ルヴァン杯決勝での川崎・谷口選手の退場について「残念だった」「厳しい」「気の毒」などと言うのはナンセンスだと言う話
ルヴァン杯決勝での川崎・谷口選手退場の経緯
去る2019/10/26に行われたルヴァン杯決勝において、延長前半6分、ボールを受けて川崎ゴールに迫る札幌チャナティップ選手を谷口選手が止めた場面で笛が吹かれる。
主審が提示したカードはイエロー。札幌にはゴール前絶好の位置でフリーキックが与えられ準備が進められる。
そんな中、主審が耳に手をあてVARから介入があった素振りを見せ、VARアクションを行いオンフィールドレビュー(OFR)に向かう。
暫く何があったのか不明だったが、OFRから戻った主審はVARで確認したとのアクションと共に谷口選手にレッドカードを提示する。谷口選手は退場となり川崎が数的不利となった中、その後のフリーキックを福森選手が直接決め、札幌が勝ち越しに成功する。
J3+サイト管理人(じじ氏)の判定(VAR)批判
http://llabtooflatot.blog.fc2.com/blog-entry-11199.html
上記において、じじ氏は以下の様に言及されている。
残念だったのは延長戦の前半のDF谷口彰のレッドカードになる。VARが導入されており、ビデオで確認した末のレッドカードだったので「レッドカードが妥当なのだろう。」と思うが厳しいレッドカードだった。イエローカードのままであったとしても札幌側の選手やスタッフは誰も文句を言わなかったはず。VARがなかったらそのままイエローカードで試合は進んだだろう。「VARがあることが仇になった。」と言える。
川崎Fにとって気の毒なレッドカードになったがそこから10人で同点に追いついたのはさすがだった。
レッドカードの判定ならびにVARのあり方に関してはいろいろと批判をされることになると思うが試合自体はエキサイティングで面白かった。
谷口選手の退場の判定は「厳しいレッドカード」であり「川崎Fにとって気の毒」であり「VARがあることが仇になった」らしい。
また「レッドカードの判定ならびにVARのあり方に関してはいろいろと批判されることになうと思う」と推察されている。
また何故か「イエローカードのままであったとしても札幌側の選手やスタッフは誰も文句は言わなかったはず」らしい。
とんでもない暴論だ。
そもそもVARは以下の要件でのみ介入する。
・得点の有無
・PKの有無
・レッドカードに相当する行為かどうか(2枚目のイエローカードでレッドカードとなる場合には適用されない)
・誤った対象者への退場・警告
なおかつ「確実かつ明白な誤審」または「重大な見逃し」の疑いがある場合のみ介入する。
あの場面でVARの介入があったのであれば「レッドカードに相当する行為かどうか」の「確実かつ明白な誤審」しかあり得ない。
また、「VAR全員」が誤審だと考えなければ介入されない。解釈によって「誤審」「問題無し」と意見が割れる様な場合は介入されない。
要するにVARが介入した時点で「レッドカードが妥当でありイエローカード判定は誤りである」と認定されていた事になる。
また、その後主審が判定を変更した事でも明らかな様に、「最終決定権を持つ主審も誤審である」と認めた結果レッドカードとなった。
(当然だがVARが誤審だとして介入しても主審が最終判断するのでVAR判定を採用しない事も可能)
「VARがなかったら」との仮定も意味が無い。VARが実施されているのは試合開始前から分かり切っている。
「VARが実施されていること」は当然ながら川崎側も札幌側も知っているので、VARで誤審と認定される判定があったにもかかわらず何らアクションが無かったら川崎だろうと札幌だろうと文句を言うはずだと思われる。
あの試合を見ていた一般視聴者で「DOGSOであるはずだ」と認識する人間は多くないかもしれないが、サッカーに直接かかわっている選手やスタッフの中で「あれはDOGSOではないのか」と考え疑問に思う、文句を言う人間がゼロであろうはずがない。また、それはVAR実施有無には関係ない。
何故「札幌側の選手やスタッフは誰も文句は言わなかったはず」と言い切れるのか、私には到底理解できない。
DOGSOの4要素
「DOGSO(決定的な得点の機会の阻止)」については競技規則に以下の説明がある。
JFAB Laws of the Game / P111
