観戦記者:八木  #指す将順位戦6th A級2組 面妖流さんvsここのかさん戦観戦記

 本日は6/5(土)14時から行われた指す将順位戦6th A級2組面妖流さんvsここのかさん戦をお送りする。面妖流さんの観戦記依頼を受け、その後両対局者の了解が得られたため観戦記を書く運びとなった。両者にこの場を借りて感謝申し上げる。

 対局は第42期棋聖戦五番勝負が行われる木更津市からもインターネット環境があれば接続できる将棋倶楽部24大阪道場で行われた。持ち時間は一人15分その後1手60秒であり、観測範囲内であれば面妖流さんとここのかさんは初対局である。

 面妖流さん(以下面妖さんとお呼びする)は指す将順位戦に長く参加しておるベテランであり環境にだいぶ慣れている気配。一方のここのかさんは指す将順位戦初参加であり、緊張感とやる気十分といったところ。

 対局はほとんど時間通りに始まり、先手面妖さん、後手ここのかさんとなった。開始1分に15手進み、この局面である。後手の中飛車に先手がどう対応するか、といったところで先手は袖飛車の意向を明示。観戦記者垂涎の一手である。2枚銀戦法と袖飛車の両面作戦であると識者の声。

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55の歩をすでに守れる雰囲気がしておらず、若干の誤算があったか。19手目に55の歩を先手がかすめとってしまった。

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この状態で、一歩得であるならば、先手は局面を押さえたい所である。後手はどうやって先行していくか。

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進んで28手目の局面であるが、後手の金が美濃囲いに連結しなければ袖飛車としては硬さ負けすることはなく、申し分ないといったところか。後手としては32の金は先手の飛車を止めることに本人生をささげることが重要。32金のままでは飛車が動きづらく、また33歩は打ちたくない。そこで角を表に出して金は33に。下記の図34手目である。

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改めてみると、先手の攻めがなかなか難しくなっているようである。後手も一歩は手に持っているので、不満はなく、先手としては王様の小瓶に圧迫感がある。ただ、金が上ずっているので、先手としてはその隙間を何とか狙いたい。端角である。

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観戦しているときには、これはとりあえずほっておいて、小瓶を狙っていけばよいかとも思っておった。例えば55銀から66歩であったり56歩を狙う手である。ただ、冷静にここで後手は相手の手に応じて32飛車としておく。

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これは、もしかすると千日手ではないのか、と控室では一名だけ沸き立つ。記者本人である。賛同は得られなかった。後手はまた、中飛車に戻し、次の先手の手が若干の危険な香りを秘めていた。

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これには、55銀があるのでは?と識者。55銀に47銀では単純に56歩が厳しいのではないか。一方で、46歩が守れないのであるとなかなか先手も怪しいというわけだ。なるほどね。そのまま使わせていただくこととした。本譜もその通りに進み(さすが)下記の図である。

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58銀や飛車ではなかなかであり、先手は48金を選択するものの、57歩成同金と進んだ局面で、ご覧の皆様に思い浮かんだ着手は何だろうか。

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さて、ここで、後手の手がしなった。もしかしたらしなったのはマウスをたたく指だったかもしれないし、タブレットをたたく指だったかもしれない。これは個人的に言えば負けても指したい手である。

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がっちゃんと、音がしそうである。がっちゃんではないな、ぎゃぎゃーんとかであろうか、決してパシッという乾いた音ではない。
同歩は57飛車成。同銀または同金は同歩。王様の小瓶を直撃である。これは先手も参ったかというところ。同金、同銀、65歩と進む。

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65歩は記者の第一感であったが識者には評判が悪く。なぜかはこの後の展開でわかることになろう。まず、先手は飛車の頭をたたく。3度ほど。

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ここで、決断の時である。先手からの54歩は飛車は取られるものの、後手の美濃はまだ生きている。であるならば66歩と銀のほうをとってみるとどうか。この状態での記者の読みは66歩(銀とる)54歩(飛車とる)67歩成同玉88角成同飛車のこの局面。

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何かありそうで、何かなさそうな局面、手番が後手であるので、王様の頭に歩をたたいてどうか、というところ。しかし、これを上回る手を後手は着手する。やはり銀と飛車の取り合いまで進むが、そのあとの手に記者は感心した。

