「交渉力」を読んで実践でつかえること

■本レポートの抜粋

著者によれば、交渉の原則は「利益を与える/譲歩する」「合法的な脅しを使う」「お願いする」の3つしかないといいます。実践にあたっては、自分や相手の要望を整理して優先順位をつけ、譲歩できる内容を用意するのが肝となります。また、交渉に価値観や思想・信条を持ち込まないこと、交渉決裂後にどうするかを考えておくことも重要だといいます。

交渉は、相手との闘いではなく自分との闘いといいます。どれだけ自分の要望を整理できるか。絶対に獲得しなければならない目標のために、いかに他の要望を捨てる決断ができるか。相手の要望を推測しながらしっかり整理できるか。こうした自分との闘いに勝った者だけが交渉で成功を手にできるという主張には、著者ならではの説得力があります。

府知事、市長時代の体験談のほか、アメリカのドナルド・トランプ氏や北朝鮮の金正恩氏の外交術など、数々の事例を用いた解説は具体的でわかりやすい。なるほど! と膝を打つ箇所も随所にあります。ビジネスの場ではもちろんのこと、日常のさまざまな場面で役に立つ実用書であると同時に、橋下氏の政治手腕の一端が伺い知れる内容となっています。

ーーーー書籍情報ーーーーーー

■著者名 交渉力

■著書名 橋本徹

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■はじめに

いよいよコロナの影響で、発生した緊急事態制限が解除にむかっています。

ここから今まで打撃を受けた企業に関しては、もちろん取り返さないといけないですし、特に影響がなかったとしても、今後発展をするには、間違いなく交渉力は必用不可欠になります。

時には、細かな交渉や駆け引きが重要になる場面もありその商談を制するかどうかもその人の持っている能力によって決まるのです。

■交渉に勝つための3つの原理原則

相手を動かし、自分の目的を達成するための手段が「交渉」です。政治・経済の世界はもとより、ビジネスやプライベートな世界でも、交渉術を知っておくことは大きな力となります。当然現場での経験などによって身につくることもあります。しかしながら、この交渉能力をみにつけることが出来れば最短で結果を作ることが出来るようになります。では交渉術とは何か。それは「利益を与える/譲歩する」「合法的に脅す」「お願いする」の3つに区分できます。

交渉は「相手に何をどれだけ与えるか、何をどれだけ譲るか」で決まります。多額のお金を与えたり、利益になるものをたくさん与えたりすれば、話は早くまとまるでしょう。しかし相手にとって利益になるものを与え続ければ、こちら側の持ち出しが増えてマイナスになってしまいます。そのため交渉においては、こちら側がマイナスにならずに、相手には利益になるものを見つけ出すことが大切になります。

その一例として、相手が困るような環境を作り出し、それを取り除くことで、相手にとって利益になるよう見せる方法が挙げられます。はじめにわざと厳しい期限を設定し、あとから期限を延ばすのはその典型です。これを「仮装の利益」というい交渉において、最も重要なノウハウのひとつであります。

商談をするにも、抱えている課題を明確に分かっている企業もあればそもそも課題がどこにあるかもわからない企業もすくなくありません。

したがって、課題となるものを仮説しそれを解決することによってどれだけ相手にメリットがあるのかを伝える必要があります。

■お願いし、ダメなら決裂

相手に利益を与えたり譲歩したり、合法的な脅しを使ったりしても交渉がうまくいかない場合、「お願いをする」ことも検討すべきです。だがこれは、相手がまったく譲歩する気がないなら成り立ちません。その場合は、交渉を終わらせるしかないのです。

交渉の終わらせ方についても原理原則があるのです。それは、「交渉は握手で終わる」というものです。たとえ敵対的交渉であっても、相手が白旗を揚げたときは撃ちどめにして、握手できる余地を残しておくのです。

交渉が決裂したあと、人間関係を決定的に破壊しないようにするためには、交渉中に相手を侮辱しないことが大事です。どんな交渉でも、それだけは忘れてはいけないのです。

■自分と相手の要望を整理する

「相手に利益を与える/譲歩する」うえで一番大事なのは、自分と相手の「要望の整理」です。自分の要望が多いと、交渉は成立しにくくなります。事前に要望を整理し、「絶対に譲れないもの」と「譲れるもの」に分けておくべきです。交渉においては、この「譲れるもの」のうち優先順位の低いほうから、1枚ずつカードを切っていくべきです。

良く最初から全部の切り札を出してしまう人がいます。この場合切ったそのタイミングでは確かに有利になりますが、そこで交渉が決まらない場合に打つ手がなくなりますし、仮に成立したとしても、そこから付加価値を提供することが難しく成ってしまうのです。したがって一枚ずつカードを切っていくことが最適な方法になります。

相手の要望については、推測するしかありません。会話を重ねながら相手の要望を探り、それらの優先順位を把握します。もちろん相手は、簡単には心の内を明かしません。相手の心のうちを読むには経験を積むしかありません。著者の経験上、有効なのは相手の業界や組織特有の価値観、判断基準から推測する方法です。たとえば公務員の場合、彼らが最も重視する判断基準は「ルールに基づいているか」であります。そのほか、「自分の責任にならない」ことも彼らにとって重要な要素になります。

交渉は互いの要望を実現するために譲歩し合うプロセスであるといます。そのため、自分と相手の要望と譲歩できるものが把握できていれば、交渉はスムーズに進むといいます。順序としては