https://www.jfa.jp/documents/pdf/soccer/lawsofthegame_201920.pdf
得点、または、決定的な得点の機会の阻止
競技者が、ハンドの反則により、相手チームの得点、または、決定的な得点の機会を阻止した場合、反則が起きた場所にかかわらず、その競技者は退場を命じられる。
競技者が相手競技者に対して反則を犯し、相手競技者の決定的な得点の機会を阻止し、主審がペナルティーキックを与えた場合、その反則がボールをプレーしようと試みて犯された反則だった場合、反則を犯した競技者は警告される。それ以外のあらゆる状況(押さえる、引っぱる、押す、または、ボールをプレーする可能性がないなど)においては、反則を犯した競技者は退場させられなければならない。
競技者、退場となった競技者、交代要員または交代して退いた競技者が主審から必要な承認を得ることなく競技のフィールドに入り、プレーまたは相手競技者を妨害し、相手チームの得点あるいは決定的な得点の機会を阻止した場合、退場の対象となる反則を犯したことになる。
次の状況を考慮に入れなければならない:
・反則とゴールとの距離
・プレーの方向
・ボールをキープできる、または、コントロールできる可能性
・守備側競技者の位置と数
少し分かり難いが、ハンドで得点・決定機を阻止した場合は即退場、PKにならないケースで決定的な得点の機会を阻止した場合では上記4要素を満たした場合「反則を犯した競技者は退場させられなければならない」と言える。
余談だが交代で退いている選手まで判定の対象になっているのは普段あまり認識されない部分だ。
谷口選手のケースはどうだったか
以下の記事などに詳しく記載されている。
https://spaia.jp/column/soccer/jleague/8796
https://sakanowa.jp/topics/23947
恐らく主審はDOGSO4要素のいずれかを満たしていないと考えイエローカードを出したと思われるが、リプレイを見れば上記4要素を完全に満たしているのが分かる。その状況で主審はファールと判定したので、結局DOGSOとなりレッドカードを出さなければ誤審である。
即ち「VARは正しく機能し、誤審を防いだ」と言える。
VAR介入によって正しい判定になった事が賞賛されることはあっても批判されるべきではなく、VARのあり方まで疑問視されるような事案でもない。
DOGSOに該当するかどうかにおいて「厳しい判定かどうか」「相手チームが文句を言うかどうか」は一切関係が無い。
今回のじじ氏の発言は(じじ氏も決勝戦開始前からVARが実施されているのは当然知っているはずなので)甚だ見当違いの批判であると言える。
来季J1でのVAR実施に向けて気を付けたいこと
この様に競技規則を正しく理解していないと見当違いな批判をしがちであるし、VAR介入により判定が訂正されるケースでは物議を醸しやすいのは確かである。
気を付けなければならないのは審判は「厳しいかどうか」「気の毒かどうか」等と言う「心情」とは一切無関係に判定しているし、そうすべきでもある。
逆に「これでファールは厳しいな」「これでファールは気の毒だな」等で判定がブレる様では話にならない。
特にDOGSOに関しては明確な基準があり、それを満たせば自動的に退場となるのはこれまでの「Jリーグジャッジリプレイ」等でも繰り返し説明されている。
従って今回のルヴァン杯決勝での川崎・谷口選手の退場について「残念だった」「厳しい」「気の毒」などと言うのは極めてナンセンスである。
今季発生したいくつかの大きな誤審等により機運が高まり、Jリーグは2021年からの導入予定を前倒しし来季2020年よりJ1でのVAR導入を決定している。
これを機に、判定について競技規則の確認、運用事例の確認、VARについての該当などを確認し、判定について改めて勉強しなおしたいところだ。
補足
後日本件について「Jリーグジャッジリプレイ番外編」が放送され、該当のVAR介入、OFR、レッドカードへの変更について詳しく解説されている。それを見ても、やはり「残念だ」「厳しい」「気の毒」等は現場レベルでその様に思えても「ルール上は問題ない」「正しい判定に修正された」と言えるのが確認された。
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