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「物語の中のことば」マイブラザー

生活と文化の研究誌『報徳』に連載している「物語の中のことば」。
ふだん児童文学にかかわりのない読者層の月刊誌ですが、大人が読んでも子どもが読んでも面白い児童文学を紹介し、ご自身だけでなく、お子さんやお孫さんに手渡してもらえたら……。
そんな願いを込めてお届けします。

2024(令和6)年9月号
「物語の中のことば」

 そうだ。もう父さんのせいにするのはやめよう。
 自分はまだ中学生だ。
 エリートだとか、そうじゃないとかにとらわれずに、どんな道に進むか、なにをしたいのか、自由に選んでいいのだ。

『マイブラザー』より

 主人公は中二の海斗。優秀な研究者である自慢の父が、会社をやめ、いきなり家族を置いてパン屋の修行に行ってしまいます。未来への希望を見出せず、エリート中学への受験もやめてしまった海斗は、ひたすら五歳の弟のイクメンライフに没頭。「弟の世話をする」を言い訳に、将来の夢も、友だちとの付き合いも、投げ出したのです。
 そんな海斗の前に、保育園時代からの幼馴染み五人が偶然居合わせることに……。それぞれに悩みを抱えつつも、妙なプライドで素直になれない五人。それでも、もがき苦しみ、それぞれが自分の気持ちと向き合おうとします。とはいえ「十四歳たちの今は、滑稽でちょっと残念だけども愛おしい。笑って泣ける成長小説!」とあるように、物語は終始、軽快に語られます。
 冒頭の言葉は、その過程で海斗が発した言葉です。
 人のせいにしない。自分で決める。人生は自由だ――。それは十四歳だけの話ではありません。私たち大人だって、いくつになっても、もがき苦しみ、自分の道を模索し続けます。大人になっても自由に選んでいいんだよ!
 児童文学を読みながら、大人の私は心が解き放たれるような、一歩踏み出す勇気をもらったような、そんな気持ちになるのです。

小川雅子(児童文学作家)

【紹介した本】
『マイブラザー』草野たき著(ポプラ社・2021年刊)

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