観戦記者:八木⑦ #指す将順位戦6th B級3組 ネブラスカさんvsののののさん戦観戦記

 ある対局の観戦後に対局者のののののののさんから観戦記依頼があり、相手対局者のネブラスカさんの了解が得られたようなので観戦記をここに記す。この場を借りて観戦記を書くことを快諾いただいた両対局者には感謝いたしたい。

 対局をご覧になっていないかたのためにどのような結果になるかは伏せて書き記すという趣向をしめす。記者はどちらかというと中盤入り口でチラ見、後半終盤に差し掛かるあたりで観戦を始めていたのだけれども最後まで目が離せなかった。

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 先手▲ネブラスカさん後手△のののののさんである。まず横歩の基本形となる。指す将順位戦のすごいところはこういう対局でも横歩が登場するという点である。なかなか激しくなり、勝敗が安定しないため、こういう勝敗の場においては少なくなる傾向にあると記者が感じている。

 先手ネブラスカさんは囲碁の世界から将棋の世界にやってきたファイターであり、指す将順位戦1stから6thまでの皆勤賞である。1st:B級4組 6-3, 2nd:B級3組 5-6, 3rd:B級3組 5-6, 4th:B級3組 4-7(下入替→降組), 5th:B級4組 8-3(昇組)というわけで主戦場に返り咲いたベテランである。6thでは対局前2-1であり昇級戦線に食い込めるか、といったところである。あのやきそばさんに勝てる実力者である。
 後手のののさんも長く2ndから6thまで連続の皆勤賞である。現在ではずーののANNのパーソナリティーでおなじみである。火曜日21時は#ずーののANNをよろしくする。

2nd:B級4組 9-2(昇組), 3rd:B級3組 3-8(下入替→降組), 4th:B級4組 7-4(上入替→昇組), 5th:B級3組 7-4というわけで6thで相まみえることとなった。
 なお、お気づきの読者もおるかもしれないけれども4thの入れ替え戦で両者は対局がありその時はののさんに軍配が上がっている。また3rdではのさんにこれもまた勝ちがあり、指す将的にはのののさんからみて2-0である。ネブラスカさんはなんとかやりかえせるか。
 さて局面は進み、まず後手から先につっかけた。

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とりあえずほっておく手はない。▲同歩はこうすすむところで、後手は急いで角交換をすると▲8二角があるので、△8四飛と飛車を転回させておく。先手も▲4七銀として、不安定な▲3八金をささえる。先手は歩を得しているので慌てる必要はなく、慌てるのは後手のほうだと。ここの構え方は悠然としてすばらしい。後手は守りは飽和しているのでどのように攻めの構図を描くか。次の図である。

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△1五歩として桂馬が跳んだ分、弱体化している端を狙う。欲をかくならば、▲1六香車とつりあげておいて角交換後、筋違いに角を打ち香車取りを狙う筋である。ただ現状後手は歩が足りない。▲同歩△1七歩としたところで先手から角を交換する。そして先手は手を戻す。ここで後手の構想であろう角を打つ。

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まずは飛車取りであるので何かをしなければならない。寄るところであるけれども、そこで△7四歩として歩を狙っていく。先手は流れに逆らわず▲同歩とし、△同飛車である。この時、▲7八金が浮いているのがポイントであり、やむをえず▲7七歩として次の図である。

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記者はここですぐさま△1六歩があろうかと思っていた。先手から動く順があるかどうかわからなかったためである。あきらめて▲同香△同角としたときに何か嫌な順があったのだろうか。

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ぱっと見は▲8三角からの馬作成。後手は香車は取得したものの歩がないため、こういう乱打戦では怪しいと思ったのだろうか。先手は歩得はするも打つ場所がないので、後手からは例えば飛車交換に持ち込むなどを目標にすればよいのかもしれない。これもまたアナザーワールドである。
 後手の選択は飛車を引く。△7二飛。馬を作らせない方針である。

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ここで▲8三角には飛車を浮いておいてなんとか。ただここから先手の反撃の構想が光る。自玉の頭から持ち歩を活用するためには歩を伸ばす。これがわかりやすい。後手に香車をとられている間にどこまで手が伸びていくかの勝負である。

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進んで第7図は後手の飛車への働きかけに浮いてそれを香車で支えた形となったが、これは若干危険であった。すなわち、ホオリコム手がある。

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単にとることになると、例えば△同銀▲同歩成△同金▲同飛車成でこれはさすがに先手がよさそうに見える。

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ただ、これを受けるのは至難の業である。持ち後まもなく、△3一銀と引いてもおかわりがなくならない。後手はここから防御の手をひねり出していく。第8図からまず△8六歩とする。慌てない先手は▲同歩とするもすかさず△同香車として、▲同角成として△5二歩である。

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根性の入った受けである。
ただ、先手はさらに冷静であり、▲8五飛車。

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控室では先手良しの声が聞こえてきそうであった。
局面は進んで第11図。控室でも指摘のあった▲4三香。馬の利きもあるのである意味”決め手級”である。

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こういうとき、後手は開き直る。
△3七馬とする。
こういうときの開き直ったののののさんはハートが強い。しかし、その勢いに押されたか、先手に若干の動揺が見られたか。
▲2一飛車。
本局の変異点とも取れるように記者は感じた。

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単純に金をとっておいて、その後にこの飛車であれば王様のクリンチをよけられていたものの、このタイミングでは△3二玉が慌てる形である。それこそ▲1一飛車であったりしても△3二玉が冷静に対処できそうである。
そう、後手は△3二玉。

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先手としてはこのタイミングではクールになれない。どちらかというとセクシーに悶えてしまう。秒読みを無心で見つめてしまうタイミングとしてはこういうときなのかもしれない。
▲4二香車成としても、△2一玉として飛車をもたれると自玉の心配をしなければならなくなる。止むを得ない▲1一飛車成。
後手に手番がまわってきたが、この次の後手の指し手が老獪である。そういえば老獪ってどんな意味でしたっけ。

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詰将棋を日ごろ鍛えている後手はこっそり桂馬を設置する。
これはなんと詰めろ。相手が慌てているこのタイミングであれば発揮する桂馬である。先手が冷静であればここで▲6九玉などとして入城することも考えられたはずである。ただ、先手としては▲3六歩が生き残っており、▲5三歩成から道が開ける可能性もあり、ここは突っ込んでいきたいところでもある。

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突っ込んでいく。
もしもの話ではあるのだけれども、
▲5三金が記者の第一感である。

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逃げるのと同歩はわかりやすいので△同銀とするよりないが。

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まだ夢があったかもしれない。本譜は単純に▲5三歩成としたため、銀と歩のガードが固く、士気が尽き果てたようにも思える。

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劇的な逆転劇でもって後手が勝利をつかんだ。
いやはや、将棋は本当に一手で手がひっくり返ることもある。万全に勝つのも一局ではあるのだけれども、記者個人としては自分を信じて詰ましに行くことを好むので熱い戦いに一人興奮していた。
両対局者ともお疲れさまでした。(了)

<おまけ>

つまりですね。下記の局面で。

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やはり輝く▲5三金ですか。

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同歩は詰みそう。同銀同歩成同玉の後…みなさまもお考え遊ばせ。
ご指摘ありがとうございます。

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