1)自分の要望をリスト化し、優先順位を付ける

2)相手の要望とその優先順位を探ってリスト化する

3)相手の要望について譲歩できるものに印を打つ

4)自分の要望について、相手が譲歩しそうなものを探り、印を打つ

相手が自分の要望や譲歩の優先順位を付けられていない場合もあるが、そのときは会話を通して問いかけを重ねながら、確認していく作業が求められます。

■譲歩のカードを1枚ずつ切り合う

要望と譲歩できるものが把握できたら、あとは譲歩のカードの切り合いです。自分の要望を取り下げることも譲歩のひとつだし、相手の要望を承諾することも譲歩のひとつであります。交渉の原則は、相互に1枚ずつ譲歩のカードを切ることです。まずはこちらから先行して譲歩します。なお譲歩のカードを切る際は、互いに同数のカードを切ることが基本だが、カードの中身が釣り合っていない場合は、枚数で調整することも必要になってきます。

交渉をうまくまとめる秘訣は、自分が絶対に譲れないものを確保するために、その他の部分で大きな譲歩をすることです。「仮装の利益」で実際以上に大きな譲歩をしたように見せかけるのもいいです。具体的には、最初に「ふっかけて」からそれを下げたり、自分の要望をわざと多く設定したりすることが挙げられます。

また、相手が困る状況を設定し、相手に「それを取り除いて欲しい」という要望をもたせ、それを解消することで、相手に利益を与えたように見せる方法もあるといいます。ただし相手が困りすぎると交渉が決裂してしまうので要注意となります。

■交渉は自分との闘いだ

交渉には互いの「価値観」「思想・信条」「哲学的なもの」を入り込ませてはいけないといいます。交渉がまとまらなくなるからです。現在の日韓関係がその典型例といいます。歴史認識の違いという価値観・哲学的なものを交渉に持ち込むから、平行線の議論が延々と続いてしまうのです。

交渉とは自分との闘いであります。自分の獲得目標を最小限に絞り込めるかどうかで、交渉が成功するかどうかが決まります。世の中では、相手をガンガン押し込んでハードに交渉する人が交渉人として優れているようなイメージがあるが、そうではありません。

昔私もガンガン押し込む商談をしていました。しかし、結果は上手くいくこともあれば商談決裂など多くありました。そこから個人の価値観を捨て、本当に需要な事に意識を置いて相手の課題を整理することで交渉が上手くいくようになった経験があります。

■知事・市長時代に体験した前代未聞の交渉術

ここまで紹介した交渉術は、単なる机上の空論ではありません。著者が知事・市長時代に体験した交渉がその土台にあります。

たとえば大阪の「私立高校無償化」政策は、要素に分解することでまとめ上げたもです。大阪府知事に就任直後、予算の大胆な改革を行うにあたり職員の人件費をカットする際も、「絶対に譲れないライン」を設定し、そのラインが崩れるくらいなら交渉が決裂しても構わないと決めて挑んだといいます。

アメリカのドナルド・トランプ氏は交渉の名手といわれます。2020年1月のアメリカとイランのやり取りを一例に挙げよう。アメリカがイランに対する経済制裁を加え続けることで軍事的な小競り合いが続いたなか、ついにアメリカ軍兵士の死者が出ました。さらにアメリカ大使館が攻撃を受けたことで、トランプ氏はイランの革命防衛隊司令官を空爆によって殺害しました。これに憤ったイランの最高指導者は、アメリカへの報復を宣言したが、トランプ氏はイランが報復してくれば、さらにイランを攻撃すると宣言しました。そしてイランがイラク国内のアメリカの軍事施設に向けて弾道ミサイルを放ち、「アメリカ兵80人を殺害した」と宣言した。

いよいよアメリカとイランの全面戦争に突入か、と世界中に緊張が走った。だがトランプ氏が「実際にはアメリカ人に被害はなかった」とし、「これ以上は軍事力を使いたくない」と発言したことで、全面戦争は回避された。世間では非難一色のトランプ氏の行動だが、著者は「これはトランプ氏がアメリカとイランの要望・譲歩を極限まで整理したうえでの一手だった」といいます。

要するにトランプ氏にとって、「アメリカ国民の命」が絶対に譲れないラインであり、それ以外は譲歩したということだ。だからアメリカ軍施設がいくつか破壊されたことも、「アメリカ人兵士80名が死亡した。アメリカはイランのミサイル攻撃におじけついた」とイランが発表したことも許したのです。一方でイランも「アメリカに対する報復」以外は譲歩することにしたのだろう。じつはミサイル攻撃をする際、イランはアメリカ国民に死傷者が出ないように攻撃目標を明らかにし、アメリカ兵が逃げられる時間的余裕を設けていたのです。

こうして絶対に譲れないものと、譲歩できるものを明確にシビアに整理することで、どちらも「やるときは、やる」というメッセージを世界に示すことができたのです。

■今後やるべきこと

1)譲歩するときは、1枚ずつきる

交渉のタイミングでは、自分が持っている武器を整理しておく

今でいえば、広告代行の他にも制作や、CRM分野、オンライン化、インハウス化など様々な武器があるわけで固定概念にとらわれることなく、相手を見極めていきます。

2)問題点の整理を俯瞰的にみる

課題に対しての解決策の交渉をするにあたり、交渉に乗らなかった時の痛みの部分まで交渉の前に準備しておく。

3)譲れるラインの明確化

交渉をするにあたってはWinWinでなければいけないので、まずはどこまで譲れる範囲なのかをはっきりさせておきます。たとえば、契約期間、代行費の%の提示、制作費のダンピングなど、どこまで譲ってもいいのか、この契約の未来の利益はいくらなのかなど、目先の事だけではなく先にどのような利益があるかを分析しながら商談をすすめていきます。