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今夜くらいは I don't need you 〜学校エッセイ29〜

「孤独を要する寂しがり屋」と占われた、
と昔言ったら、友人がプッ、と吹き出した。

教師の頃、
「ひとりになりたい‼︎」
とモーレツに思うことがあった。
生徒や仕事は好きなんだけれど、
教師の自分と、人間の自分の境目がわからなくなる時があったのだ。
運動部の顧問を降りて休日を確保できるようになってからも、
その感じは続いた。

生徒にも、
「おかーさんもおとーさんも先生も、
ほっといて‼︎」
と叫びたい日はあるだろうし、
親にもあるだろう。

私はそんな時、たまに、自宅から1時間くらいで行ける、お気に入りのホテルに泊まった。
何軒かレパートリーがある。
客室で海を見ながら読書できる所、
港周りを散策し、一階で美味しいナポリタン(トマトソーススパゲッティに近い)を食べられる所。
今までの人生で一回きりのルームサービスで、
夜にそのパスタを注文した。
匂いが暫く部屋に充満した。

仕事を辞めても漂泊の思いやまず、
貯金からお金を割いて他県へ旅に出た。
身の丈に合う一泊5,000円程度の、
駅近のビジネスホテル(酷暑だし、「適温」でも歩きたくない)を探す。
食事は朝しかつかない。
その県にしかないハンバーグ屋さんでランチを食べ、
夜は鰻の半身入ったお弁当(年を重ねたら、いいものを少量食べたい胃になってきた)を客室で。

清潔なビジネスホテル。
ロビーにはお茶のサービス、
自由に読める新聞や漫画、
アメニティは「必要な分をお持ち下さい」。
部屋にはテレビもポットもドライヤーも石鹸類もある。
アイロンやスマホ充電器は内線電話をかければ借りられる。
スーツケースなんか、コロコロが付いているから自分で運べる。
入浴剤とパックはコンビニで調達してきたけれど、
それもアメニティコーナーにあった。

今頃まだ働いていて、
夕飯はコンビニ弁当であろう夫。
次の2人での旅行は、
ビジネスホテルを使ってもいいな。

必要なものがあって、不必要なものがない。
それを突き詰めたのが、小綺麗なビジネスホテルだと思う。

母の伯母が、いわゆるお金持ちだった。
丘の上の高級住宅街に住み、
お庭には動物園のみたいな檻があり、
セントバーナードが2匹(頭?)。
ゴブラン織りのカーテン、
長ーい、楕円形の大理石テーブル、
たくさん並んだ木目調の、背もたれが高く反り返った椅子。

大人どうしが喋っている隙に妹とコッソリ探検したら、
「貰い物」の箱がたくさん積んである部屋があった。
デパートの包装紙に包まれているそれらは、
「おチューゲン」「おセーボ」と言うらしかった。

今は、お金持ちほど家がスッキリしているのではないか。
年賀状を含めた季節のご挨拶や贈答のしきたりも(私の周りでは)変容しているように思う。

つい最近まで両親は、
父とその妻(私の母)、父の仕事仲間とその奥様たちで、
旅行サークルのようなものを作ってあちこちに行っていた。
退職後の娯楽。
メンバーの高齢化で最近は専ら食事会のようだが。
その中に、
「旅先の朝食はいつもパスする」
ご夫婦がいたそうだ。
いいホテルに泊まった時は、朝食も美味しいのに。
でも確かに、朝のビュッフェを食べすぎて、
以降に差し支えることもある。
朝食だけ抜きで少しお値引きします、
というようなプランがあれば、
私も頼むかも。
今回は夕食なしのビジネスホテルだから、
朝のバイキングを多めにいただいて、
ブランチにするけれど。

働いていた頃の私は、
公も私も充実させなきゃ病で、
いつも疲れていた。
今思えばもう少しゆっくり過ごせばよかったのにそれに気づけず、
かかりつけの医師に言った。
「先生、歳をとるごとに、
私、体力的に、もっとしんどくなるのかな」
先生は答えた。
「そうね。でも、本当にやりたいことだけできれば、いいんじゃないかしら。そう思わない?」

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