見出し画像

そらいろの心で

私が今回取り上げる絵本は「そらいろのたね(中川李枝子・大村百合子 作)」である。この作品はかの有名な「ぐりとぐら」シリーズを手掛けた作者による絵本であり、可愛らしい色合いの挿絵が特徴的である。私がこの絵本に出会ったのは小学校低学年のとき。母が絵本好きの私のために買ってきてくれた。当時ぐりとぐらシリーズがイラストを含め大好きだった私は、絵本を手にするなり大はしゃぎしながら読み進めていったのをよく覚えている。その時はただ挿絵やキャラクターが親しみやすいことが理由でこの作品を気に入っていたのだが、今改めて読み返してみるとまた違った魅力を見出すことができた。
簡単にあらすじを紹介する。主人公の少年ゆうじが野原で宝物の模型飛行機を飛ばしているとそこにきつねがやってきて、彼の宝物である「そらいろのたね」とゆうじの模型飛行機を交換してほしいと声をかける。きつねの提案を快諾したゆうじは「そらいろのたね」を庭に埋めることにした。すると次の日埋めた場所から小さなそらいろの家が生えてきたではないか。丹精こめて育てていくとみるみるうちに家は大きくなり、街中の子どもや動物たちが遊びに来るようになった。その様子を見て羨ましくなったきつねはゆうじの元へ行き、模型飛行機は返すからこの家も自分に返すように言い、家の窓や戸の鍵を閉めて独り占めしてしまった。その途端そらいろの家は急激に巨大化した後に弾けてなくなり、失神したきつねだけがひとり横たわっていた。
私が思うこの作品の面白さは、種を植えると家が生えてくるというなんとも現実離れしたストーリーでありながら登場人物の行動は人間らしさに溢れているという点だ。作中できつねはゆうじと宝物を交換し合うも、後からゆうじの持つそらいろの家の方が魅力的に感じ、返してほしいと頼んだ。そうして自分の手中に収めるやいなや誰にも触れられないようにと独占する。このように自分のことばかり考えて物を独り占めしようとする考えは誰の心にもあると思う。しかし独りよがりの行動をとると、この作品の最後のようにすべてを失ってしまうという場合がほとんどだ。
また、ゆうじの優しさや人柄の良さがストーリーは勿論のこと、挿絵からも伝わってくるという点も魅力の一つだと感じる。そらいろの家が大きく成長したことは、そこまで愛情を注いで育てたという何よりの証明であるし、たくさんの友達が訪ねてきたことからもゆうじの人望を伺える。実際にこの絵本を読んでもらうとわかると思うのだが、柔らかいタッチで淡い色合いで描かれた絵が優しい雰囲気をより際立たせている。
このように大人になった今だからこそ感じ取ることのできる魅力が多くあるため私はこの絵本が大好きなのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?