーがGTOレンジでプレイしていたなら、Kommersant Kが享受しているエッジはないだろう。彼がハイボリュームのプレイヤーであることを考えると、おそらくGTOに近いものをプレイしている可能性が高く、彼の成功の一部はこのような小さなエッジを見逃さないことに由来していることになる。また、私が選んだハイパーターボのスポットではスタックの深さが浅いと、ポストフロップの「アウトプレイング」の余地が少ないため、スキルのエッジはずっと低くなる。

しかしながら、このプレイヤーはこのテーブルでスキルエッジを享受していることが分かっており、マージナルなハンドでここでコールすることはICMソルバーは承認しているが、フォールドすることがおそらくより有益な選択肢であるという点は変わらない。逆に言えば、このテーブルの弱いプレイヤーはどんな小さなエッジも見逃すべきでない。


ICMは将来を考慮しない


ICMの計算はファイナルテーブルのディールを解決する方法として始まったため、当然ながらトーナメントは直後に終了するという前提があった。このことは、現在のハンドが終了した後もプレーが継続されたときに何が起こるかを考慮していないのでICMを戦略的判断の指針として使用する場合に欠陥をもたらす!
これは多くの問題を引き起こすが、最も大きな問題は、ブラインドがテーブルの周りを決まった方向に移動するというゲームのメカニズムが考慮されていないことである。ICMを使ってUTGレンジを構築する場合、UTGが次のハンドでビッグブラインドをポストするという事実は考慮されない。

ありがたいことに、最近のポーカーソルバーはこの点を考慮している。これらのソルバーにはフューチャーゲームシミュレーション(FGS)を適用するオプションがあり、出力に反映されます。これはICM計算の強化版で、現在のハンドより数ハンド先に何が起こるかを考慮する。

例えば、これはホールデムリソースカリキュレーター(HRC)の9人SNGのバブルのUTGのレンジである。UTGは800チップ、他は1,000チップで、ブラインドは50/100、アンティは25だ。これは伝統的なMason-Harville ICMモデルを使っており、このハンドの後にトーナメントが終了すると仮定している:

このレンジが考慮していないのは、アクションを取らなかったときのコストである。UTGはショートスタックであり、次のハンドでスタックの1/8をポストしなければならない。しかし、FGSのICMモデルを使うと、3つ先のハンドまで考慮するため、以下のレンジになる:


レンジは少し広がった。これは、次のハンドでBBをポストすることがこのプレイヤーにとって比較的にコストが高いためである。

FGSにはもう一つ考慮すべき要素がある。現在のハンドの後にブラインドをポストするという事実を考慮しなければならないだけでなく、現在のハンドの後にブラインドが上昇する可能性があるという事も考慮しなければならない。次のレンジは、次のハンドでブラインドが100/200に増え、アンティが50になることも考慮したFGSのレンジである:

次のハンドでUTGがスタックの25%(12.5%ではなく)をポストするという事実を考慮し、レンジはかなり広くなっている。アクションをしないことによる代償が倍になったので、UTGはより多くのリスクを取るようになった。

更に一歩進んで言うと、ICMが将来を考慮していないだけでなく、MTTである事を認識していない事についても言及したい。時にはハンドフォーハンド中であっても、別のテーブルのスタックや起こっているアクションが、あなたの決断に大きく影響することがある。例えば、隣のテーブルにマイクロスタックがいたり、オールインとコールがあった場合、あなたの現在のハンドに劇的にICMのプレッシャーがかかるべきである。ICM計算機の中には、他のテーブルのチップ分布を考慮するものもあるが、ハンドの途中で他のテーブルの誰かがオールインしたことを考慮することはできない。


まとめ


ICMはブラインドとブラインドレベルを考慮しないので、非常に浅い、あるいは速いストラクチャーではこの事を理解することが重要である。

ICMは全てのプレイヤーのスキルが同等であることを前提としている。そうでない場合、エッジのあるプレイヤーはファイナルテーブルのディールで他のプレイヤーに要求を出すことができる。戦略的には、実力のあるプレイヤーはかろうじて利益の出るスポットをパスして、より良いスポットを待つべきであり、実力のないプレイヤーはたとえギリギリのスポットであっても利益の出るスポットをパスすべきではないということである。

ICMは将来を考慮しない。ブラインドの増加やポジションの回転を考慮しない。これは、ブラインドが戻ってきたり、増えたりして、あなたが弱い立場に立たされたときに特に重要となる。

ICMはトーナメントにおいて非常に重要な戦略指針であり、それを無視するプレイヤーはEVを損なっている。

しかし、ICMは決して完璧なモデルではない。ICMには限界があることを認識しておく必要がある。そうすれば、ICMの枠にとらわれず、より包括的なアプローチで考えなければならない状況になったときに、ICMから離れることが出来る。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
記事は以上になります。最後まで読んでいただきありがとうございました。
この記事を読んで良いと感じて頂けましたら、noteのスキ、やSNSでの拡散、Xのフォロー、サポート等をして頂けますと執筆の励みになります!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?