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さっきまでに物足りなかった局面に、華が咲いたようだ。拠点が残ってこれは大橋拠点である。飛車の横効きを止める手でないと防げないものの、そうすると88角成に同玉しか選べないので今度の想像図は下記のとおりである。

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守りづらい局面であるがどうであろうか。後手は違う手を選んでいるけれども。それが勝負というものである。先手は本譜では銀を引き、駒を使わない方針。歩成同銀88角成同玉までは一緒であるが、そこで47角と打つ。厳しそうに見える角打ちである。

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ここで先手は長孝に沈む。控室では、飛車と金を両方守る方法はなく、後手に傾いたという評判である。また、識者は飛車をとらせておいて、第二戦に持ち込む方針はどうか、ということであった。そして、先手の次の手は、58銀打。

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 攻め駒の大駒は持っているし飛車をとるならば金が取れる。ここら辺が本局の分岐点であったかと思う。後手は金の価値を大事にした、同金である。金は命よりも重い。

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先手は同飛車と応じる。

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 こうなってくると、単にとられる飛車が交換に回った格好。ただ、飛車金交換後の形は先手が硬かったか。これを同角成は同金や同銀で形がいい。味付けとして銀に歩をたたきつける。ただここで、先手の手裏剣が後手の斎藤道三…いや美濃囲いを襲う。46歩に42歩である。

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一直線に行くならば、先に後手にわかりやすい詰めろがかかると控室。

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であるので、これは金を逃げるしかなかったが、先手は金を打ち込み猛追。そして後手の要の66歩をとる時間が来た。

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第二ラウンドの始まりである。こうなるともう勝負はわからなくなってきた。

観戦の最中ではとりあえず局面図を少なくしようと思っていたのであるが、この止め時が難しい。本来であれば観戦記を書きながら観戦しようと思っていたのであるけれども熱が入ると、24のチャット欄に入りびたりである。初めて見られた方はうるさいなーとか思っていただろうか。

閑話休題。さて局面は進み、先手は待望の53歩成が入り、後手は竜が作れたもののなかなか難しい状況である。控室では53歩成に代えて67歩などで銀を取りに行くのではないかという話も出たが、36歩という返し技があるそうな、なるほど。

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観戦記者から64桂馬があるのではないか、という指摘があった、いや、指摘をした。ちらっとみた感想戦でも先手もいたそうだと思っていたようである。76桂馬を防ぐ手立てがなかなかない。2手指すのであるならば龍の効きを止め、76歩をカバーする、であるけれどもさてはて。本譜は竜の頭を叩いてから、確実に67金。感触はあまりよろしくなかった様子。そのまま進んで下記の図。

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71角から詰んでいたと思い込んでいた記者。または67金ととれば足りるのではないか。念のため考えてみる。

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さて98手目に対して、先手は竜を遮断する。39歩。一歩後ろに下がったあとに金でがっつりと守る。

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ここら辺から、先手玉には、38銀成から、同玉には47金37銀打のような手がちらついてくる。つまり駒をあまり渡してはいけない雰囲気である。後手は時間が足りず78銀成同玉として、19竜と香車をとる。そして後手陣を荒らして生産する。そして下記の図を迎えた。

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ここで識者「あれ?詰んでません?」という悲鳴。というのも、67銀から詰んでいるのではないかということである。すなわち、67銀88玉79銀!98玉97香車同玉85桂馬86玉に最後の76銀成!が強烈である。

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本当に将棋って恐ろしいですよね。本譜では、67銀の後に先逃げの93玉に、85銀がぴったり。詰めろが消えている。

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93玉と85銀がそれこそ命運をかけた最後のやりとりである。その後、後手が先手玉に迫るも前に効く駒がそれこそ1枚足りず、先手が正確に寄せ切った。

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 見ているこちらがどきどきする熱戦でござった。
 お互いの工夫に後手の花火が散るような手から、一時期は後手が主導権を握るも、先手の頑強な守りから要の歩をとり第二ラウンドへ。時間のない中の読みが難しい状況下で最後の最後の2手で決着するという劇的な対局であった。みなさま、お疲れさまでした。

 局後、お花摘みを我慢していた記者は雪隠に駆け込んだものの、その気分は爽やかであった(了)



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