―EASTLOOP物語 第6話―いよいよ本格始動へ
構想だけは次々と進めることができましたが、肝心の被災地へのパイプは閉ざされたままでした。
当たり前ですがこのままでは、何もできません。
私は、勇気を振り絞って
もう一度、遠野のNPOを訪ねることにしました。
最初に訪問してから一ヵ月近くが経った、5月13日のことです。
前回訪問時のプレゼンテーションを再度行うつもりでした。
私たちの考えてることが少しでも伝われば、前に進むのではないかと。
ですが会うやいなや、NPO代表の菊池さんが、堰を切ったように私に訴えてきたのです。
「以前とは状況が全く異なってきました。
被災者の人たちは、避難所の外に出て
がれきの山を見ただけで気分が悪くなると言って
避難所に籠ったままの人も多いです。
一日中、何もすることがなく、このままだと二次被害の恐れもあります」
リアルな現地の様子を語ってくれました。
菊池さんは、震災後遠野の後方支援部隊をまとめ、県内外とのやり取りを行っている復興事業の代表の一人として奔走されていました。
それならば、被災した人とつないでくれるかもしれない。
「で、以前お目にかかった時にお話ししたプロジェクトなのですが、
何らかの形で被災地の人とつないでいただけたらと思っているのですが」
菊池さんからは意外な言葉が返ってきました。
「それならば、うちのNPOがこのプロジェクトの被災地のハブとなる役割を引き受けましょう」
えっ!?
突然の申し入れにこちらの方が戸惑ってしまいました。
お目にかかったのは二度目。しかも一度目は覚えていない様子。
それなのに、私たちを信用しても良いということなのだろうか。
私たちも、菊池さんたちに現地のことをお任せしても良いのだろうか。
偶然にも菊池さんはソーシャルビジネスの研究・実践されている岩手の第一人者でした。
NPO法人遠野山・里・暮らしネットワークの代表で、遠野に根差して地方創生に取り組んでこられた方だったのです。
ものすごく大きな期待と、不安が交差しました。
現地の事情は特殊でした。
まず、ライフラインとして優先すべきことがたくさんあるから
医療などの関係者以外の外部の人間が被災地に自由に入るのは難しいし、ボランティアの受け入れが始まったばかり。
そして、被災地の人たちはとてもセンシティブな状態であることには変わりません。
外部の人間が、現地の事情が分からず土足で踏み込んでいっても何もプラスには働かない。
その点、様々な支援を行ってきたNPOネットワークを活用すれば、編み手さんたちも見つかる可能性が高い。
なるほど。
途上国のフェアトレード現場ととても似ているなと感じました。
現地には現地のルールがある、しきたりもある。
良かれと思っても、現地の人にとって迷惑なこともたくさんある。
しかも、今回は東日本大震災の被災地。
私たちが行うべきことは、目的のために現地の人を混乱させるのではなく
被災した人たちに寄り添い支援すること。
ならば手段はフレキシブルに考えようと。
プロジェクトを進めるうえで大切にしたことの3つ目は
③「信じること」
信じてみよう、とことん信じてみよう。
目指すものが同じであれば、その気持ちが伝わった時に何かが生まれるはず。
すべてが初めてのことならば
上手くいかなければ、お互いが補い合えばよいのではないだろうか。
「菊池さん、ありがとうございます。
ただ、今回のプロジェクトは編み物なので編み物を教えることができる人が必要なんです」
「わかった」
といって菊池さんが連れて行ってくれたのは手芸店でした。
そこのオーナーのSさんを紹介してくれたのです。
東日本大震災の非常事態の中、手芸店は開店休業状態でした。
手芸などの趣味は、日常の生活が整って初めて手にするものです。
そんなお店の経営も厳しいなか、今回のプロジェクトのことをお願いしても良いものだろうか
恐る恐るSさんにプロジェクトのことを伝え、そして厚かましいとは思うが編み方や商品の制作方法を教えてもらえないだろうかとお願いしました。
「ありがとうございます。
私は手芸店を営んでいますけど、この震災の後役に立つことが何もなくてとても辛かったのです。
でも皆さんに編み物を教えて、被災した人の力になれるのであれば。
これほど嬉しいことはありません」
彼女は大粒の涙をこぼして、協力を快諾してくれました。
未曽有の災害を目の当たりにして、誰しもが何か力になりたいと思っていたのです。
そうした人たちをつなぐことも、このプロジェクトの大きな意味になるはず。
そう思うと
なんとしても成功させねばと、心が激しく燃えました。
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